第一章 003 暗闇

つい先ほど自分で作り上げた簡易のシェルターにうずくまる。

辺りはすっかりと暗くなっていた。

一寸先は闇という言葉はこの時のための言葉なんじゃないかと勘違いしそうになりそうだ。

手元にある細い枝と落ち葉を利用して入り口をふさごうとするが、

暗闇なのとシェルターの内側からということ、そして不自由な体制のせいかうまくいかない。

そうして落ち葉をいじりながら考える。


ここはどこなんだろうか?

必死に思い出そうとするが欠片ほども思いたるものは出てこない。

それどころか自分がどこの誰なのかもよくわからなかった。

認めたくなかったが、こうとしか考えられない。


自分は記憶喪失なのだろう。


森の中に着の身着のまま一人でいるどころか記憶すら持ち合わせていない。

記憶をなくす前の自分は何をしたらここまでひどい状況に陥るのだろうか?

何も持たず森に入るほど馬鹿なおのぼりだったのか?

もしくは趣味の悪い人さらいにでも出会ってしまったのだろうか?

そんな妄想や想像が頭の中で泡のように浮かびそしてはじけていく。

そして泡が浮かばなくなってやっと一つ思い出す。


「頭の糸…」


このシェルターを作る前に頭の中で糸が一本張られた感覚がした。

その感覚がした瞬間、選択肢が増えどうするべきかわかったような…

足りない頭でうんうんと唸りながら考える。

そうして一つの結論にたどり着いた。


自分の記憶と経験をそのときに思い出したのではないか?


このシェルターはお世辞にも立派なものとは言えないが、

何も知らないものがこの短時間で作り上げることはできないはずだ。

ドロドロとした不定形の『疑問』が固まり『確証』に変わった。

自分はシェルターを作ったことがある。

いつ頃にどんな場所で経験したかは思い出せないが過去の自分はのだ。


いままでわからないこと尽くしだったがやっと確信できるものが一つ。

ここが狭いシェルターの中でなければ小躍りしたい気分だった。

だが、そんな気持ちも長く続かなかった。


ーーーーーブルッーーーーー


身体が勝手に身震いしてしまう。

日光がないせいか周りの温度が昼間より、ひときわ冷えているように感じる。

凍えて死ぬというほどではないがそれでも暖を求めたくなってしまう。

震えながらうつむいていると、地面が冷たく感じ慌てて落ち葉をかき集めて下に敷く。

そうこうしているとーー…


ーーーーガサガサーーーー


物音がした。

恐怖で一瞬に全身が硬直する。

頭の中では、ただの風で茂みが揺れただけという都合のいい妄想と

なにか危険な獣が近づいてきたのではという最悪の妄想が、

一気に頭の中で駆け巡り、今すぐこの場を離れたい気持ちが膨れ上がる。


「おちつけ…」


今ここを飛び出したら確実に助からないことが容易に想像できた。

少し先も見えないほどの暗闇。

そんな暗闇の中で、もし歩いた先が崖だったら?

行った先で危険な獣と出くわしたら?

そんな考えが頭の中で駆け巡る。


ふと、目の前に広がる暗闇をじっと見つめる。

すると、暗闇の先で誰かに見つめ返された気がした。


目をぐっと瞑ってうずくまり、ただ早く朝が来てほしいと祈ることしかこの夜はできなかった。



※役に立つかわからない知識※ーーー


夜になると日光が当たらなくなることによって放射冷却の効果がじかに感じてしまいます。

地面にたまった温度がなくなっていきそのまま座ってしまうと体力が奪われてしまいます。

シートやバックパック、なければ落ち葉やコケなど地面との距離をできるだけ

離すことが重要です。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー

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