第50話エルフ達の事情

 

 トイレから戻ったあとは部屋でおとなしくしていた俺たちだが、やることもなく暇だったので俺たちの世話役として人柱になったエルフと適当に話すことにした。

 少しでもエルフって種族について知っておきたかったからなんだが、最初のうちはまともに話ができなかったので苦労した。最後の方は普通に話すことができるようになったんだけどな。


 多分これ、護衛役でついてきたエディ達があんまり怖そうな顔じゃなかったってのが理由だろうな。俺たちの中でも強面のやつは最後まで怯えられてたし。

 その分護衛力っていうか戦力面では、うちで作ることのできる最強チームを基準に考えると戦闘力が幾分か落ちるが、それでもある程度は厳選しておいてよかったと思う。


 それでも何人かは怯えられてたが……ま、まあ最後にはなんとか全員と話ができるくらいにはなったんだから落ち込まなくてもいいんじゃないか?


 しかしそうして何人かに心の傷を残しながらも話しをした結果、ここには過去に異世界の勇者様がきたことがあるらしいと言うのがわかった。

 そして村の入り口で俺たちに襲いかかってきたルールーナがフられたのがこの勇者らしい。


 それ何年前の話だって感じだが、元々が植物の精霊の子孫なだけあってその寿命は長く、千年は生きるし、ルールーナで言ったら今は四百歳だそうだ。数百年前の出来事を拗らせたのがあれか……。


 ついでに言うと、レーレーネはおよそ四百五十歳でルールーナの幼馴染らしい。五十年差で幼馴染とはすごい種族だよな。


 ああそうだ。それから年齢関係で一番大事なのはリリアについてだ。あいつ、あんなアレなやつのくせして、歳は百歳らしい。正確には九十九らしいが、とてもではないがそうは見えない。だって〝アレ〟だし。

 アレを年上として敬おうとは思えない。


 それから、リリアの父親だが……死んだそうだ。どうにも病気だったらしい。


 樹化(じゅか)と呼ばれるエルフ特有の病気——正確には体質らしく、植物関連のスキルを使いすぎると体が植物へと変じるらしい。


 その理由はわかっていないと言っていたが、エルフってのは先祖が植物と精霊なんだから、その血が目覚めたというか、近づきすぎたんじゃないかと思う。

 前にリリアはエルフには植物関連の天職は少ない、なんてことを聞いた気がするが、それはこの体質のせいじゃないだろうか? 近親婚による劣化、それを抑えるかのような、そんな感じで自分たちにとって都合の悪いものを本能的に排除して、植物に近づく力を持って産まれてくることを避けているとかそんなん。神の欠片っていうくらいだし、それくらいの配慮はあっても不思議ではないと思う。


 まあ実際のところは分からない。わかってるのは、エルフは植物系の天職が少なく、発現しても使いすぎてはならないと言うことだけだ。


 それ以外にはここの奴らがどんな暮らしをしているのか、とか、エルフとはどんな種族なのか、とか聞いてたんだが、そうこうしている間に結構な時間が経っていたようで俺たちを呼びに来る者が来た。どうやら夕食の時間となったようだ。




 そうして俺たちの歓迎のために会食となったわけだが、参加者は俺たち側から十人。まあ全員だな。

 それからエルフ側の十人だ。その中にはここのそんちょ……女王であるレーレーネとリリア、それから俺たちに襲撃を仕掛けたルールーナもいた。

 他にも何人かいるが、まあ見事に全員知らないやつだし、全員ビビってる。なんか動作の一つ一つが小動物とか狩られる側って雰囲気がする。


 このまま食事会や話なんてしても大丈夫かなー、なんて思いながら改めて相手や会場を見回していると、ふとルールーナのことが目についた。


 なんだろう。あいつ、どことなく顔が赤いか? 照れてるとかそう言うんじゃなくて、熱を出した時みたいな感じの赤っぽさ。俺に視線を向けようともしないし、マジで体調が悪いんじゃないだろうか?


 もしかして俺が全身に水をぶっかけ続けたせいだろうか? その後の対処次第だけど、水濡れ状態で動いてたんなら風邪をひいてもおかしくはない。

 まああれから半日程度すらも経っていないわけだし、そんなすぐに熱が出るのか知らないが、種族が違うんだから俺の常識なんて通用しない可能性は十分にある。


 そのことについて進言しようとも思ったが、それを言って意固地になられたり騒ぎになっても困るのでそのまま進めることにした。


 だが、始まった会食に対して俺は微妙な気持ちを抱かざるを得なかった。

 俺は目の前に並んでいる料理達を見て何を言えばいいんだろうか?


 はっきりと言ってもいいのであれば——エルフ、やべぇな。

 それが今回の会食における俺の感想だ。


 最初は前菜として出てきたんだろう、くらいに思っていた葉っぱ達。

 だが、続いて出てきた料理達全ては野菜のみで構築されており、メインに至っては果物の蜂蜜がけというなんとも言えない、ステータスを甘さに全振りしたような料理? が出てきた。


 前菜はいいとしよう。スープも味の奥行きってか深みはないけど、まあそんなもんだろうと納得できる。

 だがメイン。お前はだめだ。なんだよ果物の蜂蜜がけって。お前メインじゃなくてデザート枠だろ!


 想像通りといえば想像通り。いやまあ想像通りってか、イメージ通りの方が言葉としては近いか?

 森で暮らし、森と共に生きる。そんな種族であるエルフは肉を好まず植物を日々の糧とする。そんなおとぎ話やファンタジー的なイメージ。


 そのイメージが正しかったことに安心って言うか喜びもある。種族の性格がアレだっただけにな。


 だが、こうも見事に果物類や葉っぱしか出されないとなると、うーんって感じがする。


 なんて思ってるとデザート枠として肉料理が出てきたが、これ完全にメインと逆だっただろ。


 ただ、他のエルフ達をそっと見てみると、メインの時と比べてあまり手が動いていないような気がするので、彼らにとっては肉料理というのはそれほどいいものではないのかもしれない。

 それを証明するかのように、出てきた料理の肉の量は少なかったしな。


 まあ、リリアに至ってはなんとも思っていないかのようにパクリと食べてしまったけど。


 デザートの後は話し合いをするメンバーだけを残しての歓談時間となったのだが、予想通りというかなんというか、レーレーネとリリア、それからルールーナ以外のエルフ達は礼儀を損なわない程度に挨拶だなんだをすると、流れるように部屋を去っていった。多分、あいつらは数合わせだったんだろうな。肉食動物の前で草食動物が一緒に食事をしようなんてことになったら、そうなるのも無理はないかもな。むしろよく逃げ出さなかったと褒めてやりたいかもしれない。


「あの、楽しんでいただけましたか」


 そんなわけでほとんどのエルフや俺以外の親善メンバーは席を立ったのだが、先ほどの食事の際に俺たちの反応が渋かったからか、俺のすぐ目の前に座っていたレーレーネは少しだけ不安そうにしてといかけてきた。


 っと、まずいまずい。いや料理が不味いんじゃなくて、この状況がな? 料理自体は不満はあれど不味くはなかった。


 で、今の状況だが、今回のこれは一応外交と言っていい。相手が相手で状況もアレだからそんな感じはしないけど、このエルフ達は立派な外交相手で、俺はその相手を任されてここにきたんだ。

 出てきた料理がどれほどアレでアレなもんだったとしても、不満を悟られるような顔をするわけにはいかない。それに虫料理が出てくるよりはマシだ。森で暮らしてる種族ってんならその可能性もあったんだからな。


 そう考え直すと、俺はにこりと笑みを作ってレーレーネの言葉に答えた。


「……ええ。自然の恵みをこれほどまでに集めた宴は初めてで、見た目も味も人間のものとは違って少し驚きましたが、美味しいですよ。なんというか……甘いですね」


 感想を言おうとしたが、それしか出てこなかった。だってメインが甘さ+甘さみたいな料理だったし。そこと葉っぱの青みしか印象がない。

 肉料理? そんなもんは二口で終わったから印象なんてないよ。強いて言うなら甘かったことくらいだな。肉の臭み消しや肉を柔らかくするのに蜂蜜かなんかの甘さを使うことがあるのは知ってたけど、これはなんか違う。肉の蜂蜜漬けってなにさ。


 過去の勇者がルールーネをフってこの森を出て行ったのって、ここの料理が嫌だったとかそんなんじゃないかと思うくらいには肉がないし、甘い。


 しかしそんな文句を言うわけにはいかないので、そんな甘いというだけの感想になってしまった。


「はい。喜んでいただけたようなら何よりです」


 だがレーレーネは俺の内心など知らないかのように僅かに硬らせていた顔を緩ませて、ホッと息を吐き出した。


 一応肉も……なんの肉だか知らないけど出ているので、食べられないってことはないんだろうけど、こいつらは種族全体で甘さ至上主義でも持ってるんだろうか? 思えばリリアもうちに滞在してた時はデザートで腹を膨らませようとしてたな。なので多分そう言う種族なんだろう。そう思っていくしかない。まあ、あいつの場合は肉でもなんでも楽しそうに食べてたけど。


「……一つ聞きたいのですが」

「はい?」


 さて、会食というのは食べておしまいというものではない。食べ終わった後の話こそがメインだとも言える。

 だからこそ、ってわけでもないが、俺は一つの方角を指で示して問いかけた。


「あちらにある大きな反応はなんでしょう?」

「あ……あっちにあるのは、その、えっと……」


 だが、俺の言葉を聞いたレーレーネは、ビクリと小さく体を跳ねさせると答えを探すかのようにあちこちへと視線を移した。


 その様子はどう見ても何かを隠そうとしているもので、聞いたらまずいことだったんだろうか? でも、ある程度は予想がついてるんだよな。その予想が正しければ、この反応は——


「聖樹」

「んびっ!」


 どうやらあっていたらしい。

 にしても、リリアもそうだが親子揃って隠し事が下手だな。いや、親子ってか、種族全体の特性として、か?


 でもそうか。聖樹は本当にあったんだな。……なんか言ってて天空の城っぽくなったけど、名前は知ってるしそれっぽい素材は出回ってるけど、実際に聖樹なんて見たことなかったからな。あるだろうとは思ってたけど、こうして間近にその存在を感じると改めてそう思ったよ。

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