第68話憧れの冒険者登録!

 

「ここが冒険者ギルドか」


 エミールの記憶を頼りに途中街の人に聞きながら進むと、20分程で辿り着いた。

 外観は思っていたよりも大人しめというかなんというかまともな建物なんだが、一点だけ特徴を挙げるとするならば、遠目から見てもすぐに分かるようにギルドの紋章が描かれた旗が掲げられていることだ。


 これは非常時においても分かりやすくするための工夫だが、同時に俺たちみたいなお上がりさんへ配慮だ。この街に来たばかりの奴がうろつけば迷うこともあるからな。そしてそれは俺達にも当てはまるわけだが、素直に便利なのでありがたい。


 とりあえず、俺達はたどり着いたギルドに入っていったのだが、建物内の光景に驚き目を見張ることとなった。


「……なんか、思ったよりも大人しいんだな」

「もっと汚れが目立つ場所かと思ってました」

「だな。なんか思ったほどでもないような気がする。うちの酒場の方がやばい感じがするぞ」

「そりゃあ坊ちゃんたちが参考にしてるのがあの街だからでしょう。あそこに比べりゃあどこだって平和に決まってるってもんですぜ」


 エミールの呆れた声が聞こえる気がするが、そんなことが気にならないくらいだった。


 カイル達の言ったように、ギルド内は想像していたような荒くれ者達の巣窟よりも遥かに大人しいものだったのだ。


 思ってたのはもっとこう、ゴミとか落ちてたり汚れていたり、後はなんか空気が悪そうな感じがしてると思ったんだがな。


 流石に二人のようにあの街を基準にはしていないのでそれほどの驚きってわけでもないんだが、それでも思っていた以上に綺麗な光景は予想外だった。


 中にたむろしていた奴らはいかにもって感じの奴らだったんだが、それは冒険者ギルドという場所がら仕方がないだろう。だがそこにいる人を除いて見れば、この場所は冒険者ギルドとは思えないほどに綺麗なものだった。


「とりあえず、俺はここで待ってやすんで登録だけ済ませちまってくだせえ。それが終われば話を聞いても聞かなくてもどうにでもなりやすから」


 驚きながら建物内を見回している俺たちに対して、エミールはそんなふうに声をかけてきた。


 その声にハッと意識を戻した俺だが、その言葉に違和感を覚えたのでそう言った本人に聞いてみることにした。


「エミールはいかないのか?」

「行ってもいいんですけど、それだと経験って意味では余分かと思いやして。どうせ失敗なんてしやせんし、したところで大したことじゃねえんで〝外〟を経験させるにはある程度は坊ちゃんたちだけで行動させたほうがいいんじゃねえかと」

「ん。それじゃあ基本的には俺たちの好きに動いていいってことか?」

「ええ。まあそれほど離れるつもりはねえんで護衛は続けさせてもらいやすけど、やべえと判断した時、もしくは助言しておいた方がいいと思った時以外は基本的に見てるだけになりやすね」


 なるほど。つまり基本的には自分たちで判断して動けと。

 まあ、介護してもらいながら冒険者やったところで対して楽しくないだろうし、今後のための勉強にならないだろうから、そうしてもらえるのはありがたい。

 これがジートあたりだったら何でもかんでもついてきて介入しようとするだろうから、そういった点でも今回エミールが付いてきたのは良かった。


「わかった。それじゃあ行ってくる」

「お気をつけて。……まあここ程度じゃ気をつけるまでもねえとは思いやすけど」


 そう言って肩を竦めたエミールに対して俺は苦笑を返したが、確かに見た感じでは苦戦しなさそうだよな。

 実際に相対してみるまでははっきりとはわからないが、ここの冒険者達の実力はそれほど高いもんでもないと思う。なんならあの街でそこら辺に店を構えてる露天の店主の方が強い可能性さえあるように感じる。


 露天と言ったが舐めちゃいけない。あの街で露天をやるのは結構覚悟と実力が必要だ。何せ油断すれば盗まれたり襲撃を受けたりするからな。露天をやるには誰からも盗まれず、襲われても問題なく返り討ちにするだけの能力がなければなやっていけない。


 まあ露天の店主なんてのは特殊すぎてそんなのと比べるのは間違ってるかもしれないが、それでもやっぱり、言っちゃ悪いが大した実力はないんじゃないだろうかと思えてしまう。

 仮に何か問題があって絡まれたとしても、俺たちなら問題なく対処することができるだろう。どうせこの街で絡んでくるような奴なんて、あの街で絡んでくる奴らと比べたら劣る能力しかないだろうし。


「まあ、それじゃあ悪いけどちょっと待っててくれ」


 俺はそうエミールに言い残すと、カイルとベルを引き連れて受付へと進んでいった。


「あら、こんにちは。こっちは冒険者専用のカウンターで、依頼の受付はしてないわよ?」


 受付の女性は俺たちに気がつくと自分とは別の受付を示しながらそう言ったが、どうやら市民達が依頼を出す場所と冒険者達が依頼を受ける場所は別のようだ。

 考えてみれば当たり前なんだが、まあそれはいい。俺たちの目的はここであっている。


「はい。俺たち冒険者として登録しに来たんですけど、こちらであってますよね?」


 初対面だし、今後この街で活動していくのであればギルドの職員には良い印象を持ってもらった方が便利だろう。

 そう思って俺は子供らしさを前面に出して、受付の女性に向かって笑いかけながら答えた。


 後ろにいるカイルから「誰だこいつ」なんて聞こえたけど、無視だ。


「え? ええ、登録は受け付けてるけど……本当にあなたたちが冒険者をやるの?」


 だが、受付の女性は俺たちが冒険者として登録することに驚いたようで、困惑しながら尋ねてきた。


 まあ、カイルはともかくとして俺とベルの見た目は明らかに戦い向きじゃないからな。俺も一応戦闘に耐えるだけの筋肉はあるんだけど、それでもカイルみたいな戦士の体つきをしているわけじゃない。

 ベルに至ってはただの女の子だ。戦えるとは思えないだろうし、心配するのも当然だろう。


「規定では十歳以上なら誰でもってなってたと思うんですけど、ダメですか?」


 しかし、規定としては十歳以上であれば誰であっても登録することのできることになっているので、いくら俺たちが頼りなさそうでも登録そのものは可能なはずだ。


 もっとも、これは子供達の小遣い稼ぎのために街中でもできる依頼を受けさせるための規定らしいけどな。どの町にもいるものだが、孤児達対策の一環だそうだ。


 受付の女性は俺たちが冒険者になることを渋っているが、命をかけることもある上に、俺たちの失敗が冒険者どころか街全体を危険に晒す可能性があるんだから当然と言えば当然だ。魔物の巣に突っ込んでいって怒らせた挙句、街まで魔物を引き連れて逃げてくる、とかな。


 そうならないようにするためには、自身の行動の結果について考えることのできる者でなくてはならないのだが、その選別の方法として一定の年齢で区切ることは有効だ。成人である十五歳とそれ以前では思考能力に差があるのは確かだしな。


 だが冒険者として登録できる年齢を成人である十五歳以降にしてしまえば、今度は登録することができない年齢の奴らは金を稼ぐ手段が限られてしまい、犯罪方面に流れることもある。それを抑えるために子供達の金策手段として、冒険者活動ができるようにしているらしい。


 もっとも、成人前はいくら依頼をこなしても冒険者としての階級は上がらないらしいけど。上がるようにすると、自分ならできる、なんて考えなしで魔物を倒しに向かう奴がいるからだそうだが、まあいるだろうなそういう奴は。


「確かに規定ではそうだけど……そっちの女の子とか本当に大丈夫? 一応成人前の子は魔物との戦闘依頼は受けられないことになってるけど、それでも街の外に出ることもあるんだから魔物と戦いになることもあるのよ?」


 成人前の者が冒険者として登録したとしても、できることは街中での仕事や、簡単な採取依頼だけだ。

 だが、街を囲っている壁の外に出る以上は命の危険というものはどうしたって存在する。魔物しかり、賊しかり。


 しかし、街のそばで出る程度の魔物では問題ないだろうし、俺たちに〝普通の街で生活できる程度〟の賊なんて意味がない。だって俺たちが育ってきたのは普通の街では生活できなくなったような犯罪者達の暮らす街なんだから。


「はい。それなりに実力はあるつもりですし、そう簡単に死ぬつもりはありません」

「う〜ん。でも君たちはそんなに生活に困ってるようには見えないし……あなた達が思ってるほど簡単な仕事じゃないのよ?」


 それでも女性は俺たちが冒険者になることを渋っているが、なるほどな。

 なんでこんなに渋ってるのかと思ったが、どうやら俺たちの見た目が悪かったらしい。


 これが金に困って冒険者をやるっていうんだったらここまで渋られることはなかったんだろう。

 だが、俺たちは結構良い服を着ているし肌や髪も手入れされていて、どう見ても生活に困ってるわけではないのに冒険者になろうとしている。

 つまりはそこそこ裕福な家庭の子供が興味本位だとかお遊びで冒険者になろうとしていると思われたわけだ。

 だからこんなにも俺たちが冒険者になることを渋っていると、そういうわけか。


「大丈夫です。親からの許可ももらっていますし」


 むしろこれで登録できなかったら親父から笑われるだろうな。


「そう? でも、う〜ん……じゃあ一応登録するけど、本当にいいのね?」

「はい。お願いします」

「それじゃあ、この紙のこことここ。あとここの欄を記入してちょうだい」


 受付の女性は渋々と言った様子だが納得したようで、俺たちの前に紙を差し出してきた。


 えっと、なになに〜……

 書かれてる内容は普通だな。名前に年齢、天職と位階と使用武器とポジション。それから自身のアピールポイント。


 けどこれ、名前やら天職やらは登録に必要だとしても、アピールポイントって仲間の募集とかをするときに必要なあれだろ? 俺はカイルたち以外にチームを組んだりするつもりはないし、組む必要があってもその時はアピールポイントなんて関係ない状況だろうから、特に書く必要ないよな。


 それに俺、これ『農家』じゃない方がいいよな? なんとなくだけど副職の『盗賊』にしておいた方がいいような気がする。

 というかそもそも書かなくても良いんじゃね? だって自分から天職や副職をばらす必要もないだろうし。


「できました」


 そう考えた俺は、天職関連については何も書かず名前や年齢なんかの必要そうなところだけ書いて紙を提出することにした。


「あら、早いわね……って、これほとんど空白なんだけど……」

「天職は無闇に教える者ではないと親から教えられたんですが、だめでしたか?」

「いえ、ダメというわけではないけど……う〜ん。この子達はまだ魔物の討伐に出ないし、これでも平気かしら?」


 受付のお姉さんは小さく呟きながら考えたみたいだ。

 しかし悩んでいる様子の受付の女性だが、なんだかその様子がおかしい。なんか視線がチラチラと俺たちの後ろに向かってるような気がする。


 そんなことがありながらも、最終的には渋りつつも問題なく登録を終わらせることができた。

 まだ俺たちはチームを組むことがないわけだし、天職とかがわからない状態でも問題ないと判断したようだ。もっとも、成人したとしても募集で集めた奴らと組む気はないけど。カイル達がいるわけだし、俺は能力を秘密にしたいから、そんなことをするくらいだったら奴隷を買って使うわ。それだけの金はあるしな。親父の金だけど。


「それじゃあ、はい。これがあなた達のギルドカードよ。冒険者としての身分を証明するものだから、無くさないようにね」

「はい」


 冒険者としてのギルドカードを受け取った俺たちだが、俺は受け取ったカードをマジマジと見つめる。

 特に何か効果があるってわけでもないんだが、それでもこうしてファンタジーの証的なものを実際にもらうとちょっとテンションあがる。

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