第582話邪神討伐戦・リリアの戦場

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 ランシエ達遠距離部隊は大型の敵を排除し、ザヴィートの兵が小物の敵を処理。その隙を抜けてきた敵をレーレーネ達が処理する。


 今の所敵の増加よりもこちらの駆除速度の方が上回っており、あと数時間もすれば完全なゼロになるだろう。

 状況はなんら問題なく進んでいるように思えるが、当然ながら問題がある部分もある。問題というか、予想していたことではあったが……まあ簡単にいえば、負傷者だ。


 ランシエ達が大物を処理していると言っても、完全に処理し切れるわけではなく、生き延びた大物がザヴィートの兵に接近すればただの足踏みで重傷を負うこともある。


 小物達も、兵が複数で当たっているとはいえ怪我をすることもある。


 そんな兵達は一旦戦場から下がって治療を受けるわけだが、その治療現場となっている場所は、別の意味で戦場だった。


「ねえねえねえねえ〜。わたしも行きたいんだけど〜」

「却下」

「ええ〜〜〜!」


 だが、そんな戦場であっても戦ってる意識のないアホはいるもので、そのアホ——リリアは治療ではなく前線に行きたいなどとほざいている。


 まあ、わからなくもない。こいつとしては目立ちたいし、かっこよく活躍したいだろう。そのためには前線で暴れて敵を倒すのが手っ取り早い。活躍できて目立てて、確かにこいつの望む展開だろう。

 だがだめだ。リリアは確かに戦えるが、その力はどちらかというと守りに比重が置かれている。前に出ていったところで、敵の攻撃を防げはしても、こいつが望んだように敵を倒せるわけではないだろう。


 だったら、そんなところで無駄に力を使わせるよりも、こうして後方で待機させて怪我人を直した方がいい。


 それに加えて、敵は俺とフローラだけではなく、リリアも狙っていると考えられる。そんなやつを前線に出せば、何かあったとしてもその状況の変化に対応できなくなるかもしれない。

 もしこれでリリアが前線にいって動き回り、その結果左右の軍に敵が流れ込んだら今回の作戦は崩壊するかもしれない。

 なので、そう言った意味でも後ろに下がって同じ場所で待機し続けて欲しいのだ。


「お前はおとなしく怪我人治してろ。元々戦闘向けの天職じゃないんだから」

「わたしだって戦えるもん!」

「戦えるのは知ってるけど、切ったはったをするようなのじゃないだろ。……って、そんなこと言ってる間に仕事がやってきたぞ」


 わがままを言っているリリアを宥めようとしていると、前線から怪我をした者がやって来た。

 怪我の程度としては、自分で動けるくらいなんだからさほど重症ではないだろうけど、それでも見た感じの血の量だと治療が必要だというのがわかる。


 そんな怪我人を指差して、リリアの意識をそちらへと逸らす。

 俺の指の動きに釣られて怪我人の方を見たリリアは、それまで文句言っていたにも関わらず、すぐに動き出して怪我人へと話しかけた。


「あ、だいじょーぶ? 安心して。わたしがデデーンと治してあげるから! ——はい、もう大丈夫よ。怪我したら何回だって治してあげるわ!」


 その怪我人はリリアによって見事に回復したのだがどうやらリリアのことを以前から知っていたようで、話しかけている。


 以下、それに対するリリアの反応である。


「え? 何? わたしの事知ってるの? ……ああ! 王都で遊んでくれた人! ほへ〜、こっちまで来たのねー」

「わたしのために敵を倒す? ふふん。いい心がけね! やっぱり配下ってのはこうでなくっちゃね! ……あ、でも怪我しないようにしてよね。痛いのって辛いでしょ?」

「むへ? なになに、なんで喧嘩してるの!? ……どっちがわたしの役に立てるか? ……そんなっ! わたしのために争わないで!」

「はーい、みんなちゅうもーく! 元気がいいのはいいし、たくさん倒してくれるのは嬉しいけど、だからって怪我しないようにね! 治すの誰だと思ってるのよ!」

「うんうん。素直でよろしい! これが終わったらみんなにパーッと奢ってあげるから死んじゃダメよー。でっかい怪我した人も参加させてあげないんだからね! わかったらこんなところで喧嘩してないで、さっさと敵を倒してきなさい! あ、怪我しないようにね!」

「いやー、配下を気づかってあげるのも立派な悪の役目よねー。疲れた配下に奢ってあげるのは上司の役目っていうかあ……んえ、なに? ……え? ……お金がない? いやいや嘘でしょそんなの! だってカラカスにいる時いっぱい稼いだもん!」

「くうっ〜。こうなったらまたあいつにお金を借りて……」


 なんか言ってるけど無視しよう。あ、いや。五倍にして返して貰えばいいか。たくさん稼がないといけないってことになればあいつもまともに働くだろうし。……働くよな?


 まあ、リリアの反応をダイジェストでお送りしたが、おわかりいただけただろうか?

 わからなくても知らん。わかれ。


 ただまあ、そんな感じで治療を始めたことで、俺から意識はそれたようだ。

 ここは問題ないようだし、また絡まれないようにさっさとこの場から離れよう。

 ……あ、ここから離れる前に、お付きのエルフ達にはちゃんと言っておこう。今度こそ離れないでリリアのことを監視しとけって。目を離したら勝手に飛び出していく可能性も、ないわけではないからな。

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