第545話おやすみー。

 ——◆◇◆◇——

 ・リリア


「ぬおっフォッフォッフォ〜」


 今日も今日とて、わたしのことを慕う部下たちがいっぱい集まってわたしのことを褒めてくれた。

 わたしとしては好きでやってることだし、怪我を治してあげたくらいのことでどうしてそんなに慕ってくれるんだろうって思うけど……ま、どうでもいいことよね! だって、わたしにも部下がいるって事実は変わらないんだもの!


 いや、あれよ? 今までも部下っていたけど、それってあくまでもエルフがほとんどなのよね。わたしがあの子の契約者だからついてきてくれる。それが悪いってわけじゃないんだけど、なんていうか、こう……ね? わかるでしょ。


 他にも私のことを守ってくれたり雑用をこなしてくれる人っていたけど、あっちはヴェスナーの部下で、わたしのところにはちょこっと手伝いに来てくれてるだけ。

 あとは王国の王都とか、カラカスにもいるけど、こっちにはついてきてくれてないし……。

 だから、この国でもわたしに従ってくれる部下がいるようになったから大満足!


 あとはこの国で『悪』っぽい何かができればいいんだけど、それはヴェスナーたちが何か計画してるみたいだし、それに乗っかればいっかな?

 それとも、わたしが自分で動く? ここの親玉は聖樹になんだか嫌がらせをしてたみたいだし、聖樹を利用してなんか悪いことをしてるみたい。

 わたしがそれを止めれば、今いる悪以上の『悪』ってことになるわよね? だからそれでもいいんじゃないかなぁ、なんて思ったりしなくもなくもないような? ……あれ? 今のって結局どっちなんだっけ? 思ったりする、の反対で、そのさらに反対の反対? もう一個反対だったっけ? ……まあ! とにかくやるんでもやらないんでも、この国でもわたしの部下ができたことは事実よね!


 なんて言うかアレよ。もう笑いが止まらないわ! 


「ぬへっぬへっぬへっ……ととと。……ふい〜〜」


 これからの明るい未来を思い描きながら歩いていると、ちょっと考えに……ぼ、ぼっとう? しすぎて危うく転ぶところだったわ。


 ふっ、このわたしとしたことが。少し油断しすぎたようね。


 今のわたしは今日のご飯の材料を運ぶお手伝いをしてる。これを使ってみんなにご飯をあげるんだし、これちゃんと運ばないとみんなが困るんだもん。落とさないようにしないとよね。


「リーリーア様! それくらい私たちがやります!」

「そうです。先日大規模な力を使ったばかりなのですから、もっとおとなしくしていてください」


 わたしについてきてくれてるエルフのみんなは過保護すぎるのよね。わたしが何か重いものを運んだり怪我しそうなものを運ぼうとするとすぐに取り上げようとするんだから。

 今更これくらいで怪我なんてしないもん。


 それに、先日ってもう二週間くらい前のことじゃない。

 エルフとしては二週間なんてすーぐ過ぎちゃうような時間だってのはわかってるけど、それでももうちょっと人の世界の常識ってやつを学んでほしいわね。二週間あればお肉が干し肉になるのよ? 植物だって花芽から綺麗なお花になってることもあるのに、それだけの時間があれば、疲れなんて残ってるわけないじゃない。


「う〜、もう! 先日って、何日前の話よ! 確かにあの時はちょっと疲れたけど、もうピンピンしてるんだから。平気よ! ほらね? きらっ! ——んぎゃぶっ」

「ダメじゃないですか!」


 演説台の上でポーズを取るようにくるりと一回転してからポーズをとって、みんなに大丈夫なんだってことを見せようとしたんだけど、ちょっと失敗して転んじゃった。


「ほら、炊き出しの手伝いは私達が行いますから。リーリーア様はこのあとも治療を行うのでしょう? そのために休んでいてください」

「はーい。……はーい」

「なんですか今の間は。なんで二回返事したんですか!?」

「気にしない気にしなーい」


 確かにぃ〜、わたしはこのあとみんなを治してあげることになってるから休んでろってのは間違いじゃない気はするのよねー。


 この街、治癒術師が多いのになんでか知らないけど怪我人も多いのよねぇ。これがあの、アレよ。ヴェスナーたちが言ってた教会のなんちゃらなんでしょうけど、なんでそんなことしてんのかしらね? 怪我なんてしてたら辛いんだから、治してあげればいいのに。


 ……けど、そんな怪我してる人たちを治してあげるけど、だからって大人しくしてる必要ってないでしょ? それに、こんなところでのんびりしてたらその方が悪いわよ。遊べるのに遊ばないってすっごい疲れるんだもん。そんなこともわかんないのかしらねえ?


「ほら、さっさと行きなさい。他にもやることあんでしょ? 私の代わりに働くって言うんだったら、ササっとやっちゃいなさい」


 わたしのそばにいた人達を押して作業に行かせると、わたしの周りには誰もいなくなった。エルフも、ヴェスナーの部下も。

 まだ近くには何人かいるけど、あれはわたしの付き人ってわけじゃなくって、ここら辺を守ってるだけだからきにしなくてもだいじょーぶ。


 と、いうわけで……


「——さて、いったわね?」

「ダメですよ」

「びゃわあっ!?」


 わたしもまたみんなのお手伝いにー、と思って足を踏み出した瞬間、背後から肩を掴まれた。

 そのせいでわたしはその場で飛び跳ねてしまうほど驚いた。ほんとうに、すっごい驚いた。


「え〜。でもでも〜……」

「あの、聖女様……怪我を治していただけないでしょうか?」

「私ももっと、なんかこう……んん? あ! ほら、人が来たわよ! ね? これは私がやんないとでしょ!」


 このままだとお説教が始まっちゃうっと思ったところで、なんか人がやってきた。三人いるけど、みんな怪我を治してもらいたいみたいね。本当はあともうちょっと待ってもらって、そこでみんな一気にババッと治す予定だったんだけど、今なら特別に治してあげちゃう! だってこのままだとお説教だし。できることなら遠慮したいのよねー。それに、怪我したままって辛いでしょ?


「その程度であれば我々でも——ああ……」


 わたしのことを止めようと護衛のエルフが手を伸ばしてきたけど、それをするりと華麗に避けて、やって来た人のところへと向かう。

 あなたも怪我を治せるのかもしれないけど、ふふん。こんな機会を譲るわけがないじゃない。


「この私にまっかせなさーい! それで、どこが痛いの?」

「実は腕が……」

「ふむふむ。なるほどなるほど? ふふん。この程度なら我が力で完膚なきまでに消し去ってくれよう!」


 あれ? 完膚なきって、こんな感じの使い方でいいんだっけ? なんか違った気がするけど……まあいっか。


「はいできた! お大事にね!」


 なんだかいい匂いのするおじさんだったけど、なんの匂いだろう?

 なんか、ちょっと眠くなるような楽しい匂い。……後でヴェスナーに作ってもらおっと。あいつならいろんな植物出せるし、多分できるでしょ!


「さささっ、それじゃあ次のひとおいで〜」


 最初の男の人を治したあとは、次の女の人を呼んだ。


「あなたはどこが痛いの?」

「私はこの——」


 と、わたしの問いかけに答えようとした女の人が腕を出してきたんだけど、その腕はいきなりわたしの方に迫ってきて、顔へと突き出された。


「ぬむぎゅっ! いった〜……何すんのよ! せっかく人が親切に治して上げようとしたのに!」


 突き出された手はわたしに当たる前に弾かれたけど、その衝撃でわたしは後ろに押し出されて転んじゃった。

 まったく! なんなのよ、いきなり攻撃なんてしてきて!


「チッ! 対象は魔法具による結界を持っている!」


 わたしを攻撃してきた女の人がそう言うのと同時に、他の二人も動き出して攻撃を仕掛けてきた。


「何よ対象って! なんなの!?」


 今のところはロロエルからもらった結界の魔法具で防げてるけど、そもそもなんでわたしのことを攻撃してくるわけ? 怪我治してあげただけなのに!

 ……あ。もしかして、これがあれ? あの、ヴェスナーたちが言ってたわたしを狙う危ない人?

 そうだとしたら……あれ? 今わたしって結構ヤバ目な感じの状況?


「リーリーア様! 襲撃です! ご自身の結界を使用して——」

「あ、ちょっ!? 何? なんで倒れたの!?」


 わたしのことを攻撃してきた敵に攻撃をして、わたしを守るように立った護衛の人だったけど、なんでかわかんないけど急に倒れちゃった。


 どうして、って思いながらもそばにしゃがんで治癒を施す。


「ねえって——あ、れ……?」


 でも、魔法を使って治そうと思ったけど、その前に頭がぼんやりとしてきて、体にうまく力が入らなくなった。


 あ、もう無理。


 すぐにそうわかった。だって、すっごい眠いんだもん。

 寝そうになる頭をなんとか動かして意識を保ってるけど、多分もうすぐ寝ちゃう。そうなったら抵抗なんてできない。


 でも、一応このままやられっぱなしって言うのは『悪』としてのこけんに関わるから、せめて最後にここにいるみんなには全力で結界を張っておこっと。

 多分三日くらいなら保つと思うし、それだけあれば大丈夫でしょ。殺されることはないし、攫われたとしても、あいつならなんとかしてくれるはず。


 あとは嫌がらせに、この辺り一帯の浄化を―、っと。


 ……よし、これで変な薬は消えたと思うし、呪いの力もこの辺のやつは消せたでしょ。

 これならあいつもすぐ動けるはずねー……。


 それじゃあ……おやすみー。ばたん。

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