第一章 004 水
何度か目を開き外の様子を確認したが、外は相変わらず真っ暗だった。
自分が眠っているのか起きているのかさえ、わからずただ目をつむる。
両の手を組み、寒さに耐え、獣が来ないように祈り続ける。
しばらくして外の様子を見るが、目に光が入ってこないことに落胆する。
そして何度目だろうか?また目を開き、外を見る。
いつもの真っ黒な単色のみの視界から、打って変わって様々な色が目に入ってきた。
外は薄暗く、昼間と比べてまだ肌寒い。
外の様子を覗き込み認識すると、気付けば微かに体に熱を帯びていた。
そのまま、ゆっくりとシェルターが崩れないように外へと出て立ち上がる。
ーーーー…朝がきた。
あの恐ろしい暗闇が終わったのだという解放感から、その場で大きく伸びをする。
身体の節々が固まっており、甘い痛みとともにほぐされている感覚が心地よく感じる。
周りを見渡すが自分に襲い掛かってきそうな獣は見当たらない。
その事実に安堵した後、一つの欲求が胸からこみあげてくる。
水が飲みたい。
口の中が渇き、すぐにでも水を飲みたいという欲求が身体を支配する。
お腹も空いているが、それ以上にのどが渇いて仕方がない。
ここに至るまで必死で、自分のことを見る余裕がなかったから気が付かなかった。
辺りを軽く歩き、水源がないか周りを調べ始める。
しかし、周りには水源どころか、水たまりすらない有様だった。
どこへ向かえば水が…沢が見つかるかはわからない。
しかし、ここにとどまっていても状況はよくなるはずがない。
結局昨日と同じようにやみくもに歩くしかないのだろう。
昨日作り上げたシェルターを横目に歩き始めた。
ーーーーーーーーーー…
ーーーーーー…
ーーー…
「ハッハッハッ…」
口の中の唾液が全くなく息をするのがつらい。
先ほどからやけに体がだるく足取りが重たくなる。
このまま座り込んでしまいたいと思うたびに歯を食いしばり前へと進む。
頭がズキズキと痛み、体は熱いのになぜか汗があまり出ていない。
素人目からしても危険な状態だとわかっていた。
そんな状態だからだろうか?
足元にある木の根に引っ掛かり転んでしまう。
軽く心の中で悪態を付き立ち上がろうとする。
が、立ち上がれない。
頑張れば立ち上がれるだけの体力はまだある。
ならばなぜ自分は立ち上がらないのか?
気力がもう尽きていたのだ。
ここまで来るまでにないもの尽くし。
睡眠もとれず、水も食事もとれていない。
ただあてもなく休まず歩き続けこの先になにかある保証もない。
疲れたしまった。
このまま目をつぶり意識を手放すのは危険だというのはわかっている。
しかし心と体が地面に吸い寄せられたかのように動かせない。
そのまま意識をゆっくりと手から離れそうになる。
ザーーーーーーー…
「…!!」
身体が地面に弾かれるように飛び起きた。
そのまま手から離れかけた意識が身体の中に納まっていく。
音が聞こえた方向に目を向け、ゆっくりと立ち上がる。
足取りは先ほどと比べて軽く、そのまま足早に音のする方向に駆け寄る。
目の前の茂みをかき分けると目の前が開けた空間に出た。
その場所は落ち葉に覆われておらず、森の中にあった茂みとは違い、足の長い植物が点在していた。
そのほかに大小さまざまな石が足元にゴロゴロと転がっている。
そして一番この空間で目を張る存在、今自分が最も求めているものがそこにあった。
沢だ。
自分を先ほど起こしてくれた音を絶え間なく出し、
ここまで来た自分をほめたたえるように水面がキラキラと輝いている。
沢まで駆け寄り、顔をうずめゴクゴクと音を立てて水を飲み始める。
口の中に入れた瞬間、味などないはずなのに水が甘く感じる。
そのまま勢いよく喉を鳴らし水を飲み始めた。
水は喉を通りすぎ、お腹の中に注ぎ込めれ、じんわりと指先にまで染み渡る感覚がした。
息を吸うために一度顔を上げて、今度は口元だけを沢に近づける。
周りのことも気にせず、夢中になって水を飲んでいた…。
※役に立つかわからない知識※ーーー
よく人間は三日間水を飲まなければ死んでしまうといいます。
これは三日間は大丈夫というわけではありません。
水を飲まなければ徐々に体に不調が出てその場から動けなくなってしまいます。
二日間水を飲まないと失神する危険性が高まるので早めに水を確保しましょう。
遭難した際に最も重要視するのは身の安全、その後に水です。
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