第13話『剣士』+『剣士』
「うっせえよ。おめえらだってバレてるやつは多いだろうが」
親父の言葉を聞いて俺は部屋にいた他の奴らに視線を向けたが、三人中二人が視線を逸らした。
……なるほどな? お前らもそうなのか。
「まあいい。……あー、俺の副職だがな、『剣士』だ」
親父は咳払いをしてからキリッと表情を改めて話し始めたんだが、その言葉には疑問がある。
「剣士? 天職じゃねえの?」
確かそう聞いていたはずだ。それとも実は前に聞いた天職は実は天職じゃなくて副職だった?
副職は天職よりも効果が低いと言われている。
だがもしかして、副職が剣士なのにそれを天職と同じくらいに鍛え上げて天職の方は秘密にしてるとかか? それで副職が天職と勘違いされてる?
そんなことを考えたのだが、どうやらその考えは違ったようだ。
「ああ。天職〝も〟剣士だ」
……? 天職が剣士? でも今副職は剣士って言ってたし、もしかして両方とも被ってんのか?
「……〝も〟ってことは二重で剣士やってるってこと?」
「そうなるな。たまにあるんだよ。それに適性がありすぎると天職も副職も両方とも同じになるってことがな」
「……それ、どうなんの?」
「どうもこうも、普通だ普通。特別面白い現象なんてねえよ。まあ、他よりも汎用性って意味じゃ下だが、その重複した分野に関しては他よりも上だ。ただやっぱ汎用性がねえから使いづれえわな」
「……へぇ〜」
親父は何でもないように言っているが、それって結構特殊っつーか選ばれし者感がするんだが?
だが一応そんなふうに感心したように声を漏らしたんだが、そこでエディの横槍が入った。
「なんて言ってっすけど、この人マジモンのバケモンすからね?」
「バケモノ?」
化け物と言われるとはそれほど強いんだろうか? そういえば俺、親父の武勇伝ってかなんかそういう『やらかしたこと』って聞いたことないような気がするな。
そのことに気がつくと俺はどんな話が聞けるんだろう、と楽しみにしてエディに顔を向けたのだがそうして聞けた話は想定外もいいところだった。
「っす。天職が重複するとスキルも重複するんすけど、それはただ効果が二倍になったってだけじゃねえんすよ。剣士の使う基礎のスキルに『斬撃』ってもんがあるんすけど、普通ならちょっと切れ味がよくなるくらいなんすよ。レベルにも関係してくるんで一概には言えねっすけど……まあそれはともかくとして、ボスの場合は城壁を切るんす」
「………………………………は?」
ナンダッテ?
「坊ちゃんを抱えてこの街にきた時、この屋敷の持ち主から奪うのにぶった斬ったんす」
「……なんか壁の一部だけ新しい気がしてたんだが、気のせいじゃなかったのか……」
だが、城壁って言うには些か弱い気がする。いやまあ、それでもかなりの厚さと高さがあるんだけどな? それを切ったってだけでもすごい……っつかすごいを通り越して凄まじいけどな。
「——ってか今初めて聞いたけど、五帝の屋敷を襲撃したのか」
五帝ってのは親父と同じくこの街を治めてる五人の通称だが、そんなことは今はどうでもいい。
安全を確保するために犯罪者の元締めの屋敷に突っ込んでったって……鉄砲玉どころの話じゃないだろ。
「ただ、この屋敷ならまだ可愛い方っすよ。傭兵時代にはマジモンの城壁、文字通り城の壁を切ってんすから」
「………………ええー?」
城って、あの城か? この屋敷の何倍もデカくて何倍も堅そうなあれ? その壁を切ったって言われても、俄かには信じられない。
だって、剣士って言葉から考える姿となんか違くね? これが剣王とか剣聖とかならやってもおかしくはないんだろうなって思うけど。……まあ、そんな『職』があるかは知らないけど。
「信じてねっすね。まあ俺も実際に会うまで誇張されすぎだって思ってたんすけど、まだ噂の方がマシだったっす」
だがそんな俺の反応は想定内だったのかエディは呆れたようにしながら笑っている。
「おら、なに人の昔話勝手にしてんだよ馬鹿野郎」
「いてっ! ひでっす! 俺は坊ちゃんに特殊なやつの特殊性を教えてただけだったのに! 必要なことっすよ!」
「だとしてもそこまで話すこともねえだろうが」
「そこまでって、そんな話してねえっすよ。まだボスの偉業の一割にも満たねえんすから」
城の壁をぶった斬っといて一割って、残りの九割何したんだよ。っつーかそんなことができるんだったら何でこんなところで俺みたいなガキの子守りなんてしてんだ?
「——まああれだ。重複してるやつは普通のやつの何倍もの威力を出せるわけだ。だから、重複してるやつにあったらお前の予想の十倍の力を持ってるやつだと思っとけ」
「十倍って、そんなにか……」
「つっても、んなもんはそうそういねえ。一つの国に一人いるかどうかだ。だからそんな気にしなくていい」
親父はそう言って話を終わらせようとしたが……やっぱり気になるよなぁ。
「んー……それはまあいいんだけど……」
「あ? どうした?」
「いや、一つ気になったんだけどさ、親父は『一つの国に一人いるかどうか』のすごいやつな訳だろ? だったら、どうして騎士団で下っ端やってたんだ? なんかこう、もっと重宝されてもいい感じだと思うんだけど? 少なくとも捨て駒にされるようなやつじゃないだろ」
そう。親父が本当に今の話の通りに強いんだったら、騎士として続けて王の懐刀的なことをしたり、国の守りの要として扱われたり、それこそ小国なら王になることだってできるかもしれないってのに。
「ああ、そりゃあ俺が副職を誤魔化してたからだ」
だが親父はまたも何でもないかのように答えた。いや、ように、ってか親父にとっては本当に何でもないことなんだろう。
「『職』ってのは神殿に行くか神官に見てもらうかだが、いちいち新人の騎士ごときのためにゾロゾロと人を引き連れて神殿に行くのは手間だし、神官を呼ぶなんてのはもってのほかだ。あの俗物どもは金がかかるからな」
普通は十歳になる、もしくはなった時に調べるらしく、貧しい農村では天職を調べることのできる神官が近くにいないために一生調べないと言うところも少なくないらしい。
俺の場合は生まれた時に調べてもらったが、それは王族として生まれたからで相当特殊な例だそうだ。
まあ、捨てられたことを思えば調べてもらったのがよかったのか悪かったのかって感じもしなくもないが、俺としては捨てられて現状にいることも含めて調べてもらってよかったんだろう。
「そんなわけで騎士になんのには自己申告になるんだが、俺は農家っつっといた。良い職だと疑われるが、不遇とされてるやつなら疑われねえからな」
そう言うわけね。
あーあー、でも納得だなぁ。何せ農家は不遇職だもんなあ!? わざわざ自分から農家って嘘の申告する奴もいねえだろうよ! ……はあ。まあ農家だろうとそのうち活躍できるだろ。頑張ろ。
「なるほど。でも、国ももったいないことしたよな。知らなかったとはいえ、親父を使い捨てるなんて」
「つっても、元々向いてなかったってのもあらぁな。騎士も安定って意味じゃそれなりだしだらけてられたんだが、いかんせん性に合ってねえ。今の方が気楽だな。……ま、仕事はめんどくさくなったがな」
親父はそう言いながら俺の頭に手を置いて乱暴に撫で回した。
「お前も頑張れよ」
……頑張ろ。
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