第43話 「言葉を洗いぬく」 たまには、まじめなことも言うんだぜ、パンダ⑭

「家も親もからだも顔も才能も 何一つ選ぶことができない私たち」

田中美津 2021年10月14日 朝日新聞より



★★★

『言葉を洗いぬく』


手のひらを見て

空虚さに がくぜんとする

私は何も もっていない

私は何も もたされていない


書くべきことが

目の前に浮いてこないとき

私はひたすらに

技術をみがく


職人が皿を一枚ずつ仕上げてゆくように

機械的に

技術をととのえる


いつかこの技が

私の中からこぼれてくるものを真っ向から受けとめ

あなたに届く懸け橋となりますように。

私の伝えたい歌声を

あやまたずに

あなたの皮膚の下に届ける一直線の道に


なりますように


今宵もひとり

言葉を洗いぬく




★★★

言いたいことがあるのに

それを伝える技術が足りない

水ぎわはいつも、そう思います。


才能もきらめきも、圧倒するような力もないとき

この指先に乗った技術を

研ぎ澄ましていくしかないと

思うのです。


やがて

物語があふれてくる。

そのとき

自分が流れを乗りこなせますように。

あなたが没頭できる物語を

槌音たかく、積み上げられますように、と。


願いです。

だが。

自分でかなえられる

願いです。

技術だけに絞り込めば。



今宵も寒くなりました。

おやすみなさい。

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