第534話聖国の王との会談
「んで、魔王様。これからのご予定はどうされるおつもりだい?」
今後の予定か……。
教皇を排除するのは確定として、教会を潰すのも同じく。
ただ、それをする前に少し考えないといけない。
別に教皇の排除なんかを諦めるわけじゃないぞ? 何せ今言われたばっかりだしな。
実行する前に考えて、敵が逃げられないように計画を練る必要がある。一人も逃さず、完璧に終わらせるために。そして、その上で『俺達』の害にならず、それどころか利益となるようにするために。
……多分、婆さん達が求めているのはこういう成長なんだろう。
自分を捨てないだけじゃ足りない。自分が好きなことをやるだけじゃ足りない。
自分のやりたいことをやって、その上で、他者に自分のやった結果を認めさせる。
状況の安定や周囲の者達の最善のために自分を捨てるような、逃げや妥協の成長ではない。
自分の思い描いた最良を叶え、その結果をみんなに認めさせるために考えてどこまでも突き進む本当の意味での成長。
俺はそこを目指さないといけない。
それは、多分とっても難しいことだろう。どうすれば自分の願いを叶えた上でみんなに喜んでもらえるのかなんて、さっぱりわからない。
それでもやるしかない。
そのために、まず今の俺がやることと言ったら……
「そうだな。なら、ちょっと炊き出しをしようと思う」
「……炊き出し?」
婆さんは眉を顰めながら俺の言葉を繰り返し、首を傾げた。
そんな婆さんの様子が珍しくて、つい笑みを浮かべてしまい拳が飛んでくるほど怒られたが、これはこれでいいものだ。……殴られたことが、じゃないぞ?
——◆◇◆◇——
「——まさか、本当に城の中に入れてくれるとは思ってもみなかったな」
炊き出しをする、と婆さんに言いつつも、俺は今王城に来ていた。
おっと、勘違いしないで欲しいのは、王城に来たと言ってもカチコミに来たわけではない。普通に普通の話し合いのためだ。まあ、俺は王様で、相手も王様だから普通の、っていうと普通じゃないかもしれないけど。
尚、今回ついてきたのはソフィア——ではなく、ソフィアに化けた婆さんと、護衛役のカイル。
本当はもっと威圧感を出すために護衛は厳つい奴を仲間から選ぼうとしたのだが、今回の場合は威圧感は与えすぎないほうがいいかと思い直してカイルとなった。こいつでも戦力的には問題ないだろう。だって第七位階だし。普通の国ではかなり高位の強さという立ち位置になるんだから、もし戦いになったとしても時間稼ぎくらいにはなるだろう。
婆さんは俺が気づかなかったことを気づいてもらえるように、その場の状態を直接見ておいてもらった方がいいだろうってことで連れてきた。
ソフィアに化けさせたのは、俺が普段から連れている侍女の方が怪しまれないからってのと、普通に面が割れているから。あとは戦力として考えれば今回聖国にきた仲間達の中でも最強格の一人だから。対抗できる存在と言ったら、俺かリリアくらいなものじゃないか? あとは少し格が落ちるけど、エルフの中から数人くらいか?
万が一の襲撃はカイルが防いで時間を稼ぎ、その間に俺と婆さんが体勢を整えて敵を処理する。だいたいこんな感じの方針だ。多分戦闘は起こらないだろうとは思ってるけど、それだって絶対じゃないからな。用心する必要がある。
「余は王だ。一度吐き出した言葉を曲げることはあってはならぬ。それが内々で済むことであればともかく、他国に対するものであるのならばなおさらだ」
「それが捨て台詞のような社交辞令であったとしても、か」
「そうだ。社交辞令を真に受けてやって来た者がいたとしても、それを追い返せば嘘をついたこととなる」
王を相手にするにはあまりにも生意気な態度ではあるが、それはもう今更だろう。何せ初対面の時に随分とやらかしたんだから。
それに、最悪の場合は敵対するかもしれないが、それでも俺は殺せないだろうし、俺はこいつらを殺して逃げればいいだけだ。そう思うと割と気楽にやれる。
だから、皮肉のように思える言葉も、それはきっと俺の勘違いなんだろうと流してやることだってできる。いやはや、社交辞令を真に受けた者って誰のことだろうな。
「なるほど。まあ確かにその通りだな。裏でも表でも、信用信頼ってのは大事なものだ。些細なことでも嘘はダメだよな」
だからと言って『騙さない』のかと言われると違うけど。嘘はつかない。それだけの話だ。
まあ、本当に信用、信頼が欲しい時は騙しもしないけど。
「——それで、何用だ? このような無駄話のために来たわけではあるまい」
本来ならもっと前置きが長ったらしく続くのだろうが、俺たちはそんな間柄ではないし、おそらくだが国王は急いでいる。だからこそ、こうして自分から話を進めようとしているのだろう。
さっさと話を進めること自体は俺も賛成だ。
だがその前に、一つだけやることがある。
「ああ。その前に、これを使わせてもらうぞ」
そう言いながら俺は、ロロエルからもらった結界を起動させた。
その様子に、国王はかすかに訝しげな様子を見せてから、気取られないくらいの小さな動きで周囲を見回す。
そうして国王が見た先では、何も反応せずに壁際に控えている護衛や侍従たちがいた。
「これは……遮音の結界か。随分と質が良いものだな」
「だろうな。知人からの贈り物だ」
普通の結界の道具は、うっすらと色がついていたり、使用した際に波動のようなものを感じるのだが、ロロエルからもらったものはそんなことはない。使用した本人ですら気づくことができないほど静かに結界を張ることができる。しかも、これは遮音だけではなく普通の結界の効果もあるのだから『質が良い』程度では済まない品だ。
だが、流石にこれだけ話していてその声が聞こえないとなれば護衛達も気づくもので、すぐに動き出そうとした——が、国王が手で制したことで再び壁際へと戻っていった。
これでようやく話をする準備が整ったな。
「まあこれで準備は整ったわけだが、本題を話す前に一つ聞いておきたいことがある」
俺は国王と色々と話をすることがある。炊き出しのこともそうだが、それ以外にもな。
でも、その前に一つだけ聞いておかなければならないこと、確かめなければならないことがある。
「俺たちを襲撃したのはこの国の意見だ、と受け取っていいのか?」
この答え次第では、俺は教会だけではなくこの国王も敵としてみなさなくてはならない。
もちろんこんなところで頷くわけがないのだが、それでも何かしらの反応はあるのが人間だ。普通なら見落とすような小さな反応だろうが、俺はそんなのを見逃すほど甘くはない。それに、俺が見落としたとしても後ろには婆さんがいる。もしこれで嘘をついているようなら、その時は合図をしてくれることになっているから、ほぼ騙されることはないと言っていいだろう。
「……例の賊の件か。であるのならば否。我が国にはその様な気はない」
「我が国には、か」
「そうだ」
我が国、とはなんとも曖昧な答えだな。それはこいつら国王派のこととも取れるし、教会を含めた文字通りの意味で『この国』の全てとも取れる。
「なら、もし俺たちを襲撃した犯人を見つけることができたら、その場合はどうする?」
「非公式とはいえ、こちらが呼んだ他国の王を害する輩がいるのであれば、それは問題という言葉では到底足りぬ。見つけ次第処刑を行うのが妥当であろう」
「それが、教会の人間であったとしても、か?」
「たとえ教皇であったとしても、だ」
教皇であっても罰する。それはこいつが教会の仲間であれば出てこない言葉だろう。
つまり、こいつの言った『我が国』というのは、『自分が率いるこの国』のことであって、その中に教会は含まれていない、ってことだ。
まあ、こいつら国王派が教会のことをよく思っていないってのは、最初の顔合わせで気がついていたけどな。
だが、それは教会も理解していることだろう。
そしておそらくだが、この部屋にいる侍従の中にだって教会の手下がいるはずだ。ありていに言えば監視役。
そんな奴らがいるにもかかわらず、こうもはっきりと教会への敵対の可能性を口にするのは、俺が遮音の結界を張ったからだろう。自分からではそんなことはできないが、俺がやったのならば仕方がない。みたいな感じで話を通すつもりじゃないだろうか?
まあ、その程度で話がスムーズに行くんだったらいくらでも利用されてやる。こっちだって利用するつもりできてるわけだしな。
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