第217話ついに来た!
「そしてあなたはこの男に似ている」
「……そうですか?」
親父と俺がねぇ……。似てるのか?
親父は俺とは血が繋がっていないとはいえ、俺を育ててくれたこと感謝はしているしそれなりに親愛の情は感じている。見捨てた方が楽だってのに、わざわざ厄介ごとを抱え込んでまで面倒を見て、色々と手を尽くしてくれた。
俺は親父——ヴォルクのことを本当の父親のように思っているし、俺自身、父親はこいつだという認識がある。
そんなだから、絶対に言葉にすることはないだろうが、まあ……似ていると言われて嬉しくないわけではない。
「ええ。今回の話だって、最終的にどうしても話が合わずに奪われていくようなら、力づくでどうにかしてしまえばいい、とでも思っていませんか?」
流石にそこまでは思っていなかった。話がまとまらないなら、拠点の作成の件さえ伝えられればそのまま帰ればいいわけだし。
「いや、なんとかはしたと思いますけどそこまでは……」
「思っていないと?」
「まあ……」
「思っていないだけで、実行できるだけの力がないとは言わないのですね」
「……」
そんなエドワルドの言葉に俺は何も言い返せなかった。だって事実だから。
そりゃあ、まあそうだな。できないわけじゃない。エドワルド率いる北区の奴らが全員相手になったとしても、俺は勝つ自信がある。
どうしても話がつかず、エドワルドが武力を持って襲ってくるようなら、その時は迎撃しただろう。一度くらいなら状況次第では見過ごしたかもしれないが、最悪の場合は仕方がないと割り切ってエドワルドの館に天地返しと播種をぶち込んだだろう。
そして、親父ももし襲われるようなことがあったら、のちの遺恨を残さないために全部をぶった斬るだろう。実際に過去に傭兵をやっていた時になんか揉めて城をぶった斬ったっぽいし。
「やはり、血は繋がってなくても親子ですね。ああ、あの時あの男が言っていた言葉が理解できるような気がしますね」
「あの時?」
エドワルドの言うあの時がいつのことなのかわからず首を傾げる。
「あの決闘騒ぎの時ですよ。『黒剣』は自分ですら敵わないかもしれない、とあなたを評価していました。流石にそれはないだろう。流石のこの男も目が曇ったのか、なんて思ったものですが……いやはや、と言ったところですかね」
決闘……ああ、あの小豚騒動の時のあれ。なんかもう随分前のことに感じられてあんまり記憶になかったな。苦戦した記憶もないし、せいぜいがちょっと面倒なだけだ。
まあその後に起こったあれこれのせいで、その時に殺しておけばよかったと後悔しなくもないが、あの決闘そのものには特に何も感じていないので忘れていた。
「まあいいでしょう。契約を結んだ以上はしっかりと役割を果たします。こちらに利益がないわけではないわけですし」
「っつーか利益だけならないわけじゃないどころか、かなり稼げんだろうが」
「さ、玄関までお送りしましょう」
呆れたように言ったそんな親父の言葉を無視してエドワルドは俺たちを玄関まで見送るために先導をし始めた。普通こんな見送りなんて使用人の仕事だろうに。親父が五帝の一人だってこともあるからなんだろうが、それでも五帝の一人にこうして見送りの案内をさせることはちょっと贅沢すぎるような気もする。
「細かい準備等が終わりましたら連絡を差し上げますので、その時にまたお会いしましょう」
エドワルドは館の前で別れの挨拶を交わしたが、最後まで俺たちのことを見送ることなく館の中へと戻っていった。
隣にいる親父から「ありゃあ金稼ぎのこと考えてんなぁ」なんて聞こえたから、多分俺たちとの話で何か考えることが出てきたんだろう。まあその辺は好きにすればいい。どうせ聞いたところで関わりたいとは思わないし。
「っし、そんじゃああとはなんもねえな。はい解散っと。お前らは適当に帰ってこいよー」
親父はそう言いながら連れてきた奴らを引き連れて馬車に乗り込み、さっさと家へと帰っていった。
だがしかし、ちょっと待ってほしい。親父は馬車に乗って帰っていった。それはいい。親父は馬車でやってきたわけだからな。それを使って帰るのは当然のことだ。
……でも、俺も馬車に乗ってきたんだが? 帰りの足はどうすればいいんだ? 歩けってか?
全ての馬車を引き連れて帰って行った親父たちの走り去る姿を見ながら、俺はため息を吐き出した。
だがまあ、俺たちを置いて行ったのは親父なりの考えがあるんだろう。たとえば、友好を深めるため、とかそんなん。前にも俺やカイルたちの仲を気にしてたし、ちょうどいいとでも考えてたんじゃないか?
だって馬車を全部持って行ったのもそうだが、突然解散とか適当に帰ってこいとか言い出して自分たちだけ帰ったのとか、どう考えてもおかしいし。帰るんだったら一緒に帰ればいいじゃんって話だ。
でもまあ、せっかくの気遣いなんだし、有効に使わせてもらうとしようか。
……友好のために有効に使う。……あ、だめだ。なんか自分で言っておいて寒くなってきた。
「帰りになんか買ってくか?」
「なんかってなんだ?」
漠然とした俺の問いかけにカイルが首を傾げたが、ぶっちゃけ俺だって何を買うのか決めて聞いてみたわけではないので、特に何も決まっていない。
こうして街に繰り出した時に買うのは、大抵食べ物だ。装飾品は興味ないし、武具も今のところ間に合ってる。そもそも剣とか買ったはいいけどそんなに使ってないしな。
服もオーダーメイドで作ってあるから今更買う必要もない。
そうなると、何を買えばいいのかっていうと食べ物くらいしかないのだ。カイルとベルがまだ俺の従者として活動していなかった頃は、お土産としてよく孤児院に甘いものを買って届けに行ってた。
今回ソフィアは家で留守番してるわけだし、お土産を買っていくのもいいだろう。というかそれくらいしか目的ないし。
「そりゃあほら、お菓子とか? ベルなんかはお菓子買ってくと喜んだだろ?」
だから今回もなんかそんな感じでいいんじゃないかと思ってそう口にした。
ああでも、今回は俺だけじゃなくてベルもいるんだから装飾品や服ってのもありっちゃありなのか。カイルは……まあどうでもいいだろ。多分こいつも身なりに関しては興味ないだろうと思うし。
「そ、それは前の話です。もう子供ではありませんっ」
だが、ベルは俺の言葉に少し恥ずかしそうにしつつちょっとだけ語調を荒くして答えた。
まあ、確かにもうベルだって十三とか四とかその辺の年齢だし、この街では一人前として扱われるような年齢だ。
だが、それでも俺からしてみればまだ子供と言ってもいい歳だと思うんだよな。背だって俺よりも小さいし。
「一生俺の年下だってことには変わりないだろ。それに、久しぶりにだらだら歩きたい気分なんだ。ちょっとお前らも付き合ってくれよ」
まあ目的なんてないんだから食い歩きとかでもいいだろう。どうせ暇だし。
「どのみちお前がどっか行くんだったら俺たちもついて行くことになるんだけどな」
「そうだったな。じゃあこれからどっか……ああ、あれだ。前によく土産を買ってやった『クリムゾンブレイカー』に行くからついてこい」
「何度聞いても菓子屋の名前じゃねえよな」
「味は美味しいですし、好きなんですけどね」
そんなふうに笑いながら三人で街の中を歩いて行った。
ひと月後。俺たちはカラカスから二十キロほど南に離れた何もない地点にいた。周囲には少し離れた地点に川がありそれ以外には見渡す限りの草原。それ以外には本当に何もない。
いや、何もないというのは正確ではないか。確かにものは立っていないのだが、その場所には人やものが大量に存在しているのだから。
なんでそんな何もない場所にそんなにものと人が存在しているのかと言ったら、とうとう俺は聖樹の種を植えて育てるための場所——拠点の制作を開始する日となったからだ。
だが……大変だった。ここにくるまで、本当に大変だった。大変だったと言っても肉体的にはそうでもないんだけどな? けど、精神的にというか、うん。結構疲れた。
ここを作るにあたってエドワルドに作物を売る契約をしていた。それ自体はいい。そもそも俺から言い出したことだしな。
でも、俺としてはこの拠点ができた後にその周りを利用して作物の育成を始めるんだと思っていたんだが……甘かった。
あの会議の後、細かい打ち合わせをしたのだがその時はまだ育てる場所は決まっていなかったから、「場所が確保でき次第連絡します」なんて言われて話が終わっていたのだ。
だが、エドワルドは話し合いが終わった翌日にはすでに場所を確保したようで、俺のところに連絡が来た。
まさかだったよ。まさか、あんなに早く確保するとは思わなかった。せいぜい三日後くらいだろうとか思ってたんだけどなぁ。金の亡者を舐めてたわ。
そんなわけでエドワルドが街の北側に用意した大規模な農場に行き、肥料を作り、地面を耕し、種を蒔き、育てすぎないように加減をしながら適度に育ててきた。
その程度なら疲れる要素はないんだが、なぜかエドワルドのやつ、俺のすぐそばで俺がスキルを使うのを見てたんだよな。多分俺がスキルの効果を弱く偽ってるのに気がついているんだろうと思うが、どうしてわかったんだろうか?
俺は本気でやれば1日で収穫まで育てることができる。そのためにはスキルを重ねる必要があるし、そうすると馬鹿みたいな回数が使えることがバレてしまうからあまり使いたくなかった。スキルを重ねた結果何が起こるのかも見せたくなかったしな。
もう色々とバレてる気もするけど、まだ実際に見せていないから確証はないはずだから……。
そんなこんなで育てた作物たちも今ではもう収穫まで育っており、この拠点の建設とは違うチームが収穫しているはずだ。もしかしたらそのまま出荷まで進むのかもしれないが、そこは知らない。あとは好きに使うだろう。
あとは、そのこと以外にも拠点を建設するための詳しい場所選びとか計画とか、かなり細かく決めた。
もう前に決めたじゃん、ってことも何度も現地に来て確認したり修正したりと、だいぶめんどくさいことになった。計画さえ伝えておけばあとはもっと楽に進むと思ったんだけどなぁ……。
まあそういったわけで俺は疲れていた。昨日はそこそこ早めに寝たが、今日は日の出前から起きる羽目になったし、すごく眠い。
日の出前に起きて何をしていたか? 何もしてないよ。
今日から始まる工事の前の話し合いとしてエドワルドに呼ばれたんだが、ぶっちゃけ話すことなんてほとんどなかった。エドワルド自身はやることがあったのかもしれないけど、俺は暇だ。何かあった際に話したいから、とも言ってたけど結局何もなかったし、こんなことならこんな時間に呼ばないでほしい。
まあそれはそれとして一応の理由があるからいいんだが、もう一つ俺の頭を悩ませるものがある。
それは……
「さあ、ついにこの日がやってきたわね!」
ソフィアの用意したシートの上で寝転がる俺の目の前には、堂々と仁王立ちしてなんか叫んでるリリアの姿があった。
「なんでお前がいるわけ?」
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