第5話
そしてまた、身体が普段の状態に戻った。
やっぱり日に日に体調が優れなくなっていた。明らかに前より息苦しい。
それでも、私の気分は上々だった。
絶対、他の人が聞いたらおかしい人と思われるけど私にとっては奏音くんが私に寄り添ってくれたこと、慰めてもらえたことが体調が優れないことを上回るくらいに嬉しかった。
そしてまた、いつものように看護師さんが私の病室に来てカーテンを開けて、「おはよう」と声をかけてくれる。
たしかに、返すことは出来ない。でも私は今の私のできる心の中で全力のおはようを返した。
そしたらいつもより気分が清々しかった。いつも頭の中にあったモヤモヤが一気に流れ出て行ったような気がした。
今日はお母さんは来れないと看護師さん伝えてもらった。
だから今日はずっと窓の方を見ながら奏音くんと一緒にいた時間を思い出しながら心の中で微笑んでいた。
そしていつものように、筋肉をほぐすマッサージをしてもらい、そのあとはひたすら夜中になるのを待っていた。
そして時計の針が0時を過ぎ待ちに待っていた時間が来た。
いつものように光が差し込み私の身体が自由に動くようになり奏音くんが私の前に現れる。
「こんばんは、華凛。」
そう言いながら現れた奏音くんにわたしは抱きつく。
「今日も会えた!。ずーっと待ってたんだよ!!。」
「ありがとう、僕も会いたかったよ!!。」
そう言い合いながら、二人で抱きしめ合いながらちょっと悪ふざけ混じりでその状態で二人、病室のベッドに倒れ込んだ。
そして、その状態で奏音くんと目が合う。二人とも少し顔を赤らめながらお互いの顔を見て笑った。
笑いながら二人とも起き上がりお互いに顔を合わせた。昨日と一昨日の事で私たちの仲はこの短い期間ですごく深まった。
奏音くんも前より明るく素直に接してくれるようになり、前までちょっと固い印象だった話し方もすごく柔らかくなった。
私は本当の意味でこの奏音くんを大好きになった。
そして、私たちは本物のカップルになれた。そんな気がした。
「そうだ、華凛。今日はひとつ聞きたいことがあったんだ。」
「え…?、なに?」
今日は珍しく奏音くんの方から私に質問をしてきた。相手から何か聞かれるのってなんだか嬉しいと思いながらどんなことを聞いてくるのか待っていた。
「華凛がさ、今何かしてみたいこととかある?それと行ってみたい場所とか。」
私はすごく嬉しかった。
だから、わたしはこの質問に素直に答えた。
「えっとね……。奏音くんとデートがしたい!!。」
「えっ……、デート……。僕と華凛で……。」
奏音くんは私の言葉を聞いて少し驚いて、それからちょっと照れて、でもすごく嬉しそうで私も嬉しかった。
「うん!!。二人で最初で最後のデート!私、これが一番叶えたかった夢なんだ!。私が好きになった彼氏とデートすること。」
奏音くんは私の言った願いを聞くと少し微笑んでから
「よし、わかった!。なら明日にでも、行こう!華凛の夢を叶えに。」
「うん!! ありがとう!! あ、じゃあどこに行く?」
「そうだな……、あ! 前に華凛が話してくれた遊園地とかどうかな……?」
「私そこがいい!! すごい久しぶりだからもう楽しみすぎるよ〜!!」
前に奏音くんと思い出話をしたとき、私が小さい頃に一度だけ家族で遊園地に行ったこと、その頃から身体が弱くてあまり長くは入れなかったけどすごく楽しかったこと、元気だったらまた行きたかったなって二人で話したことがあった。
「よし、ならそこにしよう! 明日のまたいつもの時間に迎えに来るから。」
(あれ? 遊園地ってそんな時間までやってたっけ……?)そう思っていると……
「あぁ、時間のことは大丈夫だから、安心して待っててね。」
と、まるで私の心を読んでいたかのようにフォローをくれた。
(大丈夫ってどういうことなんだろう……)とは思ったけど、奏音くんがここまで不安のひとつもない表情をしていた。そのためか妙な自信があった。
それからは、どの遊園地に行くか決めたり、どういうものに乗りたいのかを話したり、遊園地での思い出話を少ししたり、しているとあっという間に空が明るくなり、少し日も昇ってきた。
「じゃあ、華凛。楽しみに待っててね。」
そう言って奏音くんは病室をあとにした。
そして私はいつものようにベッドに戻り酸素マスクを付け、ウキウキ気分でその時間が来るのを待つことにした。
〜続く〜
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