命名個体の基礎知識と危険度のマニュアル

 命名個体。それは稀に発見される人智を超えた能力を持つ生物のこと。

 身体に一目でわかる顕著な異常性を持つ者もいれば、使用されるその瞬間まで異常性が分からない者も存在する。

 なお稀なケースとして、異常性を一切自覚をできていない者も存在するため、むやみな接触は控えることが大原則。

 人智を超えた能力、すなわち『奇跡』と称される能力の源によって、奇跡の受け皿であり、入れ物でもある肉体が異常な変異を起こし、人智を超えた能力を持つと考えられている。

 『奇跡』そのものの説明は『奇跡と霊験論に関する中間報告書』を参照。

 命名個体の報告書には、それぞれ危険度を記載することが義務付けられており、それぞれの危険度は下記のCODEによって区別されている。


CODE-G…宇宙規模の致命的な被害を発生させる異常性を持つ個体のこと。

CODE-T…時空間に対して致命的な被害を発生させる異常性を持つ個体のこと。

CODE-R…現実そのものに対して致命的な被害を発生させる異常性を持つ個体のこと。

CODE-P…惑星規模の致命的な被害を発生させる異常性を持つ個体のこと。

CODE-S…海に対して致命的な被害を発生させる異常性を持つ個体のこと。

CODE-H…人間に対して致命的な被害を発生させる異常性を持つ個体のこと。

CODE-B…人間を除く生物に対して致命的な被害を発生させる異常性を持つ個体のこと。

※致命的な被害が出ないが、カテゴリーと合致する異常性を持つ個体には『-F』が付け足されて区別される。


 命名個体は、クラーケンやリヴァイアサン等の海洋生物の姿をしていることが多いが、稀に人や人に近しい姿をしてる個体も存在する。

 他組織から雇用された人物や潜伏任務が長かった人物等に、このコードの間違いが多発している傾向が認められるため、使用する際は細心の注意を払うこと。













 ここから先の閲覧は『職員ライセンス:グレード4以上』が要求されます。


 認証中…認証完了。


 ようこそ、隊長様。













 現在、HAAMUが把握している命名個体は、ナンバリング済みが4種。未ナンバリングが2種で、合計6種存在しています。詳細は各報告書を参照してください。

命名個体No.2『キルケー』(討伐済につき閲覧要求ライセンス:0)

命名個体No.3『マクスウェルの悪魔』

命名個体No.5『ケラウノス』

命名個体No.6『Unknown』

命名個体No.??『カリブティス』

命名個体No.??『マスカレード』

命名個体No.Error『■■■■・■■■』(閲覧要求ライセンス:8。ライセンスレベルが不足しています)


 そして、詳細を把握できてない個体を含めて命名された個体は、2100年現在20種を超えています。

 世界を滅ぼしかねないほどの力を持つ個体が大勢であり、人類は少しずつその存在に気圧されている状態です。

 このような言葉は、我々が負けを認めるようなものだと皆は憚りますが、貴方はまだ若い。だからこそ認識を捻じ曲げられてほしくないのです。


 端的に申します。この地球は、既に――人の住める環境ではないのです。


 人が繫栄してきたのは、絶対的な捕食者が極端に少なかったことが挙げられます。しかし、現実はそうも言っていられない。

 貴方も現在の地位に就く前に経験しているはずです。一体何人の隊員が普通のクラーケンや大型魚類の餌となったか、とても数えられるような数ではないはずです。


 言ってしまえば『この地球という家に、我々は無理やり居候している』という状況だと思えば、まだわかりやすいかと思います。

 散々排除し作り変えてきたこの世界が、とうとう我々に牙を剥いたのです。


 今度は我々が排除され、作り変えられる番なのです。今我々が戦っている『奇跡』そのものこそ、人類を喰らう絶対的な捕食者です。


 ……すみません。それでも貴方は戦うことを選び、こうして権限を使って命名個体の詳細を知ろうとしていたのでした。

 私もその勇気とやらに倣いましょう。私にはまだ勇気というものが何か分からない。貴方が『勇気』を提示してくれることを信じています。  

                    ――経理予算総責任者:The Algorithm

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