第一章 005 景色
「んっぐ…んぐ…」
水を勢いよく飲み、顔を上げる。
先ほどの無気力で生気のない顔から変わり、満たされ、自然と笑顔がこぼれる。
喉の渇きがなくなり、文字通り一息つくことができた。
そうしてしばらくすると、ある疑問が沸き出て沢を確認する。
沢の水は透明で水底にもゴミなどはなく、夏だったらこのまま遊んでいきたくなるほどだった。
「飲んで大丈夫だったかな…」
生水を飲むとよくないと聞いたことがある。
お腹を下しやすいとは聞いたがなぜ下すのかは知らない。
自分のお腹をさすりながらお腹が下さずに済むように祈るくらいしか、
その場でできることがなかった。
しばらくそんなことを考えた後、川に目を向ける。
川幅は数メートルあり、川が途中で途絶えたりする不安はない。
近くで見るとまっすぐ進んでいるように見えるが、川下の先が最後まで見えないので、
微妙に曲がっていたりしているのだとわかる。
地面は石でゴロゴロしているが木の根が隠れていないので先ほどより歩きやすく感じる。
それでも転びやすいのは変わらないのだろうが。
先ほどより軽くなった足を踏み出し、川下に沿って歩き出した…。
体感で数時間ほど歩いただろうか?
太陽が天辺の位置にあるので多分お昼頃だろう。
日差しが容赦なく降り注ぎ、ずっと歩いているせいか体から汗がにじみ出る。
そうして歩いていると目の前の景色が大きく開いている。
…開けすぎている。
慌てて駆け寄るがすぐに立ち止まり尻もちをついてしまう。
目の前は崖になっていた。
切り立った崖は数十メートル以上の高さになっていてこの場所だけ、
巨人が引っこ抜いたのかと思うほどだった。
横から降りられる場所はないかと崖から覗き込むが、草木が邪魔でよくわからない。
自分の隣で水がザバザバと音を立てて下に落ちていく。
それだけでは驚きのあまり、しりもちなどついたりしない。
驚いたのは目の前の景色である。
目の前の景色は見晴らしがよく緑色の木々が自然の絨毯となって、
大地を埋め尽くし地平線を形作っていた。
その絨毯の先には山脈が連なっており、縁取りされている。
人間の手が入っていない原風景というのはこういうものを言うのだろう。
…そう、目の前の景色には人工物がひとつもなかったのだ。
ただただのその事実をまっすぐ受け止めるが、その事実を前に取り乱したりはしなかった。
何故取り乱さなかったのかは自分でもわからない。
ただ頭が、体が、心が同じことを考え、感じ、想っていた。
もう帰れないかもしれない…
その場から動けず力なく座り込んでいる自分を、穏やかな風が自分を包み込み通り過ぎていく。
しばらく、目の前の景色から目を離すことができなかった。
※役に立つかわからない知識※ーーー
生水を飲むのは大変危険です。
一見きれいな水に見えても、細菌やウイルス等がある危険性があります。
川上には獣の糞や死骸等もあるかもしれません。
生水を飲んでしまうと感染症や最悪の場合、死に至るかもしれません。
生水を飲む前に「煮沸」を行いましょう。
煮沸とは水を沸騰させて滅菌させることを言います。
煮沸は最低5分~10分しなければ菌を死滅させることができないので気を付けましょう。
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