第555話魔王対勇者一行・1

 

 俺が教皇に向かって起きるように命じると、教皇はフラフラともたつきながらも体を起こし、立ち上がった。

 だが、その見た目は酷いものだ。何せ全身から植物が芽を出しているんだから。

 植物が芽を出すというのは普通のことのように思えるが、あれってまじまじとみてると気持ち悪いよな。だって土に穴あけてニョロニョロ出てくるんだぞ? 生長しきった花なんかだとそんなことはわからないかもしれないが、地面からポコポコと生えた植物の芽を見てみろ。蓮コラみたいな気持ち悪さがあるぞ。

 実際に何か植物を育てたことがある者の中には分かる者もいるのではないだろうか。


 しかも、今回はただ地面から生えているんじゃなく『地面(人間)』から生えているんだ。普通の気持ち悪さの比ではない。


「こいつは生きてるよ。ただ。自分の意思では動けないし、お前らが回収したところで治るかどうかわからないけどな」


 自分でやっておいてなんだが、気持ち悪い見た目になった教皇から顔を逸らし、指差しながら勇者達に教えてやる。

 勇者達も残念な姿になった教皇を見て顔を顰めているが、俺が話しかけるとこちらに意識を戻した。


「治らない? 私は『光魔法』と『治癒魔法』を持っているのですよ?」

「お前の天職自慢はわかったよ。でも、そんなくだらないもんじゃ治らない。理由は簡単だ。見てわかる通り、植物が邪魔をしてるからだな。その植物は呪いや魔法なんかじゃなく、実際にそこにあるんだ。そりゃあ治癒魔法なんかで取り除くことはできないだろ。普通なら多少体内になんかの破片やゴミが入っていても治癒の魔法を使えば外に排出されるが、流石にそんな状態のものになると無理だ。まあ考えてみれば当たり前の話だよな。そんな体を食い破って育った植物を取り除こうとすれば、どうしたって周りの肉が邪魔をする。内臓もぶっ壊れる事になるだろうな。無傷のまま『排出』なんてできるわけがない。だからつまりは、その植物をどうにかして取り除かない限り、ずっとそのままだ」

「あなたなら、どうにかすることはできますか?」

「まあ、できるな。やらないけど」


 植物達に話をして枯れて貰えば、あとは普通に治癒をかければ治る。残った残骸も、生き物でないのであればスキルで排除することができるし。

 ただ、それをやるかといったら、やらない。せっかく育ったのに枯れろっていうの、なんか可哀想だろ? そもそもこいつを助けるメリットって俺にはないし。


「——《斬撃》!」


 俺がそう答えた瞬間、突然ダラドが走り出し、俺に切り掛かってきた。それも、スキルを乗せてだ。明らかに殺意が見て取れる。


「やらせるかよ!」


 切り掛かってきたダラドの剣をカイルが受け止める。

 カイルは第七位階でダラドは第十位階。それだけの差があるんだったら普通は勝負にならないものだが、あいにくとダラドは第十位階と言っても守りが主体の天職だ。『神盾』と呼ばれるほどに守りに精通した能力は確かに厄介だろう。だが、それだけだ。守り以外の部分……攻撃に転じた場合は、同位階の者よりも劣る結果しか出せない。

 だからこそ、位階が低いカイルであっても受け止めることができた。


 まあ、あとはそこに防具の性能も加わるけどな。

 いくら攻撃が弱いっていっても、ただの拳であれば迎撃できても怪我をしただろう。だが、あいにくと俺たちは非合法な品であっても手に入れることができるカラカスだ。王の護衛がしょぼい装備なんてつけてるわけないだろ?


「話の途中だ、端役。戦うのなら、勇者が動いてから動き出すのがお供の役目だろ」


 普通こういう場面って敵のリーダーである勇者が「いくぞ!」って言って、魔王が「来い!」って応じるのが定番の流れって者だと思うんだけどなぁ。

 肝心の勇者様は剣を抜いているしこっちに構えているが、仲間が勝手に突っ込んだことでわずかながら混乱してるようだ。


「戯言をっ! 貴様を倒し、捕らえれば、いやでも聖下を治すのに協力するしかあるまい!」

「捕まえられればいいな。ただ、敵は俺だけじゃないんだぞ? 四天王……とまではいかないが、護衛がいる中で、果たしてお前ら程度が俺を殺さずに捉えることなんてできるのか?」


 ダラドはカイルが抑えているが、多分そのうち力負けする。いくらダラドの攻撃能力が低いって言っても、それでも身体能力に差はあるからな。


 なので、ここで種をひとつまみ。そして《播種》っと。


「くっ! 無駄だ!」


 流石は守り主体の第十位階。俺の攻撃は全て弾かれてしまった。

 だがそれでも、俺の邪魔を受けながらカイルと戦うのは厳しいと判断したのか、ダラドはその場を飛び退いた。


「っ! カノン、リナ! 俺たちも戦うぞ!」


 ダラドがそばに戻って来たことで、勇者はハッと気を取りなおすと他の二人に向かってそう叫んだ。


「ああ、せっかくだから後もう一つだけ教えてやろう」


 全員が武器を構えながら俺のことを睨みつけている。

 いつかはこうなるだろうなと思っていたが、これで『勇者』vs『魔王』の出来上がりだな。なんというか、感慨深いものがあるよ。


 まだリリア達の捜索が終わってないし、時間を稼ぐ必要がある。

 それに、勇者もそうだけど、ダラドと聖女をここで仕留めておきたい。こいつらはどんな動きをするかわからないが、どうせ俺たちに敵対するだろうし、放置しておけば厄介だ。他の一般兵では倒せないだろうからこっちの被害が増えるばかりになるだろうし、俺が倒すしかない。


 なのでわざわざこうして戦うことを選んだわけだけど、せっかく場が整ったんだ。なら、それに相応しいセリフの一つでも言うのが風流ってもんだよな。


「——魔王城に魔王がいるんじゃない。魔王が……俺がいるところが魔王城だ」


 こんなセリフをどこかで聞いたことがある気がするが、一度言ってみたかったんだよな。


「さあ、かかってこい勇者一行。俺を倒せば全ては解決し、お前達の栄達も望みのままだ」

「行くぞ、みんな!」

「——《ホーリーブレス》!」


 勇者が叫ぶと同時にカノンが勇者へとなんらかの魔法を発動。

 その魔法によるものだろう。勇者とダラドの体が光で包まれ淡く発光している。


 これは、確か強化付与の魔法だったか? リリアが言ってたことが正しいなら、だけど、あいつもこんなことで嘘はつかないだろ。効果を間違えるってことも、まあ……まあないと思う。そのはず。


「——《震撃》《虎砲》!」


 カイルが強烈な踏み込みにスキルを乗せることで地面を揺らし、それに足を取られた勇者に接近し、一撃を放つ。


「させん!」


 だがそれは、ダラドが盾の下部を地面に叩きつけたことで勇者の前に発生した透明な盾によって防がれた。


「ハアアッ!」


 攻撃を防がれたことでできた隙を狙い、勇者はカイルへと剣を振り下ろす。

 カイルはその剣を避けるが、避けるだけで精一杯。その後の攻撃に繋げることはできていないし、むしろ勇者に連撃を許してしまっている。

 まあ、勇者も第十位階みたいだしな。第七位階のカイルじゃキツイだろう。さっきのダラドと違って、今度は本当に攻撃型の第十位階だし。まだ避けていられるのがすごいと言うべきだな。


 召喚されてからまだ数年程度であるにも関わらずそこまで生長したのは、こいつが死ぬほど努力したからではないだろう。

 パッシブスキルのおかげらしいが、生長速度が早い上にスキル回数もそれなりに使えるという反則気味な状態だからこそだ。

 だが、身体能力が強化されていても、スキルが使えても、戦闘経験は少ないはずだ。特に、人との戦闘はな。だからこそカイルがまだ耐えられているんだと思う。

 あとは、勇者が本気を出していないからってのもあるか。あいつ、まだスキルを一つも使ってないみたいだし。


 しかしまあ、流石は勇者一行ってところだな。まともに戦えば俺も苦戦するかもしれない。


「——だが、容易く倒せると思うなよ?」


 そう言うと同時に、カノンとリナの頭上にあった植物に命じて、実を弾けさせる。


「きゃっ!」

「これ、はっ……!」


 頭上にあった実が弾けたことで、その中身である白い液体が飛び散り、二人を汚した。


「白濁液に塗れた聖女様と魔女か……。大人気になりそうだな?」


 頭上から突然液体が降って来たことで、二人は避けることも反応することもできずにモロに被ってしまい、全身に白い液体を被ってしまった。

 この液体は、先ほどの教皇との戦いの時にも使った粘着剤だ。空気に触れてから数秒もすれば固まるそれを全身に浴びたんだから、二人はしばらくの間まともに動くことなんてできないだろう。

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