第165話第二試合・クラン名はちゃんと考えよう
舞台から下がった俺たちは控え室で待機していたのだが、それからしばらくの間適当に待っていると他の試合も終わり、今度は俺たちの第二試合の順番がやってきた。
「第二試合は、クラン『もふもふしっぽと犬耳』対『大地の絆』となります」
「……なんだあの名前」
そのため俺たちは再び舞台に上がったのだが相手のクランと向かい合い、お互いの紹介をしたところで困惑することになった。
「だからもっと違う名前にしようって言ったじゃん!」
「でも決めた時は可愛いって賛成してたっしょ!?」
「いや本気であれにするとは思わないでしょ普通!」
対戦相手のクランを見てみると、なんだか全員が顔を逸らし、俯いているような気がする。
ついでにクランメンバーたちはお互いに言葉を掛け合っているようだ。話している、というわけではないのはお互いの顔を見ることがないからだろう。
「たまにいるらしいのです。その場のノリだけで決めて後で後悔する方々が」
そんな様子をフィーリアは微笑ましげに見ている。
「ミリアに聞いた限りでは、彼女の時には『邪神滅殺龍撃団』と言うクランがあったそうです」
「……そうか」
それは、なんというか、その……かっこいい名前だな?
「ちなみに、そのクランの設立者の方は現在財務省で働いていて、呼び名は『邪神君』や『邪神滅殺君』だそうです」
「それはやめてやれよ」
本人にとってはそれを聞くたびに黒歴史を掘り返されるようできついだろうに。財務省の邪神君……ちょっと会ってみたいな。
「それではお互いに握手をお願いします」
相手クランメンバーたちはまだクラン名に関しての恥ずかしさが残ってるみたいだけど、それでもリーダーは1人で前に出てきた。
「えっと……よろしくお願いします」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。可愛らしい名前のクランですね」
「うえっ……!? ……あ、ありがとうございますぅ……」
そしておずおずと手を出してきた相手のリーダーに対し、ただでさえ恥ずかしがっているクラン名だというのに、フィーリアはそんな名前を呼んで楽しげに笑った。
それによって相手のリーダーはさらに萎縮して視線を逸らしてしまう。
「性格悪いな」
「盤外戦術は基本では?」
萎縮した相手リーダーとの握手を終えて戻ってきたフィーリアに小さく声をかけてやると、ニヤッと笑った。
確かに基本ではあるが、性格悪いな。王女のやることか? まあ王女を政治家だと考えるとやってもおかしくないことだと言えなくはないか。
「それでは、試合開始!」
そうして司会の合図とともに試合は始まり、一回戦と同じようにフィーリアは魔法を使用するための準備を整えていくが……
「バラけたか」
相手クランの構成は魔法師が2人に前衛が3人、斥候が1人弓1人の計七人だ。それだけの人数が固まっていたらいい的になってしまうので囲われないようにする為だろう。フィーリアの魔法が完成する前に相手のクランは前後左右に跳んでその場に固まらないようにした。
「ま、そうくるよな。でも——」
敵の動きを見て俺はそう呟いたが、直後にフィーリアの魔法が発動する。
「大地よ起きろ・我が意をここに示さん——《グランドランス》」
今回は壁で囲われることなく地面からいくつもの土の槍が林立する。
その場から動かなかった魔法師は足にダメージを負い、動き回っていた他の奴らも四名ほど体のどこかしらに攻撃を喰らっていた。まともに回避し、動けるのは二人だけ。
こうなるとその二人が突っ込んでくるだろうな。で、フィーリアを狙う。じゃないとさらに魔法が使われて辛いことになるだろうし、クランリーダーを倒せば終わるんだから狙って当然だ。
そしてそんな考えはあっていたようで敵はフィーリアに向かって攻撃を仕掛けてきた。
——が、そんなのを俺たちが許すはずがない。
「《襲雨》!」
フィーリアの魔法によって足を怪我したのか、その場から動かない相手のクランメンバーの1人が叫ぶと同時に矢が空に向けて放たれ、それが山形の頂点に達するといくつもの矢に分裂し、放たれた時よりも加速してフィーリアに向かって降り注ぐ。が——
「《スリ》」
フィーリアのそばにいた俺は、フィーリアの前に立つとその姿を庇うように両手を真横に広げ、盗賊の第二位階スキルを発動させた。
盗賊の第二回スキルは《スリ》。なんともひどい名前だし、効果もまんまその通りなんだが、これが結構使える技だ。
スキルの効果は、俺から半径一メートル以内にある物体を自身の手のひらの中に誘導すること。一種のテレキネシスのようなもので、このスキルには制限がある。対象の場所を認識していて、なおかつそれが持ち主に固定されていない場合にのみ発動できるスキルだ。
だが、逆に言えば存在を認識できていて固定されてなければどんなものであっても自身の手のひらに誘導することができるという優れもの。しかも誘導する際にちゃんと俺が掴めるような状態になってくれる。
どう言うことかというと、今であれば矢は縦に、鏃を俺たちに向けて飛んできているわけだが、スキルの効果対象となった矢は鏃を横に向け、シャフト——鏃ではない棒の部分と言えばわかるだろうか。その箇所を俺の掌に向けていた。
あとは俺は手のひらに飛んできたそれを受け止めるだけでおしまいだ。それだけで矢を無効化することができる。
「なんっ……!?」
まあこれは一つの対象を回収するごとに一回スキルを使わなくちゃいけないんだが、飛んできた矢はせいぜい二十本程度。そのくらいなら大した痛手にもならない。全部にスキルを使いスッてしておしまいだ。
「お返——しっ!」
掴んでいた二十本の矢を全部投げ返してやった。——弓を射ってきたやつではなく、こっちに接近していた剣士と斥候の2人に、だが。
左右の手に十本づつで、ダーツのように投げたから何本かは変な感じで飛んで意味がなかったけど、数本でもまともに飛べばそれでよかった。
仲間の矢が掴まれるとは思っておらず、それが投げ返されるとも思っていなかったんだろう。接近しようとしていた2人は驚いたようにして足を止め、咄嗟に身を投げ出すことで矢を回避したが、その動きは止まってしまった。そこに走って接近していき、腰の剣を抜いて斬りかかる。
剣士は突然のことではあるが剣を抜いて襲いかかってくる俺に対応しようとしたのだろう。すぐさま体勢を立て直すとその場で剣を構えてこちらを睨みつけてきた。
この剣士が第何位階か知らないが、そこそこの位階ならまともに撃ち合うと負けるかもしれない。なのでまともに打ち合わないことにする。
俺はニッと笑いながら突然足を止め、そんな俺の様子を剣士の少年は眉を寄せて見ている。
「俺ばっかりじゃなくて、背中に気をつけたほうがいいぞ。これはチーム戦なんだから」
その言葉でハッとしたように少年は背後に振り返る。
——が、そこには何もない。ただ林立する土の槍と、それにやられた仲間。それから新たに矢を番えた弓兵だけ。
でも当然だ。だって今こいつらを攻めているのは俺しかいないんだから。
背中に気をつけろなんてのは意識を逸らすための言葉でしかなく、そんな小細工はカラカスでは常套手段の一つだ。
騙されたことに気がついたのだろう。少年は慌てて前を向くが、その時には俺はもうそこにはいない。
「どこにっ!」
どこも何も、ここだよ。言っただろ……
「背中には気をつけろって」
林立していた土の槍の陰に隠れながら回り込み、少年の背後から奇襲を仕掛けた。そうして首にナイフを突き立ててやればそれでおしまいだ。
突き立てると言ってもこれは実戦ではないし、殺すことはない。突き立てた姿を見せさえすればそれでこの少年剣士は退場だ。
だが、退場する前にちょっとだけ活躍してもらうとしよう。
俺は少年の首からナイフをどかすと、ナイフを斥候に投げつけてから少年の体を担ぎ上げた。
「え、ちょっ—!」
そして、担ぎ上げた少年の体を盾にしながら斥候を無視して先ほどの攻撃をした弓兵へと向かっていく。いるってわかってて隠れる場所のない斥候よりも、遠距離からちょこちょこ手ェ出される方がうざいからな。
弓兵の少女は盾にされている少年のせいで射ることができないようで、戸惑った様子を見せながらも逃げている。
少女は足を怪我しているものの、逃げ出されてしまえば盾という名の重りを抱えた俺では流石に追いつくことはできず、俺が動きを止めると少女も逃げるのを止めた。
だが、これでおしまいだ。この少年にも言ったがこれはチーム戦だぞ?
「——グランドランス》」
「おごえっ——!」
女の子にあるまじき声を出しながら真横から突き出した先端の丸まった土の槍を腹に受け、弓兵の少女は体を曲げて舞台の外へと吹き飛ばされていった。
これで残っているのは魔法師が軽傷と重傷が1人づつ。それから戦士2人に斥候1人。
魔法師は適度に邪魔をしてやればさほど脅威ではないし、斥候は今ソフィアが相手してる。俺がやるべきは前衛2人か。
リリアとレーネにはまだ手を出さないように伝えてはいるんだが、このままじゃちっと厳しいか?
勝てはするんだが、ちょっと手間取るかもしれない。できる限り余裕を見せつけて勝ちたい俺たちとしてはどうするか悩みどころだ。
「あの少年の足止めは俺がやる!」
っと、足止めね。時間を稼いでる間にこっちのキングを狙うか。まあ実際問題として奴らが俺たちに勝つには、もう俺たちのリーダーを仕留めるしかないからな。人数差があったにもかかわらず簡単に数を削られ、メンバーの半分以上が負傷となれば俺だってそうする。
ただし、それを許すかどうかってのは別問題だ。
「このおおおっ!」
俺に向かって接近してきた剣士は、その気勢とは裏腹に大振りの攻撃をすることなくとにかく攻撃を当てることに専念している。これは『倒す攻撃』じゃなくて『当てる攻撃』だ。確かに本人の言った通り足止めが狙いなんだろうな。
だが、そんな足止めに付き合っているつもりはない。
俺が剣士に攻撃されている間、もう1人の剣士がフィーリアの元に向かって走っていく。
斥候役のもう1人はソフィアの相手をしているが、ソフィアもだいぶキツそうだ。当たり前か。今のソフィアは『農家』のスキルに縛りをつけている状態だ。『従者』のスキルには攻撃系なんてないし、あとは純粋な体術でどうにかするしかないんだから。
相手がスキルを使っていてソフィアはスキルを使えていないにもかかわらず戦えているのは、ソフィアが足止めにだけ注力してくれているからだが、そろそろキツくなってきただろう。
これでお互いの近接系の三人は一対一の構造になったのだが、相手にはまだ魔法師が2人残っている。1人は重傷だが、落ち着いて魔法を使える状況なら怪我なんてさほど意味はない。
対してこっちにも魔法師が2人いるが、後のことを考えて戦わないように言い聞かせている。つまりいないのと同じだ。さて、どうしたものか……。
なんて悩んだ瞬間、後方から光の玉が舞台中にいくつも現れた。
光の球……つまりは光魔法師の仕業だが、相手にはそんなのいなかったはずだ。
だが、突如出現した光の球に対し、敵の剣士は驚いた様子で舞台の上を見回している。それの意味するところは、この光の球はこいつらの仕業ではないということだ。
じゃあ誰が、と考えると、いるじゃないか。うちの味方に一人、光魔法師の職を持ったバカがいたはずだ。
目の前の剣士から視線を外すことなくそのバカに向かって視線を向けると、光魔法師のバカ——リリアは杖を構えながら笑っていた。
その様子は、この光の球がこいつの仕業なんだと確信するのに十分なものだった。
「いっけえー!」
リリアがそう叫ぶと光の球は僅かに明滅し、それを見た俺はまずいと感じて敵の剣士から距離をとって目を瞑った。
そして、目を瞑っていても瞼を貫通して目を焼くような強烈な光が舞台の上で炸裂した。
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