第4話 なんでパンが二個?

 朝のちょっとした人身事故のせいで、今日は少し学校に着くのが遅れちゃった。

 だけどまだ時間はあるっ!


 御子柴くんに会う前に身だしなみだけでも整えないと!


 私は靴を履き替えて直ぐにトイレへと向かう。


 視界の端に女子の塊が見えたから、きっとあの中心に御子柴くんはいるはず。ならこっちは見えてないもんね。


 そして鏡の前に立つと、鞄からポーチを出して準備おっけー。

 う〜ん……せっかくメイドに整えて貰った髪もぐしゃぐしゃじゃないの。

 私はポーチからメイク道具を出して指に挟む。

 そして顔の前でポーズを決めて一言。



「さぁ、始めるわよ──」


「渡良瀬さん、何してるの?」



 同じクラスの子がそんなことを聞いてくる。



「漫画のメイクシーンにありがちな、それっぽいポーズをとってるの。大丈夫。もの凄くやりにくいから、ちゃんと一個ずつ持ち直すから」


「そ、そうなんだ……」



 その子はそれだけ言ってトイレから出ていく。

 あれ? あの子、手を洗ったのかな? 私ずっと鏡の前に居たけど……。


 まぁいっか。よし! 身だしなみ完璧! 今日は御子柴くんとの友達一日目だもんね! 気合いいれてこー! おー!

 そう気合いを入れたのに……



 ◇◇◇



「おはよ、御子柴くん」



 私はHRが始まると同時に、クラスの御子柴くん信者に聞こえないような声で話しかける。



「っ! お、おはよう……」



 ん? なんで今ビクッとしたんだろ? もしかして私の可愛さに? ってないない。

 昨日の事気にしてるのかな? あれは風のせいで誰も悪くないのにな。

 って私もちょっと意地悪言い過ぎちゃったかも。



「御子柴くん、ごめんね? 昨日はちょっとイジワルな事言っちゃって」


「ちょっと!?」


「うん。あんなの誰が悪いってわけでもないのにね?」


「あんなの!?」



 な、なんでいちいちそんなにびっくりするんだろ? 実はリアクション大きいタイプだったとか? それはそれで意外で可愛いけど。

 それにしてもあまり話が弾まないなぁ。やっぱり昨日の話題から離れた方がいいよね。

 なにしよっかな? あ、そうだ!



「ねぇ御子柴くん。御子柴くんは購買でご飯買ったりする?」


「いや……いつも弁当だから……」


「そうなんだ! あのね? 購買ですごい人気のパンがあってね? チキン南蛮パンと、炭火焼き牛カルビパンって言うんだけど、いつもすぐ売れ切れちゃって、私食べた事ないんだよね〜」



 うん、ご飯の話は鉄板だよね! これで好きな食べ物とか聞けたら一歩リードって感じじゃない?



「も、もしかして……それが食いたいのか?」


「ん? うん! だって絶対おいしいよ!」


「そうか……そういうことか。わかった」



 わかった? なにが? あれれ? 会話終わっちゃったよ? おかしいなぁ〜?

 この話題ならもっと続くと思ったのにな。


 その後、四限目の授業が終わって、購買に行こうと席を立った瞬間、それよりも早く御子柴くんが凄まじい速さで教室から出ていった。

 ……トイレ我慢してたのかな?


 それよりもご飯ご飯〜♪


 私がお目当てのたっぷりチョココロネと、生焼けメロンパンを買って教室に戻ってくると、息を切らした御子柴くんが私の席の前に立っていた。



「ほら。これだろ?」



 そう言いながらぶっきらぼうに私の机にパンを二個置くと、御子柴くんはハンカチに包まれたお弁当らしきものを持って教室から出ていってしまう。


 クラスメイトから浴びる視線。

 そして目の前にはなぜか御子柴くんから渡されたパンが二個。しかもこれは、滅多に買えないチキン南蛮パンと炭火焼き牛カルビパン。

 え? どゆこと?


 私は頭をフル回転させて考える。


 ……はっ! パンが二個でパンツ! これはパンツを見たお詫びってことね!

 もうっ! そんなのいいのにぃ〜♪


「あ、おいしっ♪」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る