第一章 006 高揚

崖の傍に座り込んでいた身体に力を入れて立ち上がる。

この場に居座り続けるのは危険なのもあるが、時間もない。

日はまだ高く、穏やかな空気が流れているが空腹のせいであまり余裕でいられなかった。

今日をそして明日を生きるために行動に移さなければならない。


今までと違って川上のほうへと歩いていく。

ガラガラと石を蹴り飛ばしながら何かを探しつつ歩く。

そうすると自分の足元で何かが動いている生き物を見つけた。

石の下に逃げ込もうとするそれを素早い動きで捕まえる。


サワガ二である。


大きさは3㎝ほどで足の長さも加えると6㎝はあるだろうか。

昨日から何も食べていないので、サワガニがごちそうに見える。

周りを見渡すとそれなりに数がいて拾い集めながら先へと進んでゆく。

そうしていると拾い集めたサワガニが両手に納まらなくなったので上着のポケットに放り込む。

少し抵抗はあるが、そんなことを気にしている場合ではないと頭を切り替えた。

そして目当ての場所までたどり着いた。


沢から少し離れた場所に苔がびしりと生えており、木の幹や大きな岩、地面を覆いつくすかのようにそこにあった。

しゃがんで手を伸ばし、苔をなでるとふかふかとしている。

その場所からできるだけ乾いている苔を選び、引きはがしていく。

苔は面白いくらい簡単にはがれていき、自分が想像していたよりも厚くしっかりしていた。

両手にいっぱいになるほど苔を抱えて何かを探し、さらに森の中に突き進む。

そうして沢から数十メートルほど離れた位置で立ち止まる。


「ここがいいな…」


そう呟いた場所は今まで歩いてきた森の中と比べて変わったものなどなかった。

両手に抱えた苔を下に下ろし、目の前の木を見つめる。

目の前の木は周りの木とくらべ幹が少し細目で直径30㎝あるかどうかといった具合だった。

それぐらいの木なら周りに探せばいくらでもある。

だがこの木がというよりも、この場所が他と違うもの一つだけあった。

すぐ隣に目をやるとその木の直線上に同じような木が立っている。

その木々は二メートルほどの距離があり、この二つの木を使って拠点を作成しようと考えていた。


今回作ろうと思っているシェルターにはツルが必要で、それを探すために周りを見渡す。

すると、お目当てのツルを簡単に見つかり茂みに絡みついていた。

それを思いっ切り引っ張って取ろうとすると、茂みが音を立て始める。

しかしツルは茂みに絡みついたまま離れなかった。


ツルは思ったより丈夫で手でちぎったりすることができない。

このツルがないと今回考えている拠点が作れそうにない。

どうにかしてツルを手に入れなければならないが自分の手元にはツルをとれそうなものは何もなかった。

なにか道具か…刃物があれば…。


【その瞬間、頭の中で糸が音を立てて張られた。】


自分の後ろにある沢を見る。

沢の周りには大小様々な石がゴロゴロと転がっていた。

沢の周りに転がっている石に向かって歩き出し、沢にたどり着くと手にひとつづつ石を持つ。

そのまま両手の石を叩きつけた。

すると一つ音が鳴った後に片方の石が割れ、先ほどまでの丸い石が鋭さを持ち始める。

どこにぶつければ、どのように石が割れるか何故か文字通り手に取るように分かっている。

そのまま数回、ぶつけるとあっという間に刃が姿を現す。


石器のナイフを作り出した。


どうして、自分がこんなものを作れるか疑問に思ったが、時間が惜しいので足早にツル植物の場所に戻り、先ほど作り出したナイフを振り落とす。

石で作られたとは思えないほどの切れ味を発揮し、手も足も出なかったツルを切り裂いた。

そうして足元に落ちた長いツルをまとめて拠点を作る場所に運んでいく。


この場所に来て、初めて道具を手に入れたせいかはわからないが、微かに気持ちが高揚した気がした。



※役に立つかわからない知識※ーーー


今回作成したものは打製石器というもので石と石をぶつけあい作る石器です。

なれると物の数分で作れるほかに、飛び散った破片を利用し別の石器を作ることも可能です。

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