第262話トレントの栽培……?
「ってわけで俺はこれからこの地図の場所を回ることになった」
そんな感じで話し合いが終わった後、俺はその場から花園の館へと帰ってきてこれからの予定をカイルたちに話した。
「そうなの?」
部屋で転がっていたリリアが出されたお菓子を食べながら問いかけてくるが、こいついつもこんなんだな。もっとやることないのかよ。いや、変なことをやられても困るから大人しくしてるだけマシなんだけどさ。
餌をあげてる間だけおとなしくして、後は寝てるか遊んでるかって、子供ってより猫とか犬とかに思えてくるな。
まあ、元からこいつはペット枠だしそんなもんか。
「ああ。だからカイル。お前にも護衛としてきてもらうし、ソフィアとベルもついてきてもらうから準備しておいてくれ」
「おう。わかった」
「「はい」」
俺の言葉に返事したカイルたち三人。
「——んぐんぐ。……ソフィアー。私の分も準備しといてー」
そんな三人に続き、口の中に入れていたものを飲み込んでからリリアがまるで当然のことかのようにそんなことを言った。
「なんでお前も行く前提なんだよ」
「え? なんで?」
「こっちがなんでって聞きたいよ」
でも、こうして話を聞いた以上はついてくるんだろうな。まあ仕方ないか。
……なんだかこいつがついてくることにあまり抵抗を感じなくなってきたな。慣れってのは恐ろしい。
「フローラも行くー」
なんて話していると、俺の背後からひょいっと顔を出すようにしてフローラが姿を見せた。
相変わらず服はきていないが、今回は俺からもみんなからも胸から下は見えていないから、まあ大丈夫だろう。
前は堂々と空中を浮かんでいたのに今では俺の背後からとか顔だけとかを出しているんだから、教育は意味あったってことだな。なんかちょっと達成感がある。
もっとも、周りに人がいたら背後からは丸見えなので、相変わらず服をどうにかしないといけない問題は残ってるんだけどさ。
というか……
「お前、本体から離れて平気なのか?」
一応こいつは本体ではなくあくまでも聖樹の意識を形にしただけの存在なので、本体である聖樹から離れても問題ないのか疑問だ。
「遠くなければー?」
「ちなみに今回はどれほどかかる予定なのでしょうか?」
「おおよそ二週間だな。改良だけじゃなくて住民との話し合いも必要だし、周辺の状況確認もするつもりだから」
滞在と移動を含めて一つの村に二日使うとすると単純に七個の村しか回ることができない。
村の数はそんなにあるのかと思うかもしれないし、俺自身そう思ったが、村ってのはだいたい徒歩で行き来できるところに並んでいるので、ちょっと土地を奪っただけでも結構な数があった。
「んで、それが終わったら寄生樹の確認とトレントの栽培か……」
トレントの種をもらったし、育てないわけにはいかないよな。エドワルドは金稼ぎのつもりだったんだろうけど、本当にトレントが育って俺の言うことを聞いてくれるんだったら、街の周りに植えておけば防衛としてはかなり役に立つことだろう。
尚、寄生樹の方はどこかで試すことはあるかもしれないが、あまり大っぴらにやるつもりはないし、外で育てるつもりもない。だって冗談抜きでやばい代物だし。
「トレントー?」
「ん? ああ、そうだ。わかるか?」
なんて考えていると、フローラが今度は俺の胸から顔を出して俺の顔を覗き込みながら問いかけてきた。
自分の体から突き抜けるように人の顔が出てくるとか若干ホラーだが、慣れてしまえばどうと言うこともないな。でもいきなりはビビるからやめてほしい。
「わかるー。……んー?」
「どうした?」
だが、どう言うわけか俺の言葉を聞いた フローラは首を傾げて悩ましそうに声を出した。
そして……
「んー……植えてー」
そんなことを言ってきたのだが、それはトレントの種を植えろってことで良いんだろうか?
「植えて? それって、トレントの種をか? 今?」
「そうー」
「……まあ、元々育てるつもりだったしお前の協力があるんだったら植えるのは構わないが、二週間留守にするんだぞ?」
これから村巡りに出てそれくらいは留守にするわけだが、トレントの種は貴重品だから植えたら毎日様子を見るつもりだったんだけどな。
フローラが……植物の元締め的な聖樹がそう言うんだったら今植えても問題ないんだろうが、やっぱりちょっと心配だ。
「だいじょぶ―」
「だいじょぶって……」
「フローラが使うー」
「フローラが? ……なら、まあ大丈夫なのか?」
使う、の意味はわからないが、聖樹が管理をしてくれるんだったら、まあ大丈夫だろう。
「でも、どこに植えるかな……」
「そこでいいー」
「そこって……お前、この庭で育てるのか? なんかもっといい場所があるんじゃねえの?」
「んんー。そこでいいのー」
今俺たちがいるのは花園の館だが、街の中央にある聖樹の庭。そこに面した一室なのだが、フローラはその部屋の窓から庭を指差して示した。
確かに聖樹のために作った土地だし聖樹があるから植物たちにとっては良い感じなのかもしれないが、割と適当に決めたように感じたんだがそれで良いんだろうか?
「フローラがこう言っているわけですし、植えてみたらどうですか?」
「聖樹の言葉であれば間違いということはないでしょう。凶暴化するしないはともかくとして、少なくとも栽培そのものは成功するかと」
「まあ、もしもに備えて館の人たちには知らせておいた方がいいと思うぞ」
「ん。そうだな。それじゃあ連絡してから——」
一応ここも街中で、館もすぐそばにあるわけだし、これからトレントを育てるんだってことを館にいる奴らに説明しておいた方がいいと言われ、それもそうだと思った俺はそのために動こうとしたのだが……
「へーき!」
フローラが俺の顔面に手を叩きつけて止めた。叩きつけてって言っても実態がないから痛くもなんともないんだけど、動きを止めるには十分だった。
「どうする?」
「どうするって、やっぱ連絡しないわけにはいかないんじゃないのか? 俺一応護衛だし、危険の可能性があるんだったら備えたいんだが……」
「へーきなのー!」
だが、俺たちが信じないからか、フローラは俺の体の中から完全に外に出て実体化し、俺の首に抱きつきながら暴れ始めた。首が、しまる……っ!
「やってあげたら良いじゃない」
乱暴に引き剥がすこともできずにフローラの手に力を込めて気道だけ確保していると、リリアは椅子をガタガタ揺らしながらこっちを見てそんなことを言ってきた。
そうは言うが、トレントは魔物だ。暴れられたら大変だぞ。
だが、確かにこれだけ言うんだったらなんの問題もないのかもしれないが……いや、これで何かしようとしたところでまた騒ぐだけか。なら好きにやらせるしかないか。やらせてみて、なんかあったら対処した方がマシだな。
「わかった。わかったから手ェ離してくれ」
そうして俺はフローラを引き剥がしてから館の外へと出ていき、館から少し離れた場所にてトレントを育てることにした。
「お水とごはんー。後ベッドもー」
「お水とごはんとベッド? ……ああ、スキルを使えってか」
お水ってのはそのまま水を出せってことだろう。ベッドってのは土を柔らかくするのと肥料をよこせってことだと思うが、まあ間違ってたらなんか言うだろう。
「これでいいのか?」
「うんー!」
スキルを使ってみて確認をすると、フローラは笑いながら頷いた。どうやらあっていたようでよかった。
「おっきくしてー!」
「おっきく……《生長》」
そうして種を植えてみたのだが、またスキルの催促があったので、使ってみることにした。
聖樹の時もだったけど、こんな貴重品に強制的な生長を促すようなスキルを使っても良いものなんだろうか?
「相変わらずにょろにょろと大きくなんの見てっと、なんかすげーって感じがするよな」
「なんだよその感想。まあ、わからなくもないけど」
なんか早送りを見てるみたいで面白い感じもするけど、ちょっとキモい感じもするよな。自分でやっておいてなんだけど。
それに、これが人の体から生えてくることもあるってなると、尚更キモいっつーかグロいっつーか……不気味だよな。いや、ほんとに俺が言うことじゃないんだけどさ。
……っと、これってどれくらい育てれば良いんだ?
「で、フローラ。どれくらい大きくすればいいんだ?」
「んー、もうちょっとー?」
どこまで育てるか確認してなかったからゆっくり育てていたんだが、いつまで経ってもフローラが止めてくれないので聞いてみたが、まだ止めるなと言われてしまった。すでに一般的な樹木程度には大きくなってるんだけど、本当にまだ止めなくても良いのか?
「ん!」
「ん?」
そうして育てていると、突然フローラがなんか声を出して俺の体から離れていった。
「あ、フローラ!?」
完全に俺から離れて姿を見せたフローラはトレントに近寄っていき、その中に入り込んでしまった。その光景はまるで聖樹に入り込むのと同じに見えたが、これは聖樹ではなくトレントだ。
「あいつ、何やって——!」
なんでそんなことをしたのかわからないが、このままことを進めるわけにもいかないのでスキルを止めようと手を離して後ろに下がろうとした。だが……
「す、スキルを止めなくていいんですか!?」
「やってる! でも止めらんねえんだよ!」
「止められない? ……フローラですか」
「あいつ、なんか知んないけど勝手にスキルを強化してる!」
これはまるっきり聖樹の時の反応と同じだ。あの時もこうして勝手に力が吸われ、手を離すことができなかった。
ならばこれはきっとフローラがやっていることなのだろうと、どうすることもできないまま眺めていると、育っていたトレントの樹は徐々にその形を変えていった。
その様子は、なんというか……なんだろうな? 触手がうねうねと動きながら樹木から別の何かに形を変えていくような、なんかそんな感じだ。
最終的には見上げるほどの大きさだったはずの樹は俺たちと同程度の大きさまで縮まり、そして……
「で・き・たー!」
人間となった。
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