第581話邪神討伐戦・レーレーネの活躍
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それから数時間ほどして、戦闘が激化し出した。当然の話だ。何せ、俺たちは邪神の進路上に布陣しているんだから。敵の数を減らしたところで、敵の歩みそのものが止まるわけではないのだ。そして、両者の距離が近づけば必然と戦いは激しくなっていく。
兵達はいまだに炎を全面に放っているが、それを耐え切って襲いかかってくるものもいるし、そいつが襲いかかったことでできた隙をついて突っ込んでくる奴らもいる。
そんなだから、敵の数を減らすことはできているが、当然ながら負傷者は出てくる。
そして、負傷者が出ればその者は当然下がってくるわけで、その分守りが薄くなることになる。
加えて、今回の布陣の影響もある。
布陣の形をコの字型にしたのは、正面からくる敵を真ん中に敵を誘い込んで一網打尽にしようとしたからだ。
だが、そう布陣しても、敵がその通りに動くかどうかなんてわからない。人間だったらまず間違いなく怪しんで避けるだろうし、今回の敵のように知性がなかったとしても、逆に近くにいる者——両脇の敵から狙うだろう。
だが、それは普通の敵ならば、だ。
今回の敵は邪神……いや、この場合は神樹だな。神樹は聖樹のところを目指して進んでいるわけだが、それはおそらく自身と同質の力を狙っているからだろうと考えている。
その証拠に、以前俺たちが神樹の進路から外れた時、僅かだったか神樹の動きに乱れが生じたと報告を受けている。これは、聖樹の力を保有している俺やリリア、聖樹の力そのものであるフローラを狩りにいくか悩んだ結果だろう。
実際、援軍が来るまでの耐久戦でも、俺やリリアやフローラがいるところだけやけに敵の数が多かった。というか、俺たちのいるところを目指して進んでいるように感じた。そしてそれは、敵の処理をすればするほど顕著になっていった。
なんでそんなことになったのかというと、多分雑魚とはいえ、無限に生み出せるってわけではないんだろう。雑魚の生成で消耗したエネルギーを少しでも回復するために、同質の力である俺たちを狙ったんだと考えられる。
なので、今回も俺達がいるこの場所を目指して進んでくるだろう。真っ直ぐ、陣の真ん中めがけて。
しかしながら、そんな三箇所に分けて兵を配置するなんてことをすれば、当然ながら一箇所あたりに配置される兵の数は減ることになり、それはつまり守りが薄くなるということだ。
しかも、この正面は両脇に比べて兵の数が少なくなっている。それは、ここに俺達がいるからいざという時に助けられる、というのもあるが、それ以上に、ここに戦力がいるからだ。
その戦力というのが……
「うう……やっぱり怖いんだけどぉ……」
「レーレーネ様。いい加減しっかりしてください。ほら、シャキッとして。女王を名乗るんでしょう?」
「そ……そそそ、そうよね。わ、私は女王だもんね。ありがと、ルールーナ」
土の魔法で築いた即席の城壁の上から、あわあわしながら敵を見ているエルフ——レーレーネだ。
レーレーネは普段から森に引きこもってるだけあって、今回エドワルドに唆されてこっちにやってきたが今でもまだ怯えている。
だが、それでもなんとか持ち直したのか、レーレーネは腰に手を当てて正面を見据えた。
「レーレーネ! もうそろそろ敵がこっちに抜けてくるかもしれない。守りは任せたぞ!」
兵の配置を分散したことで守りが薄くなり、怪我をした兵が下がってくることでさらに守りが薄くなる。
その隙をついて敵が奥へ奥へと進み、こちらに向かってくる。このままでは味方の兵たちを抜けて敵がこちらにやってくるだろう。兵達もそうはさせまいと攻撃を加えているが、変異生物は植物でできている。そのため、多少攻撃を受けようが、問題なく進んでくるのだ。
だが、それは想定内だ。というよりも、そのつもりで戦っている。
ザヴィートの兵が七万もいるとはいえ、ずっと戦い続けることはできない。怪我や疲労で戦えなくなることもあるだろう。
だが、下がったところで、その先が敵に襲われては意味がない。怪我人以外にも炎の魔法具を配っている者達や、武器の管理や怪我の治療をしている者もいる。彼らがいるからこそ、問題が起きることもなく戦えるのだ。いなくなれば、途端に戦況が悪化することになる。
だから、そんな怪我人や戦闘補助の者達はなんとしても守り抜かなくてはならないのだ。
そのため、最初から敵が抜けてくることを想定し、後方には壁を築き守りを固めた。そしてその守りの役割を、レーレーネ率いるリリアの故郷のエルフ達に任せることにした。
あいつら、引きこもりなだけあって拠点防衛はめちゃくちゃうまいんだよ。戦争のために配置するんだったら守り以外は考えられないだろう。
「びゃい!」
……だが、あいつで本当に大丈夫だろうか?
リリアの母親なんだからこの反応も仕方ないといえば仕方ないし、やる時はやってくれるとは思うんだが、不安だなあ。
「て、敵がこちらに来ました。ですが、恐れるこてぉはありません」
あ、噛んだ。
「……いつも通り、攻めて来たものを仕留めるだけです。そうすれば、味方が全てを終わらせます。私達の役割は守ること。ここより後ろに一体たりとも敵を通してはなりません」
城壁の上から味方に語りかけている様は堂々としたもので、これがエルフの女王だと言われれば素直に納得できるだろう。……直前の失敗がなければ。
だが、そんなレーレーネの様子もいつものことなのか、エルフ達はなんでもないかのように流している。
「全員、武器を」
その言葉と同時に城壁の上に並んでいたエルフ達が、普段のポワポワした雰囲気を消して一斉に武器を構えた。
そして、ついに守りを抜けて敵が姿を見せ——グサッ。
姿を見せた変異せ物は、数メートルほど歩いたところで胸を矢が貫いた。
だが、敵は植物でできた変異生物だ。矢を刺した程度では動きを止めることなんてできやしない。
しかし、そのことを理解しているはずのエルフ達は、武器を向けてはいるもののそれ以上攻撃しようとはせずに見ているだけだった。
そのことについてレーレーネに声をかけようとしたのだが……
「そのまま油断せずに警戒を続けなさい」
レーレーネがそう告げた直後、ボンッと矢の刺さった変異生物が内側から弾け飛んだ。あれは、内側で何かが爆発したのか?
見た感じとしては、まさしくそんな感じなのだが、では何が爆発したのかと言ったら、まあ魔法だろう。火薬の類はないし、放ったのはただの矢だったし。
用意したのはただの矢だったはずだから、特別な道具を用意したわけではない。
にもかかわらずあんなことができるということは、矢を放つ直前で魔法を付与したってことになる。しかも、それを将軍とかそういう特別な奴がやるのではなく、ただの一兵卒がやるのだ。
「敵対しなくて良かった……」
普段は間抜けな集団だが、敵対すればとても恐ろしい集団だな。まあ、だからこそ何年もカラカスの側にありながら生き延びることができたわけだが。むしろ、これくらいできて当たり前なのだろう。
「これからさらに敵がやってきます。誰一人かけることなく戦いなさい」
そんなレーレーネの言葉がきっかけだったというわけではないだろうが、またも敵が味方の間を抜けて姿を見せた。
しかし、当然ながらその敵にも矢が刺さり、今度は眉間に刺さった矢の周辺から無数の尖った石が敵の頭を食い破った。
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