第429話次の相手の予想
「——そんなわけで、結局魔王は聖樹の庭に入れておいた。後はまた後日魔王用の水場を作るつもりだけど、ひとまずは問題なく終わったよ」
魔王との話を終えた俺は、魔王を花園の中に引き入れ、聖樹の庭に放ってきた。
その後は魔王について報告するため、ひとまず花園を離れてカラカスの親父のところまでやってきた。
王様が部下に報告って……これ立場逆じゃね? と思うけど、親父は親父で今は街の作り替えだとか体制の見直しだとかで忙しいらしい。体制といっても、東区だけだけど。
でもまあ、そんなわけで忙しいっぽいので、俺がこっちにきたのだ。もっとも、この話の結果次第では婆さんやエドワルドも呼んで話をすることになるので、二度手間にならないからという理由もある。
魔王を放置してきても良いのか、って感じもしたけど、一応監視役兼案内役としてフローラをつけておいたから何かあったら教えてくれるだろう。
もし攻撃されたとしても、あそこはフローラの領域だ。依代の体を壊されることはあったとしても、聖樹本体が傷つけられることはないだろう。あの場所は栄養素はたっぷりあるから力が出ないなんてこともないし、操ることのできる植物もいっぱいある。ついでに、周りにはエルフ達もいる。殺すだけなら簡単にできるはずだ。
もし戦いになったら、きっと銃弾のように空飛ぶ人参と降り注ぐ葡萄その他諸々の奇妙な光景を見ることができるだろう。ちなみに、そんな光景俺は見たくない。作ったの俺だけどさ。
……まあ、エルフ達がいるっていっても、そいつらが役に立つのかっていうと信じきれないけど。
力があるのはわかってるし、いざって時には戦うのもわかってる。戦力的には十分だと言えるだろう。
でもなあ……やっぱり不安はある。だって、庭に入ってきた魔王を見た瞬間エルフ達はポカンとした表情をして体を固まらせ、数秒してから慌てて逃げ出したんだぞ?
慌てすぎたのか、中には水で溺れていた奴もいたくらいだ。まああそこで溺れたなら本望だろ。死ぬ前に回収班が動くし、問題なし。
「魔王を支配する魔王、か……。よかったな。これで本当に『魔王』って呼んでもおかしくねえようになったぞ」
「嬉しくねえよ……」
人類の敵として認定された『魔王』を配下に加えたんだから、確かに俺が新たな魔王として認定されることに不思議はない。
けど、自称魔王と正真正銘の『魔王』は周りの反応が全く違う。できることなら、自称魔王のまま放っておいてくれないだろうか?
「でも、これ大丈夫だと思うか? 一応バレないようにひっそりと中に入れたし、周辺には人がいなかったのは確認してる。でも、多少なりとも騒ぎにはなったから、もしかしたらそこから漏れるかもしれない。魔王がいたら、聖国に攻め込まれる大義名文になるだろ」
俺としてはそこが疑問だったんだが、親父は軽い調子でこっちを見ながら口を開いた。
「なにいってんだよ。魔王はもう死んだんだろ? 勇者様が殺したって聖国から正式に発表があったじゃねえか」
「まあ、そうなんだけどさぁ……」
「魔王は、もう勇者が倒した。それが世間の認識で、真実だ。魔王に片割れがいたことなんて知らないし、その片割れがここに身を寄せてるのも知らない。なら、後はおとなしくしてりゃあ問題ねえだろ。そのうち騒ぎも消えるさ。今は魔王なんかよりも『上』の存在がいる……ことになってっからな」
そんなもんか、と思いながら、それ以上何か反論したいことがあるわけでもないので、その話はそれで終わりとなった。
「——で、だ。そっちはそれでいいとして……お前、これからはどうするつもりだ?」
魔王についての話を終えると、親父はそれまでよりも真剣みを増した声で問いかけてきた。
「これから? なんかあったっけ?」
親父は「これから」と言ったが、それは単純にこの後のことについて聞いているわけではなく、明日以降の動き方について聞いているんだろう。
だが、特に予定とか何かしなくてはならないようなことはなかったはずだ。
もちろん今回のことで対処しないといけないし、処理のために動かないといけないが、それは親父もわかっていることで特筆するようなことではないはずだ。
「いや。だが、復讐相手の王は消えて母親と自由に会えるようになり、一部では騒ぎになってた魔王も死んだことになって、今では仲間になった。んで、問題起こしそうな王女もいなくなった」
「色々あったなあ……」
親父の言葉を聞いて今までのことを思い出していくが……うん。やっぱり色々あったなとしか言いようがない。
「そうだな。んで、そんだけ色々とあって、まだ終わってねえもんがある」
「終わってねえもんって……北か?」
西は前にちょっと出鼻を叩き潰したからしばらく動かない。
ザヴィートも、もう敵対はしないだろう。
南は今回の騒動で数年どころか数十年はまともに動くことはできないだろう。
東の二国も同じく今回の件で軍に被害が出たし、小さなところで手を出してくることはあっても、大きく攻めてくることはないだろう。
そうなると、後何も行動していないのは北になる。
だが、北は山脈があるせいでまともに繋がっていないし、何かしてくることもなかったはずだが……。
そう考えたのだが、親父は首を横に振りながら答えた。
「残念。あっちは存在しねえ者として考えて良いだろ。終わってねえのは東だ」
「東? ……それって聖国か?」
東はバストークも聖国も、被害が出たんだから動かないものだと思っていたが、親父の考えはどうやら俺のものとは違ったようだ。
「そうだ。あいつら、あの程度で終わると思うか? やられっぱなしで大人しくしてるような性格じゃねえよ。もしそんな程度の奴らだったら、宗教を使って自分達の勢力を拡大なんてするわけがねえ。本当の宗教家なら、大人しく神様に祈ってるだろうよ」
確かにその言葉にも一理ある。
今回、最後にはこっちに反撃してきたけど、元々の作戦自体は失敗だ。
このカラカスの街にたどり着くこともできずに、邪魔されまくってそれなりの被害を出してしまい、言い訳をしてから逃げ帰っている。
他国と協力してここを攻め込み、勢力の拡大を狙ってるような奴が、そんな失敗をしておいて報復をしないだなんてあり得るか? いやあり得ない。どんな手段かはわからないが、必ずなんらかの方法で仕返ししてくるだろう。
「でも、攻めてくるにしても、正面からはこないだろ。それに、何か仕掛けてくるにしても、まずは自分たちの戦力を整え直してからだろうし、まだまだ時間がかかるだろ?」
「バーカ。問題は続いて起こるもんだぞ。それに、何かするんだったら戦力が整ってから仕掛けるんじゃ遅え。整う前に下準備をするもんだ。実際の行動は数年後だとしても、そのための準備にもう今日からでも動いていてもおかしかねえだろうよ。あるいは、勇者はもう手が空いてるわけだし、少数精鋭で乗り込んでくるかもな」
俺の言葉は、親父に鼻で笑われて否定されてしまった。
俺自身そうであってほしいって願いながらの言葉ではあったから、親父の言葉が正しいんだとは理解できるが……認めたくない。
「……植物でも改造して育てて遊んでようかな、なんて思ってたんだけど……」
「できるといいな」
「……なんだってそんなに厄介ごとが来るんだよ。……いや。でもさ、あくまでも『そうなる可能性がある』って可能性の話だろ? 変に不安にさせるようなこと言うなよ」
「まあ、そうだな。あくまでも『可能性』だ。だが、確率の高い可能性だな。お前も分かってんだろうが。現実逃避してんなよ。それに、お前の場合はなんつーか全体的に不幸の神に愛されてそうな気ぃすんだよな」
一応最終確認の意味を込めて、そうであってほしくないな、と期待を込めて口にしてみたのだが、親父から返ってきたのはそんな言葉だった。
なんだよ不幸の神って……。そんな神だったらいらねえし、目の前にいるんだったらぶん殴ってやりたいし、最悪殺してやりたい。
「邪神を殺したわけだし、次はその神様でも殺すか?」
「馬鹿言うなよ。そんなことで神様殺したりしないって」
直前までそんな感じのことを考えていただけに、親父の言葉にドキリとする。
「ま、休むのはいいが、何が起きてもいいように備えだけはしておけよ」
「……何もないだろうけどな」
というか、何もあってほしくない。
そう願いながら言葉にしたが、その言葉はどこか自分でも空々しい気がするものだった。
……とりあえず、《品種改良》の研究は進めておこうかな。勇者なんてもんがやってきたらたまったもんじゃないし。
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