第6話

そして、日は登りすっかり朝になりいつものようにカーテンを開けに看護師さんが来る。


いつものように「おはよう。」と言ったあとに、

「今日の華凛ちゃん、なんだか嬉しそうね。」

と言ってきた。


さすが、ずっと私のお世話をしてくれた看護師さんだった。私のほぼ誰もわからないようなことにも気づいてくれる。


それからもずっと今日の夜のことが待ち遠しくてずっとウキウキしていた。


そこで少し気づいたことがあった。

(あ……、洋服どうしよう……)

もう今は毎日着ている病院の入院着、今の私はそれしか持っていなかった。


せっかくの初デートなんだから、しっかりとオシャレしたいのはやまやまなのに、最低限の服もない……。


(やっぱり、少しくらいはオシャレしたいな……)

どうにかして、デートに見合う洋服だけは着れるように奏音くんにお願いしよう!!

そう思った。



そして、辺りは暗くなり病棟の電気も消え、いつも通りの暗い一人の時間がきた。


私はいつものように、奏音くんが来てくれる時間になるまで待っていた。


すると、いつもの時間よりも一時間も早く私の身体が解放された。急なことで私はすごく驚いた。


そして月明かりが差し奏音くんが私の前に現れる。

「華凛、おまたせ。さぁ、行こう!!。」

そう言いながら私に手を差し伸べ私は笑顔で「はい!!」と言いながら奏音くんの手を取る。


それから奏音くんは、病室の窓を開け、私をお姫様抱っこをするような形で抱えあげ窓の外へ飛び出した。


私は反射的に目を閉じてしまった。


それから、「目を開けてごらん。」と言われた私はゆっくりとまぶたを開けた。


すると、私たちは空を飛んでいた。

「え……、と、飛んでる~~!!」


「フフっ、びっくりした? このまま、目的地まで進んでいくから怖かったら言ってね。」


「ううん、大丈夫!! むしろ楽しいくらい!! 空を飛べるなんて思ってもみなかったから。」


「それなら良かった。じゃあ、少し急いでいくよ!!」


空を飛んでいるとき風がすごく気持ちが良かった。それと、奏音くんに抱えられていることにずっとドキドキしていた。



そして、抱きかかえられた状態で飛び続け私たちは、もう明かりひとつすら付いていない遊園地に到着した。


地面に着地すると、奏音くんは何かを取り出しそれを手に握りしめながら目をつぶっていた。


すると、ひとつも灯っていなかった明かりがポツポツと付き始め、次第に周りのアトラクションが動き始め、最後に観覧車がライトアップし光を発しながら回り始めた。


私はそれを前にして光の灯ったアトラクションの方に駆け出して行った。そこで目を光らせていると、奏音くんが声をかけてきた。


「華凛、ちょっとこっち向いて。」


その声を聞いて、私は奏音くんの方へと振り向いた。私が振り向くと奏音くんは指をパチッと鳴らした。


すると、月明かりから出ている光のつぶが私の周りに集まり始め段々と形を作っていきまるでお姫様のようなドレスに変わった。


すごく綺麗で、一生願っても着られないようなドレスまるで光ひとつひとつが輝きを放っているかのように、そして私好みのとても動きやすいドレスになっていた。


「どうかな……? 気に入ってもらえたかな……? 一応、華凛が動きやすいようにと思って、こういうドレスにしたんだけど……」


「うん!! すごく綺麗!! ありがとう奏音くん!!」

私は満面の笑顔で奏音くんに「ありがとう」を伝えた。


「気に入ってもらえてよかった。じゃあ、華凛今日はめいいっぱい楽しもう!!」


私は大きく頷きながら「うん!!」と発して奏音くんの手を取って駆け出して行った。



「えっと、まず華凛は何に乗りたい?」


「まずはジェットコースターに乗ってみたい!! 小さい頃はまだ身長が足りなくて乗れなかったから、ずっと乗ってみたいと思ってたんだ〜。」


「なら、はじめはそこに行こうか。」


そう言いながら私たちは駆け足でジェットコースター乗り場へと向かった。


乗り場に着いたあと、自分達でジェットコースターに乗り安全バーを下げてスタートするのを待った。すると、自動でジェットコースターは出発して進み始めた。


それから、上り坂を登っているときに


「華凛、怖くない?」


「全然、怖くないよ~!!。むしろワクワクしてる!」


そして、一気にジェットコースターが下る瞬間、風が私を駆け抜けすごいスピードで動いていることにすごい爽快感を感じられた。


その瞬間に私は奏音くんの方を見てものすごい笑顔で笑った。


それからは、昔から好きだったメリーゴーランドやコーヒーカップ、その他の絶叫系の乗り物にも乗って楽しんだ。


また、食べ物なんかも奏音くんのおかげで味わうことが出来た!!。歩きながら二人でポップコーンやチュロスを食べたり、ちょっと恥ずかしかったけど飲み物を交換し合ったり、本物のカップルになったかのようなデートを満喫した。



そして、最後に私が指をさしながら「最後に、あの観覧車に乗ろう!!」と言い、奏音くんが「いいよ」と言ってくれたので駆け足で行こうとしたが、

「ちょっと待って。」と奏音くんが声をかけ、立ち止まっていると奏音くんが私を抱えあげ「この姿のうちにやっておきたかったんだ。華凛と。」と私の目を見て言い私は顔が真っ赤になってしまった。


(やっぱり、すごくカッコイイ、ずっと見とれていたいくらい……)


そしてその状態のまま観覧車へと向かっていった。一回下ろしてとは言ったんだけど、結局下ろしてはくれなかった。


それから、観覧車に乗りはじめの方は景色を一緒に眺めたり、星を観たり、普通の観覧車デートを楽しんでいた。


その中で奏音くんが普通に

「今日は、楽しんでもらえたかな……?」


そう聞いてきた。


私は素直に「うん!! すごく楽しかった! こんなに楽しい思い出をくれて本当にありがとう!!」と返した。


でも、そう言っていた中でこんな思いが募っていた。

(そういえばもう、私あと、二日程で死んじゃうんだよね……。あれ……私……死んじゃったら、もう奏音くんには会えないのかな……)


この思いが私の胸の中に突き刺さってきた。

そのせいか、ありがとうと言った笑顔の中でポロポロと涙が出てきてしまった。


絶対にダメだとわかっていてもとまってくれない、そのせいで余計に涙が溢れてしまう。


これには奏音くんも「どうしたの!? 大丈夫?」と少し慌てていた。


申し訳ない気持ちでいっぱいだった。せっかく私のためにここまでしてくれたのに……、でも私の気持ちとは裏腹に止まる気配のない涙。


やっぱり私はずっと気づいていた。私自身がずっと想っていたことに。


「私……、奏音くんと……、離れたくない……。」


涙目になりながらも奏音くんの目をしっかりと見て正直な気持ちを伝えてしまった。


「華凛……。……大丈夫だよ。僕は華凛のためならなんだってするから……。」


奏音くんからの言葉を聞いたあと、そこからは覚えていなかった。



目が覚めた時には病室のベッドの上にいた。どうやら奏音くんが運んでくれたようだった。


そして、奏音くんは私の傍にずっといてくれていた。いつもの戻る時間をとっくに過ぎているのに。


「良かった、目が覚めて。じゃあ、僕は戻るね。本当はもう少し居てあげたいんだけど……。」


そう言ってから、奏音くんはいつものように戻っていった。






〜続く〜

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