第27話君たちみたいなのを待っていた!
「——なんて思ってたんだけどなぁ」
まあこれも楽しみだと思えば楽しみにはなるか。
「あ゛? なんだって?」
今俺はこの犯罪者だらけで薄暗い雰囲気の漂う街の中でもさらに薄暗く、後ろめたい雰囲気の漂う大通りから外れた路地にいる。
そしてそんな俺の前には三人のチンピラ。これも一種の『おやくそく』と言えるんじゃないか?
なんでこうなったかって言うと、なんとなく俺のことを狙っている奴がいたのだ。巻こうとしたのだが、意外にもしつこかったので道を間違えて路地に迷い込んだふりをして誘き出した。
俺を尾けていた三人組はこうして姿を見せたと言うわけだ。以上、説明終わり。
「なあおいクソガキ。どっからきたのか知らねえが、いいもん着てんじゃねえか」
「おおかたどこぞの金持ちんところのガキだろうが、親の言いつけを守んなかったみてえだなぁ。こんなところで護衛もなしにうろつくなんて危ねえぞぉ? 俺たちみてえのに襲われちまうからなあ!」
ゲラゲラと品がなく笑っているが、それは聞き覚えのある笑い声だ。それはこいつらの声を聞いたことがあるってわけじゃない。ただ街中で四六時中どっかからそんな感じの声が聞こえてくるってだけで、言ってしまえば単なるモブの声でしかないということだ。
三人組の見た目は、まさにS・M・L、或いは大・中・小と言っていいほどのもので、一人は背が高く全体的にほっそりとしたイメージだが、もう一人は背が低く肉がついている。最後の一人はその中間の、凡庸と言っていい見た目だ。
イメージとしてはほっそりとした長身のエルフとずんぐりした背の低いドワーフと普通の人間的な? まあ全員人間だけど。
言葉からして『俺』を狙ったのではなく、『金を持ってそうなガキ』を狙ったカツアゲと誘拐だろう。
こいつら程度ならどうにかなりそうだけど、他に仲間はいるんだろうか? 尾けてきた奴らはこいつらだけだと思うが、エディたち並に隠密能力があれば俺じゃあ察知できないだろうから最悪を考えて逃走ルートを確認しておこう。
「なんとか言えやおら! ああん!?」
男たちの言葉には応えずあたりを見回していたのだが、俺が怯えた様子を見せなかったことでも気に障ったのだろう。
男のうち長身の方がダンッと威嚇するように足を踏み出し、それまでの笑いを消して苛立ったように俺を睨みつけて叫んだ。
「おっ? ビビって声も出ねえってか?」
「怖えーのか? でも残念だな。お前はこれから売られるんだよ! 見た目がいいし、どっかの変態のペットとして一生暮らすことになるんだ。ま、世間ってもんを知らずに出歩いた自分を恨むんだなあ」
苛立った男とは違い、残りの二人はそれでも何も言わない俺のことを怯えているのだと思ったのだろう。そんなことを言って笑っている。
この歳になるまでそれなりに鍛えてきた俺としてはこの程度の輩ならどうとでもなると思うのだが、一つ聞いておきたいことがある。
「お前ら、俺の父親が誰だか知ってるのか?」
それはこいつらが本当にただ『金持ちのガキ』を狙ったのかどうかってことだ。もし俺の父親のことを知っていて、それでもこうして絡んできてるんだったらそれはただのチンピラではないということになる。
だが……
「なんだなんだ? パパの力を借りようってか?」
「お前の父親が誰だとしても、この状況で助けに来れるわけねえだろうがよお!」
助けにはくると思うなぁ。だって、どうせそこらへんで監視してると思うし。今まであんなに過保護だった親父たちがいきなり全部の護衛を取っ払うなんてあるわけがない。
最初に屋敷を出てくるときにも思ったが、気分は『はじめてのおつかい』なんだよ。
あれ、子供は一人で行動してるつもりでも実は陰ながら見守ってるだろ? あれと同じだ。
でも、この状況でも出てこないってことは本当にいざって時になるまで出てこないだろうな。この程度は自分でどうにかしろってことだと思う。
さて、どう対処したもの——ん、そうだ。せっかく試してもいい相手が出てきたんだから実験台になってもらうか。ちょうどさっき補充もしておいたしな。
そう判断した俺はポケットに手を突っ込み、中にあったもの掴んでからまた手を外に出した。
突然不審な行動をした俺だが、そんな俺の行動を止めることなくおとこたちはただ見ているだけだった。
……こいつら、ちょっと迂闊すぎやしないか? スキルなんてものがあるこの世界で相手に好きに行動させるのは悪手でしかないだろ。
多分それは俺の外見がただの子供にしか見えないってのもあるんだろうと思う。普通なら十五歳くらいまでは第一スキルしか使えないからな。効果も大したことがないし、スキルを使われてもなんともないって高を括っているんだろう。
まあ、侮ってくれてるんならこっちとしてはありがたいことだしどうでもいいか。
そうして俺はポケットから引き抜いた手を男たちに見せるように前に突き出し、握っていた手を開く。
「あ? んだこりゃあ?」
「ごみじゃねえかよ」
「おいおい、なんだよこれはよお? んなもんで許してもらおうってか? あんまし俺らを舐めんじゃねえぞ?」
俺が開いた手のひらの上に乗っているものを見た男たちは馬鹿にされたとでも思ったのだろう。先ほどまでは笑っていた二人もその顔に若干の苛立ちを混ぜて俺との距離を詰めるように足を動かした。
「これは良い物だぞ。どれくらい良い物かっていうと、お前らを殺すことができるくらいには良い物だ——<播種>」
三人の大人に迫られた俺だが、余裕な態度は崩さない。というか崩す必要がない。
俺が手のひらの上に乗っている種に意識を向けて最近覚えたばかりの単語を口にすると、種は今までと同じように音もなく放たれ、目の前にいる男たちの体に埋まっていった。
「っ!? っぎ、やああああああああ!?」
「がああああっ!」
三人の男のうち一人には眼球に種が突き刺さり、目を押さえながら地面を転がって叫んでいる。
もう一人は喉と心臓と睾丸に種が突き刺さったため、先ほどまでのようにしっかりと声を出すことができないようで喉と腹を押さえながら手を動かしている。多分三箇所同時に痛みがあるからどこを押さえればいいのか迷っているんだろう。
「て、てめえ! 何しやがったあっ!?」
そして三人のうち残りの一人には何もしていない。できなかったわけじゃない。ただせっかくなのでちょっとした実験の続きをしようと思っただけだ。
俺が何をしたのかわかっていないだろうが、突然仲間が倒れたことで俺が何かしたのだと判断したんだろう。残った平均的な人間っぽさの見た目をした男は身に付けていたナイフを抜くとそのまま俺に切りかかってきた。
「<天地返し>」
「なっ! 地面がっ——ぐお」
だが、俺がスキルを口にした瞬間に男の足元の地面は浮かび上がり、それによってバランスを崩した男は浮かび上がった後のひっくり返ろうとする土を避けることができず、頭から土をかぶってスキルによってできた穴の中に落とされ、埋められてしまった。
完全に埋まったわけではないが、それでも足止めはできるようだとわかったので実験結果としては満足だ。
「実験は成功と。予想通り『地面』がなんであってもスキルは発動するみたいだな」
『農家』の第二スキルである『播種』は、指定した地面に種を蒔くというだけのことしかわかっていない。
だが、地面とは何を持って地面とする?
もちろん辞書や常識としての定義はあるだろう。この今俺が踏んでいるこれ。足の下にあるこれこそが地面だというのはわかる。
しかしだ。じゃあプランターなんかには種を蒔くことができないのかと言ったらそんなことはない。
地面から切り離した土であっても種を蒔くことはできたし、寄生樹のように植物に対してもスキルを発動して種を蒔くことができた。
であれば、スキルで言うところの『地面』とは、ただ俺たちが踏んでいる一般的な意味での地面ではないのではないだろうか。
それにだ。植物の中には他の生き物を苗床として育つものだってある。そう行った植物たちには、生き物の体こそが『地面』なのではないだろうか?
そして、もしそうなのであればこの『播種』というスキルは、俺が地面と設定した場所であればその対象が『どんなもの』であっても『地面』として種を蒔くことができるのではないかと考えたのだ。
まあ、思いついてもうちの誰かに試すわけにも自分自身に試すわけにもいかなかったからそのうち試そうと思ってたんだが、こうも機会が巡ってくるとはありがたい限りだ。
「でも、急所を狙わない限りあの程度じゃ仕留められない、か」
眼球に種が刺さった男も、喉なんかの急所に種が刺さった男も、苦しそうにはしているけどまだ死ぬ様子はない。
まあこのスキルで蒔く種って、その種にとっての適切な深さに埋まるらしいし、それほど深くは埋まらないんだろうな。精々が五センチくらいじゃないか?
五十センチくらいが適切な深さの種があればいいんだけど、んなもんないよなぁ……。
けど、たったの五センチとは言ってもそれでも強力な武器にはなるだろう。初見ではまともに防ぐことはできないと思う。それが麦ではなくもっと小さな粒の種であれば尚更だ。
直径一ミリの種が突然眼球に向かって飛んできたら避けられないだろう。
……もしかしたら親父なら避けるかも知んねえなぁ。前に全力の不意打ちをしたことあったけど避けるどころか反撃されたし。
一応極小の種を足や背中に打ち込めば当たると思うけど、それで死ぬかって言われると流石に死なないよな。百とか撃てば多少のダメージにはなると思うけど……。
んー……まあ、今考えなくてもいいか。とりあえず今は『播種』が人間相手にも使えたってことと、『天地返し』で人を足止めできるってことがわかれば十分だな。超人相手の対策はおいおい考えるとしよう。
「っと、こいつらは……放置でいいか」
今更人の死に何か特別に思ったりはしないが、だからって自分で殺すのも嫌だ。だって気持ち悪いし。
なので生かしてやろう。目が見えなくなったり心臓の中に種が突き刺さったりして大変だとは思うが、それも自業自得だ。強く生きろ。
そう見切りをつけると俺は再び歩き出して路地を抜け、街の中へと戻っていった。
「そうだ。なんか土産でも買ってからカイルたちんところに行くか」
自由って言っても特にやることもないし、遊びに行くとしよう。
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