第563話錬金術師な転生者
「はあー……神様ももっと優遇してくれてもいいと思うんだけどなあ。せっかく選ばれたんだからそれぐらいしてもいいだろうが」
あー、何となくそんな感じはしたけど、今の言葉で確定だな。
神様にあったことがあるのであれば、こいつは新しい勇者、あるいは勇者候補や勇者に巻き込まれた存在だって可能性もあったけど、違うな。
おそらくだが、こいつは勇者のように異世界から転移してきた者ではない。俺と同じ、異世界から生まれ変わった者だ。
やけに神様に親しげな態度をとってるのも、会ったことがあるのではなく、『自分は転生したんだ。それは神様から愛されているからなんだ』とかそういった妄想の結果ではないだろうか。
錬金術師を手に入れた、ってのも、運良くレアな天職である錬金術師になったのを『自分は祝福されている』とか『自分の努力の結果だ』とか思い込んでるんだろう。
であれば、これ以上気になることはない。天職を変えられるんだったらその方法は気になったから話が聞ければとは思うが、ただの偶然なら価値はない。聞いたところで今更天職を変える樹はないけどな。役に立ってるし、フローラや植物たちと話せなくなるのは嫌だし。
しかし、『転生者』か……。初めて会うな。それほど多くいる存在ってわけでもないんだし、合わないのが自然なんだろうけどさ。
でもこうして会ったわけだし、少し遊ぶか。どうせ勇者にはバラしたし、ソフィアたちももう知ってるんだ。隠す必要なんてないもんな。
「凡人で結構。転生したからって好き勝手やってるバカよりマシだろ」
……あ。でも俺も転生してから好き勝手やってるわ。こいつのこと言えねえな。
でも、こいつは俺のやってきたことなんて知らないだろうし、気にしなくていっか。
「は……? ……お前、なんなんだよ」
アルクは、突然の俺の言葉に目を丸くしている。そりゃあそうだろうな。自分は言っていないのに敵から『転生した』なんて言葉が出てくるんだから、驚くに決まってる。
「自分だけがそうなんだ、選ばれたんだ、なんて思うのはバカの考えじゃないか? 自分がいるんだったら、他に同じようなやつがいてもおかしくないって思うべきだろ。特に『転生』なんて単語を出したやつがいたんだったら、そいつは疑うべきだと思うけどな」
「お前っ……! まさかお前……転生者なのか?」
「そこは断定するべきじゃないか? これだけ隠さずに話してやってるんだから。それとも、そんなこともわからないくらいにアホなのか?」
個人的には「お前も転生者だな!」ってはっきりと言ってくるものだと思っていたのに、はっきり「そうですよ」って言ってやらないと自信が持てないらしい。
「は? アホ? 俺がアホだと? 俺は『錬金術師』なんだぞ。レア職引いたんだ! お前みたいな雑魚とは違うんだよ!」
「まあ確かに。俺は『農家』だしな。そっちの天職は羨ましく感じるよ」
最初は気だるそうに余裕があるような態度をしていたくせに、本性見せんの速すぎねえか? この程度の会話でキレるって、随分と堪え性のない性格をしているようで。きっと無駄にプライドばっかり積み重ねてきたんだろうな。
「……は? 農家? 農家って……ぷぷ。お前、冗談だろ? そんな雑魚みたいな天職のくせに、こんなところまでやってきたのか? っていうか、転生者のくせにそんなゴミみたいな天職を与えられたって、ありえないだろ」
アルクは俺の天職を聞くと、先程俺に言われた暴言の仕返しか、俺のことを指差しながら嘲笑ってきた。
別に俺はこんな奴に何言われたところで気にしないんだけど、やっぱり一軍の長としては周りに部下がいる状況で黙ってるわけにはいかないよな。
「まあ、天職ってのは本人の性質や気質で決まるもんらしいからな。そういうそっちは何か研究でもしてたのか?」
「あ? ……なんでそんなことお前にいう必要があるんだよ」
「必要なんてないさ。でも、散々人を見下したり自慢したりしてたのに、前世のことは話したくないってなると、よっぽど悲惨な人生だったみたいだな。同情するよ。お疲れー」
「こ、のっ……! うるせえんだよ! お前はもう黙ってろよ! なんでお前みたいなのにとやかく言われなくちゃならないんだ!? あっちはもう終わったんだよ! 終わって、俺は神に選ばれてこっちにやってきたんだ!」
「へー。すごいすごい。おめでとう」
棒読みのセリフを口にし、ペチペチと腑抜けた音のする拍手を送ってやる。
「……で? 前世はどんな人生だったんだ? なあなあ。どんな風に生きて、どんな風に死んだんだ? どんな気持ちだった? まさかとは思うけど、まさかまさか……凡人だった、なんてことはないよな。他人のことを散々見下したわけだし、まさかそんなことはないよな。なあ?」
「……っ!」
俺の対応や言葉がよほど頭に来たのか、アルクは口をパクパクさせながらこちらを睨みつけている。
「こ、お……あああああっ!」
何度も口を開いたが、結局言葉が出てこなかったようで、アルクは近くにあった机に思い切り拳を叩きつけ、その上に乗っていた資料だか薬だかのいろんなものを手当たり次第に投げ散らかしていった。
「おいっ! そいつらをやれ! 殺せ!」
そして散々荒らした後、それでも気が収まらなかったのかアルクは変異体たちへと指示を出した。だが……
「なんなんだよ。なんで動かないんだよくそがっ!」
「呪いの中だけじゃないと動けないんだろ? そんなのも忘れちゃったのか? 凡人」
アルクの指示に従わず、動かない変異体たちだが、当然だ。どうせこの場所から出るな、とか命令してあるんだろうに。それすら忘れるくらい怒り心頭らしい。
「……確かに、そいつらはここじゃないと動けない。でも、どうせお前だって勝てないだろ? 第十位階とかいって調子に乗ってるバカどもですら殺すことができるだけの能力を備えた化け物だ。勝てるわけがないんだよ! そこで俺の実験が終わるまで惨めに眺めてろ、バーカ!」
随分と子供っぽいセリフだな。実際、あいつはガキなんだろうな。体じゃなくて頭の中が。バーカ、なんてあの歳で言うような言葉じゃないだろうに。
「まあ、確かにそれなりの能力はあるみたいだな」
あいつの言動は置いておくとして、確かにあの変異体たちは好きに動かせない代わりに随分と能力が高められているみたいだ。普通に戦うのであれば厄介なこと極まりないだろうな。
第十位階になっていない者では、まともに戦うことすらきついんじゃないだろうか? できて時間稼ぎで精一杯だろう。ともすれば、第十位階ですら負けるというのだから相当の強さだ。あいつの言うことが正しければ、だけど。
けど、絶対に勝てないわけじゃない。
「——《播種》」
俺は体勢を変えないまま手のひらから地面に種を落とし、その種をスキルを使って放つ。
その種はいつものようにガトリングとかショットガンみたいな大量なものではなく、たった三粒だけだ。
だが、それらの種は化け物の眼球へと辿り着き、貫いた。
今までの変異体との戦闘で、こいつら表面は硬いけど目は比較的に軟いってのはわかってたからな。弓矢が刺さる程度の硬さなら、俺の種でも貫くことができる。
「なら、人ではなく、魔法でもなく、視認すら難しいもので攻撃して防げないようにすればいい」
十や百となれば種のような小さなものでも見ることはできるが、一粒だけとなると視認なんて無理だ。親父でさえ気配やら俺の視線やらってものだけで避けたり切ったりしてたのに、そんな人工の化け物程度に認識できるわけがない。
「あるいは——ほら、プレゼントだ」
そう言って俺は拳代の袋をアルクに向かって放り投げる。
当然ながらそれは変異体によって途中で迎撃されるが、それで構わない。
「止められないくらい無数にばら撒けばいい」
「うわっ! なんだ!?」
袋が切られたことで、中に入っていた無数の種がその場に降り注ぐ。
しかも、剣の威力が無駄にあったせいで、一箇所にまとまって落ちてくるのではなく、辺り一帯い広がってばら撒かれてしまう。
当然たった数体ではそんな種なんて回収できるはずもなく、そもそも脅威と見做していないのか変異体達は動かずに元の位置でこちらを見つめている。
「おい、今のはなんなんだよ! こんな砂をばら撒くなんて、嫌がらせかよ! ハッ、どうせそんなくっだらないことしかできないんだろうなあ!」
「砂? よく見ろよ。それは砂なんかじゃないぞ」
俺の言葉を聞いて、アルクは眉を顰めながら地面に落ちた粒へと目を向けた。
でも、その粒は下に落ちたものだけじゃなく、お前の服や髪にもついてるんだよ。
「そして——《生長》」
俺がそう口にするのと同時に、ばら撒いた種の全てが発芽し、急速に生長し始めた。
下を向いていたアルクがどんな顔をしたのかわからないが、まあまず間違いなく驚いただろうな。
「簡単な話だろ?」
変異体に打ち込んだ種も、凸凹した隙間に入り込んだ種も、服や髪についた種も、全てが一気に種から樹木へと姿を変えた。
近くにあったものはその急な生長に巻き込まれ、捻れ、潰され、貫かれ、不恰好なオブジェへと姿を変えた。
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