第6話after 奏音side〜
僕は死神、彼女は人間、本来であれば抱いてはいけない感情を抱いてしまった。
彼女と初めて会った時、普通ならあと一週間で死んでしまうと伝えれば命乞いをし、願いを聞けば欲望の限りを尽くすそんな人が多かった中で、彼女は何も言わなかった。
もうこの世に未練どころか、諦めを抱いていた、そんな表情をしていた。
薄々気づいていたと彼女は言っていたけども、そうだとしても簡単に受け止められるものじゃない。自分があと、一週間で死ぬなんて……。
それから彼女の願いを聞いて、一週間の間恋人になって欲しいと言われた。しかし、この願いもただ毎日、病室に来て話し相手になってくれればいいというもの。
その時からかだんだんと彼女のことを気にかけるようになっていった。
そんな中である日彼女が僕のことを知りたいと言ってきた。人にこんなことを話したことは一度だってなかった。
だからかもしれない……。人に初めて自分のことを話せた嬉しさと、自分のことを名前で呼んでくれたこと、記憶にはあまり残っていない、過去のこと。そして、何より華凛のくれた言葉が僕の中にしっかりと残った。その全てに詰まった感情が溢れ出て涙が出てしまった。
そんなみっともない僕に対して彼女は涙が止まるまで抱きしめてくれた。
この時から、僕は彼女に対しての関わり方が変わっていた。僕は彼女のことがこの時からずっと好きになっていたのかもしれない。
そんな彼女も次の日に僕に涙を見せた。僕は君に笑っていて欲しくて、そんな顔をさせたくなくて、その一心で君が僕に対してしてくれたようにずっと抱きしめた。
その時の涙目になった彼女の姿を見てドキッとしてしまった。この時に僕は悟った。
僕は本当に彼女、日向華凛のことが好きなのだと……。
だからこそ、生きていて欲しい……。僕と離れたくない、こう言ってくれたのは本当に嬉しかった。華凛のことが好きだから、だからこそこの世で幸せになって欲しいそう思った。
僕は今、僕達死神が過ごしている世界に帰ってきている。僕はそこで何とかして、話をしたいことがあった。そのために、僕はある人の元へ向かった。
「失礼致します。マイスター、お話したいことがあり参りました。」
「ええ、私も話があったのでちょうど良かったです。」
この人は、僕達死神の総括者の一人、僕ら死神はマイスターと呼んでいる。死神としては一番の権利があり、誰も逆らうことはできない。
「単刀直入にお伝えします……。どうにか、僕の担当している日向華凛さんの寿命を伸ばしていただくことはできませんでしょうか……。」
「ふぅ……、そんなことだろうと思いましたよ……。そんなこと許可できるはずがありません。」
マイスターの反応は一瞬だった。そこでマイスターはメガネを外し私の目を鋭い目付きで見ながら言った。
「マスターの称号を所持しているあなたならとっくに理解しているはずです。死神の仕事とはなんなのか、死神がするべきこととはなにか、規定は破っていいものなのか。」
マスターとは僕が持っている称号のことである一定の死神が優秀と判断された死神に贈られる称号だ。一般的には模範とするべき対象として見られる。ちなみに、新たなマイスターが推薦される時もこのマスターの称号を持っている者の中から選抜される。
「それに、あなたの彼女に対しての行動は明らかに死神としての仕事ではありません。度重なる、時間外行動、マスターの権限を利用した過剰行為、あまり褒められたことではありませんよ。」
「……ッ」
正直、返す言葉がなかった。今までこのようなことをしたことは一度たりともなかった。褒められたことではなかったとしても、華凛に喜んでもらいたい一心でやったことだった。
そして、マイスターは僕に決定的な言葉を突きつける。
「あなた……いえ、あなた達は互いに恋愛感情を抱いていますね。」
マイスターにはやはり、隠し通せなかった。
そこで、マイスターは僕に最後に問いかけてきた。
「彼女の寿命を伸ばしたいというのは、彼女の意思なのですか? 本当はあなたに対して彼女は何を言ったのですか?」
僕は素直に答えた。
「いえ、彼女の寿命を伸ばして欲しいと思ったのは僕自身です。彼女には、この世で幸せになって欲しい、そう思ったからです……。本当は、彼女は僕と離れたくないと今日の晩に泣きながら僕に伝えてくれました。」
「なるほど、彼女の意向はわかりました。実はですね、少し勝手に色々と調査を続けていたら、彼女には特例が出せそうなんですよ。」
「え……、どういうことですか!?」
正直、驚いた。一体どういうことなんだろうか全くわからなかった。
「今から伝えることをしっかりと聞いていてください。この判断はあなたと彼女に任せるとします。」
そしてマイスターが出したこの提案に僕は一瞬、何を言っているのかわからなくなった。
「彼女自身が、死神になるということです……。」
〜続く〜
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