第247話戦いの後の雑談
「いやー、こんだけ混沌とすると何が起きてっかわかんねえなぁ。『みんな』に聞いてもわけわからない返事しか返ってこねえや」
俺がついさっき種を蒔いて新たに生まれた奴らは、生まれたばかりだからかあんまりうまく意思を伝えてくれないし、他の植物達はいっぱいいすぎてどれがどんな情報を伝えてくれるのかわからない。これは聖徳太子がいても聞き分けることなんてできないだろう。
何せ聞こえてくる声の量はまさに波の如く押し寄せてきているのだ。十人どころか百人でもないし、何なら千人の言葉を聞き分けることができてもわからないだろう。
「どうすんだよ」
「敵将は捕まえるんですよね?」
「ああ、でもそれは俺じゃなくて他の奴らに任せるわ。俺もまあこういう状況でも仕留めるだけなら方法はあるんだが、それだと生きてるか死んでるかわからないんだよな。こう、全部巻き込んで攻撃するから」
敵の指揮官である例の貴族は捕まえるつもりではあるが、俺では難しい。あの数から一人を探し出すよりも、全滅させる方がよっぽど楽だ。
植物達に聞けばおおよその位置くらいならわかるだろうけど、俺は敵の中に突っ込んでいくだけの能力がない。
今回俺はこれだけの被害を出せたわけだが、農家ってのは基本的に非戦闘職だ。位階上昇に伴う身体強化の率も戦闘職に比べれば低い。あんな集団の中に突っ込んでいけば、探し出す前に死ぬ。
まとめて殺していいなら別だけど、今回はそれができないからな。
「巻き込んでの攻撃って……農家のくせに、魔法師よりも魔法師らしいこと言ってねえか?」
「何言ってんだよ。誰彼構わず巻き込んでの攻撃なんて魔法師の専売特許ってわけでもねえだろ? だって親父もこれくらいならまとめて薙ぎ払えるだろうし」
剣の一振りで城を斬るような男がいるんだ。範囲攻撃は魔法師の専売特許でもないだろ。……多分。
「お前とボスは別枠だろうが。一般論にお前ら入れて語るんじゃねえよ」
カイルが呆れたように肩をすくめているが、正直俺もそう思う。ぶっちゃけ人外枠だよな、俺たち。
「まあいいや。そんなわけで俺は範囲攻撃は得意だが、それだと敵の頭を確実に捕らえることができない。だから——カイル、お前行ってこい」
そう言いながらカイルの肩に手を置いて、にこやかに笑いかけてやった。
「……俺?」
だが、カイルはそんな俺の笑顔が気に入らなかったのか、眉を顰めてうろんげな瞳で俺のことを見返してきた。おい、何でそんな顔するんだよ。確かに自分でも似合ってねえ笑顔だなって思ったけどさあ。
「ああ、前に実力の確認はしたが、それから目立った戦果ってないだろ? まあ戦う機会そのものがなかったっていやあそこまでなんだが……」
前からこいつが何か活躍したいと思っていたのは知っていた。でも、今までその機会がなかった。何せここじゃそんなに襲撃受けないからな。
一応今回は聖樹の庭でリット何某を倒した時に戦いはしたが、それは他の奴らに見られていない戦いだったし、最後までカイル一人で敵を倒したわけじゃない。
俺としては初撃を止めてくれた上に、準備を整えるまでの時間を稼いでくれたことで十分活躍してくれたと思っているが、それでも目に見えた成果として何か結果を残したわけじゃないことに変わりはない。
「目の前にいい標的がいるぞ?」
そう言って俺が指をさせば、カイルの視線はそちらへと向く。この指の先には、敵の軍をまとめている指揮官や、貴族本人。あるいはそれに連なるなんか偉い奴と、いっぱいいる。
「ここには敵がいて、戦うための舞台が整ってて、主人が期待してる。さあ、お前はどうする?」
「ハッ! いいぜ、やってやる!」
俺が挑発的に笑って見せればカイルもそれに応えるように笑い、壁に向かって歩いていく。こいつ、階段じゃなくて直接壁から降りるつもりかよ。
「時間がかかりすぎたらまとめて潰すから、その前に倒せよー」
「おう!」
そんな返事とともに、カイルは壁から飛び降りた。普通なら死ぬんだろうけど戦闘職っていいよなぁ……。
「と言うわけで、ベルとソフィアは俺の護衛な。特にベル。俺も対処するつもりだが、それでもこんな戦場だ。危険があったら迎撃は頼む」
「はい! かすり傷の一つも負わせません!」
「頼んだ」
多分これ以上の襲撃なんてないだろうけど、油断して殺されましたじゃ話にならない。その点俺に関しての敵意悪意を感知できるベルがいるなら守りとしては問題ないだろう。
後やることといったら……
「聞けえ!」
壁を飛び降りたカイル一人で敵陣に向かっていくが流石に一人でアレをどうにかすることは難しいだろう。だから、仲間を増やしてやることにした。こいつらだって、せっかく準備したのに大人しくしてるだけってのはつまらないだろうからな。
「敵の大部分は俺が倒した。が、敵の指揮官はまだ死んでないし、敵もこっちに突っ込んできてる。後の処理もやってもいいんだが、それだとせっかく集まったのにつまらないだろ? だから、後のお客様はお前らで片付けろ。倒した敵の数だけ報酬をだすぞ!」
「「「うおおおお!」」」
「ただし、大規模な攻撃は禁止だ。これ以上街の周りを壊したくないからな」
お前がやったんだろうが、なんて声も聞こえるが、無視だ。知らん、そんなこと。
全体的にはいい感じだな。戦意は十分あるし、個人ごとの武力もうちの方が高い。
そんなわけで、先に一人で突っ走っていったカイルの後を追うようにして、開いていた門から街の住人たちがそれぞれの武器を持って走り出していった。
今の指示じゃ敵の指揮官を捕まえられない可能性もあるけど、その時はその時だ。どうしても捕まえたいってわけでもないし、別に死んでも構わないだろ。
これで後は待ってるだけで終わるな。
いやはや、せめてきてるって知った時は焦ったけど、終わってみれば大したことなかったな。まだ終わったわけじゃないから完全に気を抜いていいわけでもないけど、まあ大丈夫だろ。
「いやー終わった終わった。快勝だったな」
「快勝というか、圧勝じゃないですか?」
「というよりも、勝ち負けを論ずる以前ではありませんか? これはもはや蹂躙でしょう」
結局、敵の指揮官かはわからないが、カイルを含めてカラカスの住民達がなんか偉そうなやつらを殴って縛って連れてきた。
その身柄はすでに捕らえた本人であるカイル自身がエドワルドの部下のところに連れて行っているので、あいつに渡せば後はなんかいい感じに使ってくれることだろう。
結構な数が捕まってたし多分指揮官は捕まえられたと思うが、どうだろう? そこは確認してみないとわからないが、わかったところで俺が何かをするわけでもないしあっちに任せておけばいいか。どうせ捕まえられなくても問題はないんだし。
後は……特にやることもないかな。このまま一応ここで待機して状況を見守りつつ、って感じだ。
と、そこで先程の話が途中で止まっていたことを思い出し、暇つぶしに聞くことにした。
「——っとそうだ。えーっとなんだったか。ああ、リリア。さっき言ってた『うちの子』って、どう言う意味だ?」
「え? そのままの意味だけど? わたし達の森にも聖樹がいるでしょ? あの子が力を貸してくれたのよ。力っていうか、意思? せっかくだから言いたいことがあるー、って。だからちょっと繋げてあげたの」
意思を繋げる? それってどういうことだ?
確かにあの時リリアの様子を普通ではなかった。普段ではありえないと思ったが、実際にあれはリリアではなく、その体を使っていた聖樹だったってことか?
「……それはつまり、聖樹に乗っ取られてたってことか」
「ん〜? んー、乗っ取られるのとはちょっと違うかも。一緒になって動いてたって感じ? 私たちの繋がりを強くして境目を曖昧にして、二人で一つを動かしてる……とかそんなじゃない?」
自分のことだってのにやけに軽い言葉で応じるリリア。こいつ、どういうものかよくわかっていないで体を貸したってのかよ。完全に明け渡したってわけでもないっぽいけど、よくそんなことをする気になったな。
「随分と適当だな。境目を曖昧にってそれは人格とか大丈夫なのか?」
そんなことをすれば自分の人格が消えたり混じって別物になったりしそうなもんだが……
「うちの子って、フローラみたいにあんまり自己を出さないのよね〜。だから名前もいらないっていうし、今回だって意思はつなげたけど自我は繋がってなかったし……う〜ん。なんて言えばいいかわかんないけど、まあ大丈夫なのよ!」
そういや俺のもらった種から生まれた聖樹は『フローラ』って名前があるが、リリア達の森の聖樹には名前があるって聞いたことはなかったな。
「心配してるっぽいけど、あんただってフローラに同じことを頼まれたらやるでしょ?」
「……まあ、そうだな」
悩みはするしいろいろ聞くだろうけど、最終的には俺はフローラに体を貸しただろうな。
だがまあ、本人が大丈夫って言ってるんだから大丈夫だろう。流石にこいつもダメだったらダメだっていうだろうし、なんか異変があっても隠すようなことはないだろう。
「ならそれはいいとして、じゃあお前が言った言葉って聖樹の思ってたことそのものなのか?」
「え? うん。大体は?」
「大体なのか」
「だって、わたしだってかっこよくしゃべりたかったもん」
もんってお前……いやまあ、結果的に大成功だけどさ。
「言われてみれば、『悪』という言葉を使っていましたし、進んで悪者を名乗っていましたね」
ソフィアが思い出したようにそう言ったが、確かに聖樹の思いを伝えるだけにしては不要な言葉選びだったような気もするな。
そうか。あれはこいつの願望と聖樹の思いが混じった言葉だったのか。
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