第3話


「さて、なにをするのかな?」

 そう言って彼は私のベッドに腰掛けてきた。


 何をしよう?そう思った時、私は奏音くんのことを何も知らないことに気がついた。だから


「あの、私……奏音くんのことを知りたい!!奏音くんのことについていろいろ聞きたい!!」


 彼のことを知りたい。そう本心から思って出た言葉だった。


「僕のことか……、そんなこと聞いてどうするの?あくまでも僕は華凛の願いを叶える側なのに話を聞いてもらうなんて……」


「私が聞きたいの!!これもおねがいの一部じゃだめ……?」


 彼は少し悩みながらも「わかった。」と言ってくれた。


 そして彼は自分自身のことを話しだしてくれた。


「まず、華凛は僕ら死神がどうやって生まれるのかわかる?」


「え?死神として生まれてくるんじゃないの?」


 そう聞くと彼は首を横に振り、話を続けた。


「実は、僕ら死神の元はこの世に残り続けていた魂の一部なんだ。」


「え……、それって奏音くんは、元は私たちと同じだったってこと……?」


 そう聞くと彼は頷き、少し沈んだ表情になった。


「記憶はないんだけど、何年もずっとこの世をさまよっていたらしいんだ……。大半の魂は死神によってこの世を去る。でも中にはそれに従わずにさまよい続ける魂もいるんだ。そして何年もさまよえば、大体の魂は消滅する。でも、その中にはどんなにさまよっても消えずに残り続けている者もいる、それが僕ら死神。」


 彼は私に笑顔を見せながら話してくれた。でも、その笑顔から感じられたのは、寂しそうな表情だけだった。


 今までずっと、一人だった自分みたいに……。


 そう思った時、私は奏音くんを抱きしめていた。


「……えっ、どうしたの?華凛……。」


 どうしてこんなことをしたのか、自分でもよく分からない。でも、周りに誰もいなくなってしまった奏音くんの心の寂しさをどうにかしてあげたいと思ってした行動だったのかもしれない。


「奏音くん……、今は私がいるから。奏音くんの存在を知っている私が……、たった一週間の、私が一方的にお願いした関係だけど、私は奏音くんの彼女だから……。奏音くんには本当に心から笑顔になって欲しいの!」


 奏音くんを抱きしめながら、咄嗟にでたセリフだった。でも、これが私に奏音くんに対しての素直な気持ち。それをどうしても伝えたかった。


 そして、奏音くんの顔をみた。すると、彼の目からポロポロと涙が溢れていた。


 彼自身も少し驚いた様子だった。そして、私の顔をみて涙を堪えようとしていた。でも……。


「奏音くん、堪えなくていいんだよ……。私は奏音くんの全部を受け入れるから。」


 私がそう言葉をかけた。すると彼は私を抱きしめ返し、涙を流し続けた。声は出さないものの、私を強く抱きしめていた。


 そして10分ほど経った後、奏音くんは潤んだ瞳で「もう、大丈夫だよ。」と言って抱きしめていた腕をほどいた。


 それから少しお互いに沈黙が続いた。冷静になってみて、なんであんなことしちゃったんだろうと思い恥ずかしくなってしまい、私から話しかけることが出来なかった。


 でも、奏音くんが私に話しかけてくれたことで二人の間で流れていた沈黙が終わった。


「ありがとう……、それとごめんね。泣きついたりして……。」


「ううん、そんなことない、私は奏音くんの彼女なんだから。それに、泣きたい時は泣いていいんだよ。」


 彼は申し訳なさそうに、私に「ありがとう」と「ごめんね」を言ってきた。だから、申し訳ないなんてことは無いって伝えた。


 それと、

「私は、奏音くんのことが知れて、それと私に泣きついてくれたことが何より嬉しいんだよ!。」


 それを聞いて奏音くんは笑ってくれた。今度は、作り笑いなんかでは無く、ちゃんと笑顔になってくれた。


 それから二人でまた、話を続けた。


 奏音くんが唯一、今でも覚えている奏音(かなで)という名前のこと。その名前を死神の中で唯一、使い続けていること。


 大半の死神は、覚えていたとしても生前の名前は名乗らないのだそう。そして、死神は一人一人番号で管理されているらしく、だから奏音くんのような人はある意味特殊らしい。


 そんなことを話していると、辺りは明るくなり始め、窓からはうす明るい光が差してきた。


 二人とも話に夢中で、時間がどのくらい経っていたのかなんて気にもしなかった。


 でも、この時間になってしまうと流石に、奏音くんも戻らなくてはならないのだそう。だから、今日のところはここまでにして、「またね〜」といいながら手を振り見送った。


 奏音くんと話していた時間が、すごく楽しかった、そのため一人になった瞬間はなんとも言えない喪失感のようなものが心の中にあった。


 でも、あれだけのことを知れた、話せた。そのことが私の胸の中でいっぱいになった。


 だから今は別に淋しくない。

 心の中は、温かさに溢れていた。

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