第15話はじめてのスキル!
「ここまでは天職とスキルについて大まかに説明致しましたが、この後はスキル発動の対価についてお話しさせていただきます」
ああ、まあ無限に発動! なんてできないよな。やっぱ魔力か? 今んとこ魔力を感じたことなんてねえんだけどな。
ほら、俺って赤ん坊ん時から意識があったし、せっかくだから小さい時から魔力を使って増やして、「ば、ばかな! なんだその魔力の量は!」みたいな感じで驚かれてみたかったんだけど、どうにも魔力を感じ取ることができなかったんだよ。やっぱ、なんか特殊な工程が必要になるんだろうか?
一応魔力ってもんがあるのは聞いたことがあるし、魔力が存在しないわけじゃないんだよな。
「常時発動型スキルはなんの対価もなく使えますが、スキルを使用する際には精神力を使います。なので、一日に百も使うことはできないでしょう。ただ、スキルの使用に慣れれば精神力の消耗も減ると言われております。目に見ることができるわけではありませんので感覚的なものの話になりますが」
あ、そうなの? 魔力じゃないのか。
でも、精神力ってのが今ひとつよくわからないな。気力とか気合いとかそういうのって解釈でいいんだろうか?
「精神力って、つまり気合ってことか?」
「厳密には違いますが、そう捉えてくださっても構いません」
違うのか。でも大幅には違わないみたいだし、そうか。スキルは気合いで使うことができるのか。
「スキルを使用するたびに自分の中にある何か——これは神の欠片と言われていますが、その『何か』から力が引き出されていき、そのたびに精神の疲労とでもいうべきものが起こります。ですが使い続けても不調になるくらいで死にはしません。なのでスキルを使うか使わないかは最終的にはその者の気力次第、となっております」
「なるほど。だが魔力とかはどういう扱いになってるんだ? 前にその存在について聞いたことがあるんだが」
「魔力は『魔法師』の方々、及び一部の天職の方のみ必要とされるものです。スキルを使用する際は第一位階であろうと第十位階であろうと一律の消耗度合いですが、魔法師は位階が上がるごとに多くの魔力を消費することになります。ですのでその魔力の管理、戦局を見極めての魔法の使用が重要となります」
「なるほどな」
魔力はあれど『魔法師』の天職以外にはいらないもの、か。
まあ魔法具なんてものがあるわけだし、全くいらないってわけではないんだろうけど、ことスキルの使用に関しては俺は気にする必要がないわけだな。
「ただし、精神力でどうにかなるとはいえ、最初は何度も使うことはできないでしょう。スキルを使い、自身の内にある神の欠片を使う感覚に慣れ、力を引き出されることに身体が慣れ、そうしてようやく日に何度も使えるようになるのです。初めは十回も使えれば上出来と言えます」
「限界を超えて強引に使えばより多くの回数を使えるようになりやすいとは言われていますが、それほどの無茶をする者はそういません。何せ限界を超えるほどの無茶をしなければならない状況に陥る必要があるわけですから」
まあ命懸けの状況には誰もなりたくはないか。
だが……なるほどな? つまり、無茶をして強引にやればやるほどスキルは多く使えるようになるってことか。
「ではこれよりスキルの使用に移りますが、何かご質問等はございますでしょうか?」
「いや、ない」
「それでは、場所を移しましょう。ここでは使用することができませんので」
そりゃそうだ。ここは部屋の中なわけだし、使えないか。使えたとしても何かあったら困るので外でやった方がいいってのは変わらないだろう。
というわけで俺たちは外に出ることにしたのだが、どうやら親父から使っていい場所を聞いていたらしく、ソフィアに先導されて庭の一部へと移動していった。
「ではスキルの使用を始めますが、まずはご自身の中に存在している神の欠片を認識することからになります。胸の中央、この辺りの奥に意識を集中させてください。自分であって自分でないものの存在を感じ取ることができるはずです。感じ取れましたら合図をお願いいたします」
自分であって自分でないもの、ね。
ふっ、任せろ。それならば何の問題もない。
「——これだな」
自分の胸の中、体の中心にある心臓の裏側とでもいえばいいんだろうか? なんかそこに重なるようにして違和感の塊があるが、それに気づくのにはそう時間を必要としなかった。
何せ魔力が使えないかと試行錯誤してたし、自分の中にある違和感なんてとっくに気がついていたからな。もはやこの違和感とは友達だ。生まれてからこの方十年間の親友だぞ? 気づけないはずがない。
「感じ取ることはできましたか?」
「ああ。違和感がある」
そう言って胸に手を当てるが、俺が違和感を感じ取れたのを疑問に思ったのかソフィアは僅かに眉を動かした。
だが特に何かを聞くこともなく続けるようにしたようで、そのまま話を続けた。
「ではそこから力を引き出すようにしてしてください。その時に頭の中にスキルの名が浮かび上がってくるはずですので、それを唱えます」
頭の中に浮かぶ? へえ〜、誰かに教えてもらうんじゃないのか。それは知らなかった。まあ誰もスキルに関して教えてくれる人がいなかったんだから当然っちゃー当然だが。
自分の中の神の欠片には気づいてたんだから無理をしてれば気づけたんだろうけど、後々に異常が出てくるかも、なんて言われれば無理することはできないので気づかなかったな。
そんなことを考えてから集中すると、少ししてからふと頭の中に何だか言葉が浮かび上がってきた。言葉というか、イメージというか……なんかそんなのだ。
だが、そうか。これが俺の——『農家』のレベル一のスキルか。
それじゃあ、早速使ってみるとするか!
「——<天地返し>」
頭の中に浮かんだ言葉を口にした瞬間、自分の中から何か力が抜けるような疲労感が発生した。これが精神力の消耗か。
肉体の疲労とは別の疲労を感じて顔を顰めるが、そんなことはすぐに気にならなくなった。
何せ、念願のスキルが俺の目の前で、俺の手によって発動したのだから。
おお? なんかゆっくりしてるが、土が持ち上がったな。これから何があるんだ? というか天地返しって何? 農業系のなんかだと思うけど、そんなかっこいい技みたいなのが農業にあったのか?
なんてことを考えてスキルによって浮かび上がった土の様子を見守っていたのだが、浮かんだ土はある程度の高さまで浮かび上がると上昇を止め——落ちた。
…………………………え? 終わり?
「おめでとうございます。スキルの使用は問題なく終わりました」
スキルの様子を見ていると待機していたソフィアが声をかけてきたのだが、まじで終わりなのか?
「……これだけ?」
なんて若干間の抜けた感じで聞き返してしまったのは仕方がないだろう。
天地返しってなんか凄そうな名前だからもうちょっと期待したんだが……まじで?
今俺の使ったスキルの効果を順番に説明するとしたら、まず地面の一部がスプーンで抉ったかのように持ち上がり、ある程度の高さまでゆっくりと持ち上がったら停止。
それから浮かび上がった土がゆっくりと逆さまになり、ドサっと音を立てて落下。落下した元地面である土の塊は落下した衝撃で大きな塊から小さな塊へと崩れたが、言ってしまえばそれだけだった。
「はい。『農家』の第一位階スキルは『天地返し』となります。効果は土を抉り、ひっくり返すことです」
「ひっくり返す? ……だけ?」
「はい」
恐る恐る尋ねた俺だったが、そんな俺の言葉にソフィアは一瞬の間も作ることなく頷き、肯定した。
「……」
「……」
そんな答えを聞いたからだろう。俺は何も言えず、ソフィアは何も言わず、お互いにしばらくの間見つめ合うことになってしまった。
しばらく見つめあった俺たちだが、俺たちの間にあった沈黙はソフィアの言葉によって破られた。
「ちなみに第二位階は播種——種を蒔くことで、第三位階は灌水——水をそそぐこと。第四位階は生長——植物の生長を加速させるスキルとなっております。それ以降はまだ判明しておりません」
だが、その言葉はまた沈黙をもたらすこととなった。
だって、仕方ないだろ? 生長促進はまあいいとしても、それ以外がひどい。不遇と言われるのも納得できるラインナップだ。
……さて、俺はこんな天職でどうやってみんなを見返せばいいんだろうか?
実際に使ってみたが大したものではなく、聞いた限りではろくなものがない。
そんな天職でこれから先やっていけるんだろうか? 見返すことは本当にできる——いや、待て。待て待て待て——待て。なに考えてんだ俺は? バカか?
俺は思い違いをしていた。みんなを見返す? そんな必要がどこにある。
元々スキルは俺が使いたいから使おうとしただけだ。だって超常の出来事を自分の手で起こせるんだぞ? 何年もスキルを使うって妄想を拗らせたり親父の話を聞いたりして期待値が上がってたからがっかりしたが、これだって十分に『超常現象』だ。考えてみろ、地球人が手も足も動かさずに土をひっくり返すことができたか?
いいや無理だ。少なくとも俺の知っている限りではそんな事をできる奴なんていなかった。
それができるんだぞ? なら、なにを悩む必要がある?
他人がなんと言おうと、俺は俺だ。俺はただスキルが使いたいってだけで十年待ってきたんだろ?
ならどれほど見下されようと、どれほど侮られようと、俺が満足できればそれだけで当初の目的としては十分達成しているのだ。
確かに思ったよりしょぼかったのは認めるし、それでがっかりしたのも確かだが、これはあれだ、育成系のゲームとでも思え。鍛えて鍛えて、能力を強化しまくっていけばいい。
天職の位階——レベルが上がれば効果も上がるんだ。だったら、こんなスキルでも役に立つことができるようになるかもしれないし、聞いた限りでは生長促進はレベル十にでもなればかなり有用になると思う。種を蒔いた翌日には収穫することも可能かもしれない。
希望や将来性や楽しさはあっても、嘆く必要なんて初めっからないんだ。
俺がやるべきはただ全力でスキルを使って鍛えればいい。それだけだ。
「——っし。やるか」
鍛えると決まれば、あとはやるだけだ。幸いにしてスキルを使うのに魔力なんてもんは必要ない。必要なのは気力だけだ。なら、理論上は一日中使い続けても問題ないことになる。
一秒に一回スキルを使うことができれば、一時間で三千六百回。十時間で三万六千回。
実際には十時間なんてやってられないから毎日一時間で、それを十日続ければ三万六千回になり、一ヶ月続ければ十万回になる。
そして次のレベルでも同じように新しく覚えたスキルを使い続ければ……はんっ! なんだなんだ。一年もかければレベル十までいけるじゃん。
普通のやつは第五位階まで行けばすごいなんて言われてるらしいけど、そんなもんは追い抜いてやる。
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