第一章 007 食事
ツルを置き、一息つく。
これでシェルターを作るのに必要なものがすべてそろった。
二つ並んだ木に棒を一メートルほどの高さにツルで括り付ける。
棒は運よくそこら中に転がっており拾い集めるのに時間がかかることはない。
括り付けた棒に寄りかかる形で並べ、倒れたりしないように大き目の石で固定する。
それが終わったら、そこら中にある落ち葉と枝で固定する。
昨日作ったシェルターとほぼ同じだが、生えている木を利用していることと、横になれるスペースがあることから今回の物のほうが出来がいいのは一目見てわかった。
シェルターの中に苔を敷き詰めその上にありったけの落ち葉をかき集める。
これで今晩は寒さに震えずに済みそうだ。
落ち葉をかき集めたおかげかシェルター前の落ち葉がなくなり、代わりに土が露出していた。
その場を太めの木の棒で地面に突き立て穴を掘りはじめる。
穴というより、凹みのようなスペースを作り上げると沢にある石を穴に並べてかまどのようなものを作る。
これで火を焚いても燃え移る危険性は少なくなるだろう。
日は刻々と落ちていく。
沢から石を運ぶのに思ったより時間がかかり、作業が思ったより進んでいるように感じていない。
周りにある枝や棒をかき集めシェルターの隣に積んでいく。
そしてその集めた枝の中でちょうどいいものを見繕い石器のナイフで加工し始める。
石のナイフでは時間がかかってしまったが立派な弓錐式の発火具が完成する。
見た目は弓の弦に棒が絡まっており、弓を水平に構え木の棒を木材で押さえつける。
その状態で弓を前後に動かすと弦に絡まっている棒が高速で回転するというものだ。
これで今日必要なものがすべてそろった。
先ほど作った弓錐式発火具を使い、火をつける。
最初は細い枝を燃やし、そこから徐々に枝を太くして火をじっくりと育て上げる。
焚火が安定するころにはあたりはすっかりと暗くなっていた。
目の前の火が周りを照らしてくれるので周りが全く見えなくなるということがない。
暗闇におびえずに夜を過ごせるというだけでどうしようもなくうれしく感じてしまう自分がいた。
パチパチと燃える焚火を見つめるとふと気づきポケットの中をまさぐる。
中には昼間捕まえたサワガニが弱っているせいか、それとも死んでいるのかわからないが動かなくなっている。
手元ある枝をサワガニに刺し焚火でじっくりと火を通す。
しばらくするとサワガニにいい具合に火が通り食べごろになる。
そしてサワガニにかぶりつくとカニのうまみが口いっぱいに…
「苦い…」
想像していた味よりだいぶおいしくない。
空腹は最高のスパイスというがそれを上回るまずさである。
何故おいしくないのかはすぐにわかった。
「泥抜きしていない…」
サワガ二は一日きれいな水で放置し泥抜きを行わないとおいしくないのだ。
だからと言って今回はそんなことをしている状況ではない。
眉間にしわを寄せ手早く食事を済ませると、そのままシェルターの落ち葉に埋もれるように体にかぶせ始める。
カニが焼けるのを待つ間にシェルターの落ち葉を軽くいぶしたから虫の心配はそこまでしなくていいだろう。
シェルターの中で横になった瞬間全身がじんわりと甘い痺れが包み込む。
久しぶりに体を横にしてゆっくりと休んだせいか、かなり心地よい。
横になった瞬間、眠気が襲い瞼が重たくなる。
熟睡するのは危険だとわかるが睡魔にあらがえない。
そのまま睡魔に体を預け意識を手放す。
パチパチと焚火がはじける音と、火のぬくもりを感じながら意識が沈んでいくのを感じた。
※役に立つかわからない知識※ーーー
火をおこすのによく想像するのが、きりもみ式です。
きりもみ式とは手のひらに棒を挟んで擦る方法です。
この方法はあまりお勧めできません。
火が付きにくいほかに、手のひらを怪我してしまう可能性もあります。
危機的状況では些細なけがも避けるように行動しましょう。
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