第4話
奏音くんが戻ってから朝になった。
この日から私は酸素マスクを付けられるようになってしまった。
確かに、前と比べたら息苦しさが増していたから私からしたらありがたかった。
でも、この酸素マスクは私がだんだんと死へと近づいているという証拠でもあった。
いつもの看護師さんによると今日はお母さんが来てくれるのだそう。そのことが今日の昼間の楽しみになった。
その時間になるまで、窓越しの景色をずっと眺めながら、お母さんとどんな話をしたいかな〜などと考えていたけど、今の私は会話すら出来ないということを思い出した。
(そうだ……、今の私は普通だったらおしゃべりをすることもできないんだ……)
このことを久しぶりに思い出した。奏音くんと普通におしゃべりをして笑いあっていたせいか全然気づかなかった……。
(そうだよね……。今の私は、あと数日で死んじゃう身体なんだもんね……。)
これを再認識した。たしかに、お母さんとおしゃべり出来ないのは悲しいし寂しい、けどお母さんに会えるんだからこんな悲しんじゃいけない!!そう思うようになった。
そして、数時間後お母さんが病室に来てくれた。
本当だったら笑顔で迎えたり、抱きついたりしたいけど、できないんだからしょうがないと思うようにした。
お母さんはいつものように着替えを入れ、看護師さんに挨拶をしてから私が寝ているベッドの隣りに椅子を置いて座った。
そして、いつものように私の手を取り「ごめんね……、お母さんがこんな身体で産んでしまったから……。こんなにつらい思いをさせて本当にごめんね……。」涙目になりながら私にそう言った。
(そんなことない!お母さんのせいじゃないよ!!)
そう伝えたいのに声は出ない……。
どうにかして伝えたいのに、身体中痛くて苦しくて、首を動かすこともできない……。
前からお母さんは私がつらそうにしている時、私に対して謝ってきた。それがずっと嫌だった。お母さんに自分自身を責めて欲しくなかった。こんなに私のことを一生懸命育て続けてくれたお母さんにそんなことを思って欲しくなかった。
だからいつも「違うよ、お母さんのせいじゃないよ!!」と伝えてきた。
だけど伝えられない、体で表現することも出来ない……。その虚しさが、私に今までにないくらいの悲しさと寂しさ、を生みだした。
それによって、私の閉じでいる瞼から一粒の涙が流れた……。
そしてお母さんが私の腕をマッサージしてくれた後、お母さんは帰って行った。
手を振りたいと思ってもそれは叶わない……。
そして、辺りはすっかり暗くなり病室の電気も消え、数時間待っていると時計の針は十二時の針を過ぎた。
すると私の身体はいつもの夜のように楽になり、酸素マスクをとり、ベッドに座っていた。
それからして、奏音くんが私の前に現れた。
「華凛、今日も会いに来たよ。」そう言いながら微笑んでくれる奏音くん。
その表情をみて安心しきってしまった私の目からは無意識にも涙が溢れ出してしまった。
「え……、どうしたの?華凛!!。」
心配そうに私に駆け寄ってきてくれる奏音くん。
そんな奏音くんに今度は私から泣きながら抱きついてしまった。そんな私を抱きしめ返してくれる、その安心感に甘えて、ひたすらに泣き続けた。
「奏音くん……。わたし……、わたし……。」
「いいんだよ。泣きたい時は泣いて……。君がそうしてくれたように、僕は華凛の全部を受け入れるから。僕は華凛の彼氏なんだからさ……。」
その言葉が今の私にとって何より嬉しくて、安心できて、暖かかった。
10分程泣き続けた後、潤んだ目と目の周りが真っ赤になった状態で「ありがとう」とお礼を言った。
すると奏音くんが私から少し目線を逸らした。
お礼を言った後の奏音くんの様子が少しおかしかったけど、私はただ笑顔で奏音くんに伝えた。
それからは、またいつものように二人でベッドに並んで座り話を続けた。
今日のお母さんとのこと、奏音くんはずっと私が話していることを聞いてくれた。
それからだんだんとお母さんとの思い出の話になり二人で笑って話し合っていた。
その時に奏音くんが私に言葉をくれた。
「華凛、たしかに今ではお母さんに対して思うように気持ちを伝えることは出来ないかもしれない、でも、お母さんの握っていた華凛の手からちゃんと伝わったと思うよ。それに華凛はずっとお母さんに対して感謝を伝えてきた。だからお母さんもわかってくれているはずだよ。」
その言葉のおかげで私はまた笑顔になれた。
それから私たちはまたいつものように笑って話し合ったり、お互いの思い出話をしたりして朝を迎えた。
奏音くんが帰ったあと、私は思った。
(今の私では思うように感謝すら伝えることが出来ない。でもちゃんとわかってくれる人がいる。だから私は今できる全力で伝えよう!!)
そう思いながら私は自分で酸素マスクを付けベッドに入った。
〜続く〜
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