第103話交渉スキル(自前)

 

「冒険者ギルドですか」

「まあ情報を集めるのはここが一番だろ」


 話しを終えて再び歩き出した俺たちだが、現在は冒険者ギルドへとやってきていた。

 今はアルドア家から金ももらったし、冒険者としての活動なんてしなくても十分余裕を持って暮らしていける。

 だというのに、なんでこんなところにきたのかって言ったら、依頼を受けるためではなくてソフィアに言ったように情報を集めるためだ。


 まあ、情報って言っても大したもんじゃないけど。精々がこの街の周辺の状況やこれから先の道の状況、わかる限りの情勢なんかを聞くだけ。


「俺はあっち調べてくるから、ソフィアはそっちをよろしく」

「はい。かしこまりました」


 そういって俺たちは冒険者用のスペースに向かっていき、ソフィアは依頼人用のスペースに向かってそれぞれ情報を集めることにした。


 まあ一緒に行っても良かったんだが、こっちの方が効率的だし。それに、冒険者ってのは武力を必要とする仕事という性質上、粗暴なものが集まる。まあ定番だな。でもそんなところにソフィア——メイド服を着た美少女を連れて行ったら絶対に絡まれる自信がある。俺単体だって絡まれる可能性はあるんだ。厄介ごとが起こる可能性は増やさないに越したことはないだろう。


 そんなわけで、俺たちは二手に分かれて情報を集めることにし、俺はなにかしらの情報が貼ってあるであろう掲示板に行ったのだが、特にこれといった情報はなかった。

 次に成人未満用の依頼がまとめてある掲示板に行ったのだが、こっちもまあ見た意味はなかったな。


 となると、残るは成人用にある街の外に出て危険度の高い依頼を貼ってある掲示板だ。こっちを見れば多少は道の状況や情勢なんかもわかるだろう。どこどこには魔物が出たー、とか、あそこを通る道には賊がいるー、とかそういう感じのやつ。


 しかしそっちの掲示板には、掲示板の前に人が集まっていた。数人程度なので同じチームや知り合いなんだろうが、ぶっちゃけ邪魔だ。


 なんとか覗くことができないかと思って掲示板を見ようとしたのだが、いかんせん今の俺は子供だ。人の後ろから何かを覗くには背が足りない。


 どうにかしてみることができないか、もしくはこいつらさっさといなくなんねえか、なんて思っていると、掲示板の前で屯していた冒険者たちのうち一人が俺に気がついたようでこっちに視線を向けてきた。


「あ? おいガキがなんのようだ? こっちは成人してねえと受けらんねえんだ。なんか依頼が受けてえんならあっち行けや」


 俺はそう言われたことで、話しかけてきた男とその仲間、それから周りの反応を確認するために周囲を見回してみたのだが、ふと視界にこっちをみているソフィアの姿が目に入った。

 そのソフィアの表情は心配そうにしているが、それは俺が怪我をするかもしれない、という心配ではなくて、絡んできた相手にやりすぎないかという心配だろうと思う。実際この程度ならやられる気はしないし、その考えは仕方ないのかもしれない。


 でも、そんな心配そうな表情すんなよ。俺はこれでも『交渉スキル(自前)』を持ってんだぞ。


「いえ、依頼を受けるつもりはありません。ただ、この周辺にはどんな依頼があるのか、どんな危険があるのかと確認しようかと思いまして。……あっ! みなさん強そうですしちょっとお聞きしたいんですけど、この辺りって気をつけた方がいいことってありますか?」


 いっちゃあ悪いんだが、こいつらはみた感じそれほど強いわけではないだろうし、ギルドのランクも高いわけではないだろう。

 装備に細かな傷がついてるのはいいんだが、装備しているものの質が悪いし、その質がバラバラなのだ。

 一つだけ強力な魔法効果がついているものを持っている、とかならまだわかるんだけど、そういったわけでもなく普通に売られている品だ。だってのに質を整えられないってことは、整えるだけの金がないってことだ。大方それなりに使えそうで安かった装備を使っているんだろうが、金を持ってるんだったら装備は一定の質で揃えるはずだ。


 で、そんな金がない状態なのにこんな昼過ぎの時間でまだギルドで屯してるってことは、あまり優秀ではない、うだつの上がらない木端冒険者ってこと。

 多分田舎から上がってきた夢追人ってところじゃないか? そんなだからろくに冒険者として褒められたことなんてないだろうし、下から頼られたことも少ないと思う。


 なので、適当に煽てておけば機嫌良く話してくれるだろうと考えて返事をしたのだが……


「強そう? 俺たちが? ……へっ、よくわかってんじゃねえか!」


 効果抜群だった。いや思った以上に喜んでるな。そんなに煽てられたことはないだろうなとは思っていたが、そんなに態度が変わるほどか。話してくれるんだったらなんでもいいけど。


「というわけで話しを聞いて——」


 おいなんだその顔。


 掲示板の前で屯していた冒険者たちから話を聞き終えた俺は、視線だけでソフィアに合図をするとギルドの外に出て、それから合流した。

 これはギルドの中で話してたら絡まれそうだと思ったからなのだが……合流したソフィアは何故か表情を歪めていた。それも額は寄るほど力が入れられているくせに、口元はキツく結ばれているという微妙な顔。ぶっちゃけ笑いを堪えている顔だ。


「おい、なんで顔をそらしてんだよ」


 俺がおかしな表情をしているソフィアを睨みつけると、ソフィアはスッと顔を背けて、そこで限界だったのか声は出ていないものの肩を震わせ始めた。


「いえ……ただちょっと……」

「ちょっとなんだ?」


 なんで笑ってるのかはなんとなくだがわかる。多分さっき俺が冒険者に話しかけた時の態度のせいだろう。前にカイルも言っていたが、普段の態度と違いすぎて違和感がすごいとかそんな理由だと思う。

 まあ、普段の態度との違いだとか、それが似合ってないとかってのは自分でも自覚してるけどさ。


「そ、それよりも、その情報を元に次の進行ルートを決めましょうか」

「話しを誤魔化すなら声の震えを何とかしろよ」


 表情を取り繕っても声が笑ってんだよ。口角もいまだに上がったままだし。


「まあいい。とりあえず場所を移すぞ」

「はい」


 このまま話していても目立つだろうし邪魔だろうと考え、俺はいつもとは違ってにこにこではなく、によによと笑っているソフィアを引き連れて近くにあった喫茶店のテラス席についた。


「で、さっき聞いてきた内容だが、この辺りには最強種はいない。まあわかりきったことではあるけど」

「いたらもっと栄えているか廃れているはずですからね」


 流石に話し始めるとソフィアも真面目な様子に戻ったので、俺はその言葉に頷いた。


 最強種ってのはドラゴン・巨人・天魔の三種。

 状況によっては最強だと呼べる魔物は出てくる。スライムだとかキメラだとかな。あれらは成長すればドラゴンなんかに並ぶほど危険な存在になる。

 だが、そうじゃない。今あげた三種は生まれながらにして力を持っている者達だ。人が必死になって鍛えた果てにたどり着いた領域を何でもないかのように闊歩している。そんな理不尽な存在。


 ドラゴンと巨人は、まあ言葉のままだ。羽の生えた大蜥蜴と、城に匹敵するぐらいでかい人。言葉にすればそれだけだ。実際には言葉以上の力がある存在だけど、まあイメージはつくだろう。


 で、天魔ってのは何かって言うと、天使と悪魔のことだな。

 それなら四種族になるんじゃないかと思うかもしれないが、そもそもの話として、天使も悪魔も一つの種族なんだ。ただその個性というか、方針——考え方が極端なために思い込みが酷いのだ。「力があるのは正義を成すためだ。だから自分は正義のために戦おう。悪人は全部殺す」みたいな……思い込みで突き進む種族って言ったらいいのか? 


 そしてその行動しだいで天使や悪魔なんて呼び分けられているだけ。言うなれば天魔族天使派、みたいな感じだ。なので最強種ってのはその三種族なわけだ。


「ああ。で、危険な魔物の類もそれほど多くはない。むしろ賊による被害の方が多いかもしれないってくらいだ」


 アルドア家の当主も言っていたが、この辺りは賊による被害が多くなっているようだ。代わりに魔物の被害が減っているらしいんだが、賊による被害の方が大きくなっているので頭の痛いところだろう。


「カラカスの街から一週間以内で行き来できる場所となると、やはりそうなりますか」

「みたいだな。強いて言うなら、賊退治に人を割きすぎてるせいでゴブリンや動物系の小物が多いみたいだ。それと、分布としては俺たちの進路側の方が魔物の数が多いらしい。まあ多いって言っても大したもんでも無いらしいけど」

「その程度でしたら、特に心配することもありませんか」

「ああ。襲われたとしても問題なく片付けられるし、戦闘の余波で道が塞がれた、なんてこともないはずだ」


 魔物に遭遇したとしても最強種やそれに迫るような魔物がでない限りは問題ない。

 賊だって同じだ。どんな職でも第六位階以上の使い手がいたら警戒は必要だが、第六位階なんて使えたら普通にその分野の専門に進んで稼いだ方が安全だし安定する。

 基本的に街道を襲う賊なんてやってるのは力のない奴らなんだ。悪党でも力のある奴は拠点を持って仕事を選ぶからな。襲ってくるような賊なんて基本は数が多いだけの雑魚だ。それでも第四位階くらいまでは居るかもしれないけど、警戒さえしてればいくらでも対処できる。

 なので、賊や魔物の襲撃は問題ない。


 あとは賊にしても魔物にしても、倒す際によほどのバカが大規模な範囲攻撃なんてことをしない限り、もしくは土に干渉する系統の技を使われない限りは問題なく王都まで進むことができるだろう。

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