第548話魔王と教皇
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「——聖下。魔王一味がこの教会へと向かってきているようです」
「魔王が? 目的は……言わずもがな、ですか」
教皇の執務室にて、部屋の主人である教皇とその配下らしき男が話をしている。
どうやら、その話は今外で起きている騒ぎに関してのようだ。
「おそらくはエルフの姫の奪還ではないかと」
「ふむ。まあ助け出したいという気持ちはわからないでもありませんが、我々の本拠地に向かってこうも大胆な行動に移るとは……愚かな。これでは国王も擁護しきれないでしょう」
確かに、こんな馬鹿みたいな騒ぎを起こすだなんてことをすれば、いくらカラカスと国王派が手を組んでいるのだとしても、国王も擁護することはできないだろう。
だが、そんなことは関係なかった。たとえ国王と手を結んでいなかったとしても、教会がエルフやリリアのことを狙っている限り、結局はこうなることになっていただろう。
「エルフの姫は現在どうなっていますか?」
「はっ。現在は錬金術師へと引き渡しを終えたところです」
「そうですか。ならば結構。ではあなた方は教会の全勢力を集め、守りに当てさせなさい。しばらく守っていれば、数時間のうちに国王からも軍を派遣せざるを得なくなります。その際に挟撃を仕掛け、全滅させるのです」
「かしこまりまし——」
そうして教皇達の話が終わり、部下の男が礼をしたところで……
「おいおい、数時間後とか、何呑気なこと言ってんだよ。お前が気にするべきは、数秒後の未来だろ?」
扉を木っ端微塵に吹っ飛ばして乱入者が現れた。まあ、俺なんだけどな。
現在俺達は炊き出しを行なっていた広場を離れて教会へと行進していたんだが、部下達とは別に俺と数人だけが先行して教会に潜入し、なんか色々と小細工を仕掛けていた、と言うわけだ。
小細工といっても、大したことはしてないけどな。リリアの場所を探らせたってくらいなもんだ。一応植物達に聞いて場所はわかってるんだけど、そこに辿り着くまでの道には植物が生えていないのか、わからなかった。なのでそれを調べさせるためだ。
……あと種をばら撒かせるためだけど、まあこっちはついでだ。調べるついでにぱぱーっとばら撒いてもらっただけ。
で、まあそんなわけで、表の部下達を揺動に使いながら、植物達に話を聞いて人の少ないルートを通ってここまでやってきた。
尚、ついてきた部下はいつも通りカイルとソフィアとベル。それから他数名の第七位階。それから、今回に限ってはフローラも連れてくることにした。危ないから置いて行きたいんだけど、リリアを攫ったことはフローラも怒ているようで、置いて行ったら勝手にエルフ達をまとめて教会に突っ込みそうだったので連れてくるしかなかった。
まあ、生みの親ではないかもしれないが、リリアはフローラの『ママ』だからな。助けたいって気持ちはあるだろう。
あとは婆さんだな。婆さんは強いし役に立つだろうから連れてきても良かったんだけど、本隊の指揮官がいなくなるとまずいのであっちを任せることにした。
……一応総大将って俺なわけだし、俺のいる部隊の方が本隊だよな、普通は。でもこの場合はどうなるんだろう?
まあ、そんなことはさておき、だ。今はもっと大事なことがある。何せ目の前に敵の親玉がいるんだ。これ以上ないくらいに大事なことだろう?
「——さて、教皇様。お話しようじゃないか」
俺たちがやってきたことで武器を構え、警戒する教皇の部下に対し、教皇派未だに椅子に座ったままだ。度胸があると言うのか、それとも何にも反応できないだけなのか……。
どっちにしても、俺のやることなんて変わらない。
「話し、ですか? なんのでしょう? 話があるのであれば、このような乱暴な手ではなく、正式な手順を踏んでいただければこちらも相応に対応を——」
「あー、そういうのいいから」
この後に及んで教皇はなんだか言い訳めいたことを口にしようとしていたが、そんなのを聞くつもりはない。だって、聞いたところで結果なんて変わらないし。無駄に時間を使うよりはさっさとことを進めたほうがいいだろう?
「まあ、なんだ。要件は簡単だ。俺がここに来たのは——」
そう言いながら部屋の中を歩き、近くにあったソファの背もたれに寄りかかる。
苗の植っている植木鉢を持ちながら俺の隣を歩いていたフローラだが、俺と同じように寄りかかるには少し背が足りないので、ぴょんっと背もたれの上に乗って座った。
その様子は可愛らしいが、持っている植木鉢の植物が可愛くない。白い実がついているのだが、その真ん中に黒い点が存在しており、その周囲にはまるで血走った血管のような赤い線が浮かび上がっている。
地球にいたときにも似たような植物はあったけど、こっちでも同じようなのがあった。
「お前をぶん殴るためだ」
俺がそう口にし、教皇に敵意を向けた瞬間、天井の裏から人が落ちてきた。
いや、落ちてきたというよりも、降りて来た、かな? ついでに言うと攻撃してきた。つまり、襲撃だ。
だが……
「人の仲間を攫っておいて、穏便に済ませる事ができるとでも思ってたのか? だとしたら、随分とまあ甘く見られたもんだなあ、おい」
フローラの持っていた植木鉢に植っていた植物が急速に育ち、頭上から現れた襲撃者を襲った。
植物の神様舐めんなよ。俺たちみたいなスキルを使わなくちゃ何もできない半端者と違って、念じるだけで植物を操ることができるんだから、隙なんてあるわけがない。
まあ、今のフローラは分体だから使える力には限りがあるけど、そこは俺が補ってやればいい。フローラに《生長》を使えば回復するっぽいし。
育った植物は白い実をつけた枝で襲撃者を殴り、同時に殴った衝撃で白い実を弾けさせると、その内部に詰まっていた液体を襲撃者へと被せた。
だが、最初の攻撃は止めたものの、まだ襲撃者と俺たちの距離はそんなに離れていない。このままではまた襲いかかってくるだろう。
だが、一瞬の隙を作れればそれで十分だ。
隙を晒しながら落ちて来た襲撃者の手を掴んで《肥料生成》を発動する。
それだけで、襲撃者はぐずぐずと体を崩し、最終的には纏っていた服すらも肥料へと変わった。
良かったな。この肥料は腐らせたんじゃなくてちゃんとしたものだし、花壇にでも撒いておけば花に喜ばれるぞ。
「このような事をしてしまえば、あなた方は非難を受けることとなりますよ。これはもはや国と国の問題に——」
「あー、はいはい。少し黙ってろよ。お前の話を聞くつもりはないから」
目の前で人がボロボロと土のようなものに変わっていったことで顔を顰めながらも、教皇は言葉を紡ごうとした。
だが、やはりそんな話を聞くつもりなんてないので、途中で遮って話を終わらせる。
「俺たちが国を名乗って自分たちの理解できる範疇に収まったからか? これくらいならやっても問題ないって? あるいは、こうしたところで手を出してくることはできないとでも考えたか? 仲間が攫われたのだとしても、証拠がなければ攻め込んでくることはできないって?」
普通の国だったら、仲間が攫われたところで調査だ抗議だ手続きだー、ってなんか色々やるんだろうけど、あいにくと俺たちは『カラカス』だ。もっといえば、俺は『魔王』だ。
「——バカが。んなことあるわけねえだろうが。俺たちは犯罪者の集まりだぞ? 今まで大人しくしてたからって、これからずっと続くわけねえだろうが。それもわからずに調子に乗るとはな」
「だからと言って——」
俺がこっちの考えを伝えてやっても、教皇は尚も言葉を紡ごうとしている。
そんなのは今更意味なんてないとわかっているだろうに。
あるいは、部下や勇者達がこっちに来るまでの時間稼ぎなのかもしれないな。話をしたところで分かり合えるとは思わないけど、話をすること自体は無意味ではない。かもしれない。
けど、こっちはそんな考えに乗るつもりはないんだ。俺は俺のやりたいようにする。
「どうぞ」
「ああ、ありがと」
教皇がまだ話を続けているが、そんなのはお構いなしにソフィアが俺へとある道具を差し出し、俺はそれを受け取って礼を言う。
……さて、やりたいようにやるとはいったが、俺だって鬼じゃない。
時間? そんなもの、稼ぎたいんだったら好きなだけ稼がせてやろう。
「あー、あー……」
『あー、あー……』
俺の声は道具を通してあたりに拡散され、この教会だけではなく、その周辺にいる者達へと届く。要は拡声器だ。
『——カラカスに所属する全ての配下に告げる。全戦力を持って教会を制圧しろ。抵抗するものは殺せ。好きなだけ奪え。もう二度とふざけたことができないように、全部ぶち壊せ』
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