第69話 「鳥肌を立てろ。言葉を追え」詩人パンダが手に入れたいもの㉕
「もうちょっとやれるんちゃうか」2021年11月20日 朝日新聞より
『鳥肌を立てろ。言葉を追え』
一日の仕事が終わり、世が静まるとき。
私は目を閉じる。
皮膚を
そばだてる。
物語の、気配がする。
むすうの文字や句読点や空白を引き連れて
物語が落ちてくる気配がする。
それは一瞬。
幸運の女神の前髪のように
つかみにくく、はかなく
すぐに消えてしまう、ささいな気配。
皮膚を。
そばだてる。
鳥肌を立てて、物語をとらえに行く。
最初の一文字は、まだ頼りなく。
次の一行は迷いに満ちていて。
二つ目の段落を書くときには、もう四回目の書き直しに入っている。
書いても書いても
不安が尽きない。
物語が要求する形は複雑に曲がりくねり、
到着点を教えてくれない。
手あかのついた文字は、跳ね飛ばされる。
伐採して、見知らぬ文字を入れる。
行がみだれる。
刈り込み、削り込み、入れ替えて、ととのえる。
私は不安から逃れるべく、目の前の文字群を
追いつづける。
とまるのが、こわい。
いま捕まえねば、この物語は失せる。
物語と同じスピードで、文字をとらえて、革袋へ入れてゆく。
気が付けば。
私が描いたのではない物語が
傍らに積みあがっている。
革袋の中の文字は、一晩じゅう発酵し
翌日からの
研磨に備える。
鳥肌を立てろ。言葉を追え。
今宵しか、あらわれぬ物語。
眠っている時間も
ない。
★★★
パンダ。詩人の夢をあきらめておりません。
韻文と散文の違いが、だんだん分からなくなってゆく。
境界線が入りまじりあい、文目もしれなくなったとき。
ようやく完成するのでしょう。
今宵もありがとうございました。
パンダのバー。
盛況であります(笑)。
おやすみなさい。
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