第584話邪神討伐戦・最終確認
——◆◇◆◇——
「あ、パパー!」
「フローラ。もう来てたのか」
「うん!」
集合地点となっている陣幕に向かうと、そこではすでに俺以外のメンバー達が集まっていた。
この感じだと、少し待たせたみたいだな。
「婆さん。悪いな。ちょっと待たせた」
「構いやしないよ。こっちも、話すことができたしねえ。ちょうどいいっちゃちょうどいい」
「話すことってのは……あれか?」
「そうだよ。あの顔についてだ。なんでも、あんたらの知り合いらしいじゃないかい」
「やっぱりそうなのか」
俺は婆さんと話つつ、母さんのことを見る。
陣幕の奥には母さんがいるが、難しそうに顔を歪めて邪神の方を見ている。その様子を見る限り、やはりあれは先代の国王の顔なんだろう。
「らしいねえ。……ま、それよりも、揃ったことだしこの後について話そうじゃないかい」
俺が席につくなり婆さんはそう話だし、俺はその場に集まったメンバーたちのことを見まわした。
その場に集まっているメンバー……親父、母さん、ランシエ、フローラ、勇者、それから戦いには加わらないけど婆さん。ここにいる全員が第十位階だと思うと、かなりの戦力が集まってることになるな。
「つっても、作戦自体はかわりゃあしねえだろ? たとえ、あんな異変が起きたとしてもよお」
「まあ、そうだな。今更何か変えることなんてできないからな」
ここにいる全員が最大の攻撃をぶっ放す。それで倒れればよし。倒れなくても、その後に俺が突っ込んでどうにかする。それが作戦だ。どうにかする、なんていうと随分適当に思えるかもしれないが、割と勝算はある。
その作戦自体は何度も話し合ったことで、今更変えることはできないし、変えるにしてもそもそもその変えた先の方法がない。
なので俺たちが邪神を攻撃するのは決定事項だったのだが……
「待て! だがそれは……自分の親を攻撃することになるんじゃ……」
あの『顔』が先代国王……俺の父親であることを教えられたようで、勇者は俺が親を攻撃することに対して口を挟んできた。
だが、自分が言うことではないと思ったのか、それとも邪神を倒す方法が他にないと気付いたのか、もしくはその場の空気にのまれたのか……徐々に言葉尻が小さくなっていった。
「おい勇者。何ふざけたこと言ってんだよ。俺の母親はそこにいる美人な女性で、父親はそこに座ってるおっさんだ」
「おい。俺の扱いだけ違くねえか?」
なんか言ってるけど、無視だ。だってお前がおっさんなのは間違い無いだろ。
「それに、あれを『人』と呼べるか? お前の親はあんな姿か?」
「それは……いや……」
勇者は俺の言葉に言い淀んでいるが、まあそうだよな。だってあんなのが人間の親なわけがないし、そもそも人間ではないんだから。あれはどこからどう見ても化け物だ。
「だったらあれはもう親じゃねえし、人でもない。今更迷うなよ、勇者。あれを倒さなければ、大勢が死ぬぞ」
俺がそう言うと、勇者はそれ以上何も言うことがないようで、ゆっくりと席に座り直した。
もう文句がないのであれば、邪神退治の作戦について話を戻そう。
と言っても話自体はすんでいるんだから、後は確認をしておくくらいだ。
「それで、フローラ。本当に例の作戦でいけるんだよな?」
「んー、多分平気―」
「多分なのか」
そんなわけでフローラに声をかけたのだが、返ってきたのはなんとも曖昧な答えだ。命をかけた特攻をするには少し心許ない気がする。
「大丈夫なのかよ、それ」
「だってフローラにもよくわからないんだもーん!」
「あー、悪い悪い。攻めてるわけじゃねえよ」
フローラの曖昧な言葉に親父が眉を顰めながら言ったのだが、そんなお言葉が気に入らなかったようでフローラは頬を膨らませて拗ね、親父は拗ねたフローラを宥めようとしている。
「ちなみに、確率としてはどれくらいでいけると思ってるんだい?」
そんな様子に呆れながら、俺はフローラの頭に手を伸ばしながら問いかけた。
「んっとねー……ママが悪いことに失敗するくらいの確率―?」
ママって……リリアが何か企んで、それが失敗するくらいの確率で今回の作戦が成功するってことか? そんなの……
「なんだ。じゃあつまり、大体成功するってことだな。なんだったら百パー成功するんじゃないか」
そう言うことになるよな。だってあいつ毎回失敗してるし。
「でもたまに成功してるー」
「……してるか?」
「パパ一回落とし穴に引っかかってるよー?」
……そういえば、前にリリアがうちの庭に落とし穴を仕掛けたことがあったな。外から入ってくる敵に対しての備え、とか言っていたが、備えなんて俺たちが十分にしているので、予定外の場所に落とし穴なんてあるとむしろ邪魔にしかならない。実際、俺はそんなところに落とし穴なんてあるとは思わず、引っかかったことがある。
まあ厳密には引っかかりそうになった、だけど、驚かせることはできたんだから成功したといえなくもないだろう。
……いや、元々の理由は外敵に対しての備えなんだから、味方が引っかかった場合は失敗にカウントするのか?
「なんだ。お前落とし穴になんて引っかかったのかよ。だっせえな」
「うるせえよ。自分の家の敷地内に落とし穴なんてあると思わないだろ」
「いやいや、腑抜けてねえで普段から気ぃ張ってりゃあ避けられんだろ」
「じゃあ今度親父の移動先に落とし穴仕掛けておいてやるよ」
「ばかなこと話してないでこっちの話にもどんな」
俺と親父の馬鹿話を婆さんが呆れた様子で止め、話を戻した。
「んじゃまあ、ほぼ確実に成功する、ってことらしいから、作戦はこのまま行くぞ」
まああの一回を成功にカウントするにしても、他のほぼ全てが失敗しているんだ。その確率分くらい今回の作戦が成功するとなれば、ほぼ成功すると考えていいだろう。
つまり、作戦に変更はないってことだ。
「大変だし、かなり辛い状況になることは理解してる。それでも頼む。ここで邪神を倒して、この戦いを終わらせるぞ」
俺の言葉に、その場にいたメンバーたちは一斉に返事をし、俺たちは邪神と戦うために席を立ち、陣幕の外へと歩いていった。
——◆◇◆◇——
「それじゃあ、母さん。それとランシエ。頼んでいいか?」
陣幕を出てきた俺たちは、城壁の上と前に展開しているのだが、先ほどのメンバーに加えて婆さんが強化した兵達に、カラカスの騎士達。それから勇者一行から魔女が参加している。ああ、あと魔王もな。魔王って言っても俺じゃないぞ? 魔王(真)の方のことだ。
「ええ、任せてちょうだい」
「どこまで効くかわからないけど」
俺たちはこれから邪神に突っ込んでいくわけだが、全員が突っ込んでいくわけじゃない。
何せ母さんとランシエは本来の戦闘スタイルは後衛なのだ。敵陣に突っ込んでいくような戦いでは本領を発揮することはできない。
そのため、二人は城壁の上に陣取り、こちらに近づいてくる邪神へと狙いをつけて攻撃することになっている。
そうして二人が攻撃をして足止めをしている間に、俺たちは接近して大技を叩き込むのだ。
その際、婆さんの強化した兵士達が残っている敵を食い破って道を作ることになっているので、無駄にスキルを使う心配もない。
邪神を倒すための戦い。これが失敗すれば先はないと考えられている戦いだが、その最後の作戦が始まる。
ここからの戦いは、これまでの戦いとは変わったものになるだろう。ある意味今までとは別の戦と言ってもいいかもしれない。
その戦いの鏑矢として、ランシエが弓を構えた。
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