第161話暗殺者より暗殺者してる農家
「聞きたいことは幾つかあるんだが、まず一つ目はお前らは灰蛇でいいのかってことだ。まあそうだろうなとは思ってんだけど、一応確証が欲しいわけで」
「は、灰蛇? なんだそれは! そ、そんなの知るわけないだろうが!」
「なんだ違うのか。それとも黙ってるだけか? まあ最初っから吐くとは思ってないけど、それじゃあ尋問と行こうか」
俺のことに怯えているくせに、男はまだ吐く気はないようで惚けた様子を見せている。忠誠がある……てよりは恐れているから、の方がありえるか。ある意味テンプレだし。
だが、それなら仕方がない。あまり好ましい方法ではないけど、サクッと話を進めるためにちょっとやるとするか。
「何をして——い、ぎゃあああああああ!?」
右手の小指を握る。少しづつ溶かす。言葉にすればやったことはそれだけ。
だが、それだけのことではあるが、受ける者からすればたまったものではないだろう。
「好きなだけ叫べよ。声は誰にも届かないからさ」
ここはこいつが引き摺られてきた時よりも前、俺たちがここに現れた時にはすでに遮音の結界を張っていた。そのおかげでここでの話し声は外に漏れることはなく、それは叫ぼうとも変わらない。多分今頃は他のところでも喚いている相手を捕まえて結界を張って音漏れを防いでいることだろう。
まあ、初撃の時点ではどこに潜んでいるかわからなかったから結界なんて張れなかったし、その際の叫び声は聞こえただろうからもしかしたら明日には七不思議的なあれで噂されるかもしれないが、それはしたがない。文句があるならこいつらか、もしくはこいつらみたいなのを送ってくるようなクソッタレに言ってくれ。
「さて、これで小指は無くなったわけだが、次は薬指だな。話したくなったら言ってくれ。そしたら止めてやるから。制限時間は二十本の指が全部なくなるまでだからそこは気をつけろよ?」
「話すう! 話すから! だからやめてくれええ!」
「……随分と落ちんのが早いな。矜持とか仲間を守ろうって意識とかないのか? いやまあ、それはそれで楽でいいんだけど」
握って腐らせていた小指が完全に形をなくしたところで再び尋ねたのだが、その瞬間に男は涙と涎ほかに鼻水を振り撒きながらに叫んだ。
さっきの反抗的な態度から一転しての言葉に、手のひらを返すのが早すぎるだろと思ったが、元々自己保身のために黙ってたんだから自分の身が危険になってる真っ只中だとそんなもんかもな。
まあ、話してくれるんだったらなんでもいいけど。
「で、まあそれじゃあ聞くけど、お前らは灰蛇で合ってるか?」
「あ、あってる」
「ん? あって〝る〟?」
言葉遣いなんて俺は特に気にしないが、こういうのは態度や言葉遣いを改めさせることで相手の心を折ることができる。折れなかったにしても、無意識下に上下関係を刷り込むことができるので相手の態度を訂正させるのは話を聞く際には有効的だ。……って、昔誰かから聞いた。誰だっけ? うちの仲間であることはまず間違い無いんだが、そんな感じのことを教えてくれる人が多すぎてわかんねえや。
「あってます! そうです俺たちは灰蛇ですっ!」
「そかそか。なら次だ。今回の依頼内容はなんだ? その依頼に何人が動員された?」
叶うなら俺の想像してた通りの相手だと面倒ごとが複雑にならなくて嬉しいんだけどな。
「い、依頼は第三王女の始末。難しければ大会に支障が出るくらいの負傷を、と。に、人数は二十人だ……です」
「負傷ね……まあスキルがあっても骨折でもすれば一日で完治ってわけにはいかないか」
治癒魔法なんてもんがこの世界には存在しているが、それでも骨折のような大怪我を1日で完治というわけにはいかない。いや、かなり上位の治癒スキルを持ってる奴ならほんのわずかな時間で治すことができるが、普通そんな奴はそこらへんにおいそれといるもんではない。いくら王女とはいえ、個人で雇うことはできないだろう。そもそも治癒魔法師の天職を持ってるやつって珍しいしな。
まあでも、今ならリリアがいるし骨折程度なら一晩あれば治るだろうけどな。あんなんでもあいつ第八位階とかいうふざけた階級だし。……でも、俺より上とか……ちくしょう。
でもまあ、なもんで、今こいつらが襲撃してきてその結果フィーリアが大怪我を負うようなことになれば明日の大会本戦での活躍は絶望的——とまではいかなくてもかなりのハンデをかけられることになると考えたのだろう。
そんなことになれば、仮に本戦で勝ち残ったとしても勝つのは余裕だ。とでも姉王女達は思ったのだろう。俺たちのことは眼中にないみたいだし、警戒しているのはフィーリアだけだったみたいだから、予想はそう外れていないだろう。
「じゃあ後は、そうだな……仲間についてだな」
「な、仲間?」
「そうだ。って言っても幹部とか厄介な奴だけでいい。全員聞いたところで意味なんてないしな。どんな奴がいて、どんな能力を持っていて、どんな性格なのか。その他諸々……知ってる限りのこと全部だ」
ちょっかいかけないようにってこの間やってきた襲撃者を生かして返したはずだ。そいつらからの伝言を聞いていないはずはなく、それでも襲撃してきたってことは今後も敵対するって意味だ。
仮に今回の件で情けをかけてやったとしても、ことあるごとにフィーリアに手を出してくるかもしれない。裏の奴らにとってメンツってのは大事だからな。襲ったけど何もできずに返り討ちに遭いました〜、なんてなったら周りから舐められる。だから自分たちの力を誇示するために灰蛇達は今後も襲撃をやめないだろう。
——なので潰す。組織にいる全員を処理して組織そのものを潰してしまえば敵対するも何もないからな。それなりに大きな勢力を潰せば、他の奴らも手を出しづらくなるだろうしいいことづくめだ。
まあ、中途半端にやると復讐とかが大変なこともあるが、その点俺がいれば平気だ。少なくともその場にいるやつに逃げられることはない。
そんなわけで俺は灰蛇に所属している大物の情報を知りたかったのだ。
「そ、それは……」
「ん、どうやら足りないみたいだな」
だが、流石にそれは話せないと思った——というよりも刷り込まれた恐怖によってか? なんにしても男は話すのを躊躇ったので、どちらが『上』なのか、話すのを躊躇ってもいいのか、というのを思い出させてやることにした。
「んぎいいああああっ!」
「話さないと指が全部なくなるぞ?」
「待って! 待ってくれええええああああああ!」
右手の薬指が完全になくなったことで男は再び泣き叫びながら縋り付くように俺を見ながら懇願してきた。
「待ってくれ! は、話したら死んじまう! 俺たちにだってルールがあるんだ。幹部たちの情報を漏らしたら解放されたところで殺されちまうんだ!」
「だから話せない、か。——でもさ、ここで話さなくても死ぬぞ?」
話せば生きていられるのかっていうと謎だが、少なくとも俺は殺しはしない。今一緒にいる影達に任せればいい感じにやってくれるだろうしな。
だが、話さなければそれまでだ。情報を吐くまで拷……尋問し続けることになるし、そうなったら仮に放逐されたとしてもまともに生きていくことはできなくなるだろう。
「話さなければ情報欲しさに殺されないだろう、なんて馬鹿なことは思わない方がいい。お前の代わりなんて、後十九人いるんだからな。それに、もし仮にお前一人だけしか情報源がないんだとしても、この尋問が長引くだけだが、それにお前は耐えられるのか?」
「あ……」
先ほど腐らせ、肥料に変わった元・指を男の顔面に落としてやる。腐敗した匂いが鼻をつくが、それを直接落とされた男は臭いなど気にならないかのようだ。というよりも、その臭いによって指のことを思い出し、これから自分に訪れる苦痛を想像したのだろう。
何かが壊れたような間抜けな声を漏らし、それからは逆らうことも反論することもなく素直に聞いたことを教えてくれるようになった。
「——うんうん。よし、大体はわかったな」
聞きたいことを聞けて大満足な俺は、立ち上がると男のことを影達に任せたて背伸びをして体をほぐした。そして少しだけ歩いて屋上野橋に設置してあるフェンスまでたどり着くと、そこから学園を見回した。そこからはもう動いている人影は見えないが、多分他の奴らもいい感じでやってくれたことだろう。
「……うまくいきましたね」
「だな。思ったよりも拍子抜けだったが、楽ならそれに越したことはないし、まあ結果としては良しだろ」
これなら他に残ってる十九人の襲撃者達から話を聞かなくても大丈夫だろう。一応情報の確認と精度を上げるために全員から聞くことになるだろうが、そっちは任せておいても問題ないと思う。少なくとも、わざわざ俺が出張る必要もないはずだ。元々この尋問だって俺がやる必要なんてなかったわけだしな。やったのはただの趣味——ってーとなんかやべーやつになるんだが、まあやりたいからやったってだけだ。
「ってわけで、後はよろしく——ああ、そうだ。誰か浄化できる奴いないか?」
やることは終わったので帰ろうと思ったんだが、先ほどまで肥料生成のスキルを使っていたせいでその臭いが体についてしまっている。部屋に戻ればソフィアがいるが、わざわざ部屋にまで臭いを持っていく必要はないだろう。
「それでしたら私ができます」
「なら悪いけど、ちょっと頼めないか? これやると汚れもだけど臭いがついてな」
「かしこまりました。それでは——《浄化》」
「ありがとう。俺はフィーリアのところに戻るよ」
「はっ。ご助力ありがとうございました」
影の1人に浄化のスキルを使ってもらい汚れも臭いも落とした俺は、軽く手を振ると屋上から屋内へと戻りフィーリアの部屋へと戻っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます