第34話目指す理由
「だから植物に関連する天職を持ってる人っていうのはエルフに繋がりを感じるし、エルフ側も同じ。だからこそあの時私はあんたを見つけられたわけだし」
「……なるほど。つまり『農家』発見器か」
「農家だけじゃなくて『樹木魔法師』とか『木こり』とかもね。あとは精霊とエルフも見つけられるわ」
つまりエルフは植物に関連する天職を持ってるやつを見つけることができるし、その逆も然りってわけだ。
「ほーん。——まあそれはそれでいいとして聞きたいことがあるんだが……なんでお前こんな所に来てんだよ」
こいつには親しみを感じているが、だからといって身内ってわけではないし、構うのはめんどくさそうだ。
だが、こいつは構ってやらないと大人しくしていないだろう。さっきだって外に行こうとか言い出そうとしてたくらいだし。
なのでおとなしくさせておくために話をすることにしたのだが、せっかくならできる限り知っておいた方がいいことを知っておきたい。具体的にはこいつの目的や他に仲間がいるのかどうかってその辺のこと。
「そんなの決まってんじゃない! 世界一の『悪』になるためよ!」
俺が問いかけると、リリアは一瞬だけ不思議そうな顔をしたがすぐに口元にニッと笑みを浮かべて立ち上がり、俺を指差した。
「……世界一の悪? ……なんだってそんなもんを……」
「え? だってかっこいいじゃないアウトローって」
あ、わかった。今まで何度も思ってきたが、心のどこかでそうであって欲しくないと思っていたから完全には肯定できなかったが、たった今確信を得られたぞ。こいつ——————————ただのバカだ。
「……かっこ、いいか?」
「かっこいわよ。あんたこの町で暮らしてんのにそんなこともわかんないの? 昔森に来たやつはすっごいかっこよかったんだから!」
森に行った? 確かこの街の東にある森は人が入り込むと殺しに来るような物騒なところじゃなかったか? なんだってそんなところに人が?
「ちなみにそれ、どんなやつだ?」
「んっとね……確か迷い込んだって言ってたわ。歳は、んー……あんたよりも大きかったわね。でも大人らしい大人ってほどでもなかった、かな?」
俺より大きいけど大人じゃない……大体十五、いや十七、八前後ってところか?
「でね、私その時ちょっとその人と話したんだけどその人、森の外に出ちゃいけないって言われてた私に言ったのよ。『決まりに縛られてるなんてつまんねーぜ。世界は広いんだ。もっと楽しんで自由に好き勝手に生きてけよ』ってね。で、エルフたちも魔物たちも倒して森を出てったの」
外の世界を見たことのないお嬢様相手にそんなこと言ったら憧れを持たれても仕方ない、のか?
それの結果として俺んところに害が来てるわけだから、そんなことを言った無責任な奴には一言言ってやりたいが。
でも、こいつは楽しそうに話してるけどいいんだろうか?
「エルフを倒してって、それ仲間殺されてんのにそんな態度でいいのか?」
「え? ああ、違う違う。倒されはしたし魔物は殺されたけど、エルフは誰も死んでないわ。それもあってかっこいいと思ったのよ。並み居る敵をバッタバッタと切り倒して颯爽とお宝を持っていく。すごくない!?」
殺意を持って攻撃してくるエルフたちを一人も殺さずに倒してお宝を持っていく、か。まあ普通じゃねえな。勇者とか英雄とかそう呼ばれるような類のやつだろそれ。
「まあ確かにすごい——待て。お宝を持ってくって、なんか持ってかれたのか?」
さらりと流しそうになったが、お宝なんて盗まれたのか? この街のやつとエルフの関係が険悪なのって、そいつのせいじゃねえの?
迷い込んで倒されただけならまだしも、お宝盗まれたってそれ、完全に迷い込んでないじゃん。最初からお宝目当てで森に入ってっただろ。嫌われるに決まってる。
「え? あ——」
リリアは一瞬だけ呆けたような顔をすると、「しまった」とでも言うかのように目を見開いて俺のことを見てきた。
多分これ、何かを盗まれたということは秘密にしておかないといけないことだったのだろう。
「あ、あー……まあその、ね? なんていうか、うん。ね?」
誤魔化そうとしているんだろうが、全く誤魔化しになっていない。
それどころか、その反応はむしろ肯定しているようにさえ思える態度だ。
「持って行かれたんだな」
「うう……ひ、秘密にしてくれない? ママからは誰にも言うなって言われてるのよ。話したってバレたら怒られちゃう……」
俺としては誰かに言う理由なんてないわけだし、秘密にしておいてもいい。まあ親父には言うがそれだけだ。
ただ、何を盗まれたのか気になるな。それ次第では回収してエルフに恩を売ることもできるかもしれないし。
黙っている代わりに何を盗まれたのか聞いたら教えてくれるだろうか?
「別にいいけど、代わりに何を盗まれたか教えてくれ。そうしたら黙っててやる」
「う、うーん……まあ、それくらいならいっかな?」
悩んだようだけど、結構簡単に教えることを決めたな。いいのかそんなんで。
「えっとね、何か薬が欲しかったみたい」
「薬?」
「うん。えっと……エルフの作る薬は人が作ったものよりも効果が高いらしいのよ。それでその中に知り合いの子供が病気になってそれを治すために必要なものがある、って言ってたわ。けど、実際には何がなくなったのかは知らないの。お父様は何も教えてくれなかったし」
「秘薬的な何かか」
これもまあ、よくある話だな。でも、エルフの起源を聞いた今だとその理由ってのはある意味納得できるかもな。
エルフの先祖には植物の存在が混じってる。そんなエルフだからこそ、植物をどう使うのが最適なのかわかるのかもしれない。どう切ったらいいのか〜、とか、どのタイミングまで熱すればいいのか〜、とかな。
もし秒単位で工程の良し悪しを見極めることができるんだったら、そりゃあ人間が作った物よりもよくなるさ。
あとは植物と混じった精霊の不思議パワーで、素材となった植物の真の力を引き出すことができる、なんてのもあるかもな。
まあエルフの作る薬についてはいい。どうせ知ったところで俺に何ができるってわけでもないんだからな。突っ込んで聞く必要はないだろ。
それにしても……
「仲間のために危険を冒して突っ込んでいく、か」
どことなくここにいる奴らに似てる気がするな。ここの奴らも仲間のためにバカやることがあったみたいだし。
ふとそんなバカなことをする奴として親父の姿が頭に浮かんだが、まあそんなわけはないだろう。
リリアの年齢は俺と同じで十二、三ってとこだ。昔会ったって言っても、そりゃあ数年前……多分最大でも五年程度だと思うが、その程度のことのはずだ。
その時に十八として、五年経ったんだとしたら今は二十三。もしそいつが童顔だったことを考えても三十程度だと思う。もうそろそろ四十になる親父とは少しばかり歳が離れすぎてる。
「そう! ね、かっこいいでしょ? 決まりに縛られず、自分のやりたいことをやって自由気ままに楽しんで、最後には笑って去ってくの! 私も、あんなふうに自由にかっこよく生きたいのよ!」
「自由に、ねぇ……」
そこからはリリアの愚痴が流れ続けたのだが、こんなに『自由』になることに執着して愚痴があるってことは、やっぱこいつお嬢様だよな。
さて、必要最低限な話は聞けたしあとは夕食まで時間稼いで寝かしつけておしまいなんだが、それだけのことがすごく難しい。こいつ相手に時間稼ぎとか何すればいいんだよ。
それに、別の問題もある。
このままでは今日の分のスキルの使用回数稼ぎができないってことだ。
「どうすっかなぁ……」
「何がよ」
「あ? そりゃあ……」
考え事の最中に話しかけられたせいで反射的に答えてしまったが、すぐに言葉を止めた。下手にしゃべって天職の内容についてバレるのはまずいからな。
でも、そう言えばこいつにはもう俺が『農家』ってことはバレてるんだし、応用についてさえ話さなければスキルの修行をしていること自体は話してもいいんじゃないか?
そう考えると俺は、不思議そうな顔でこっちを見ているリリアに話し始めた。
「日課のスキルの訓練についてだな。お前って客人がいるわけだし、放っておくことはできないだろ」
「そんなの好きにやんなさいよ。一緒に見ててあげるから」
そんなことできるか、と思ったが、すぐに時間稼ぎになるか? と考え直し、自分がスキルの回数稼ぎをしたいこともあって結局は外に出ることとなった。
だが……
「——何、その馬鹿げた回数。なんでそんなにできんのよ」
リリアを伴いつつもいつものように庭に出て第二スキルを使い続けたのだが、しばらくするとリリアからなんとも言えないような声が聞こえてきた。
でも、その理由はわかる。だって普通なら俺の歳では百回も使えれば上出来なんだ。むしろ凄いとか素晴らしいとか言われるほど。
だが俺はすでに三百を超えてスキルを発動し続けてる。リリアが驚いても仕方がないだろう。
まあ、あとまだ数百回分残ってるんだけどな。特異性を見せないように無詠唱以外の連続発動とか同時発動はしていないから多少は時間がかかるけど。
無詠唱を使うのは仕方がない。スキル名なんて何百回も唱えてたら舌が攣るわ。
けどまあ、なんでできるのかって言ったら頑張ったからとしか言いようがない。
「訓練の賜物だ」
「……訓練しただけで、そんなにできる?」
できるんだなぁ、これが。できないやつは気合いが足りてないだけだ。あとは金と時間もか。
でもそれさえあれば誰にでも同じようなことはできる。
「それにしても、『農家』ねぇ」
「……なんだ? エルフでも『農家』は嫌われ者か?」
俺の天職が『農家』だってことで意味ありげに呟いたリリアの言葉を聞いて、俺はついスキルを使う手を止めて聞いてしまった。
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