第32話 「この世の隙間にある、とがった正解」詩人になりたいパンダ⑤

『あの人に会いに 穂村弘対談集』穂村弘より

「『竹にコカ・コーラが接ぎ木されている』」三島由紀夫



★★★

「この世の隙間にある、とがった正解」


あなたと私は、どうしてもあわない。

合うはずがない。

あなたはフレンチとイタリアンが好きで、私は和食好き

あなたはキャンプとサーフィンを熱愛していて、私はジム・ジャームッシュの映画が好き

あなたは子供と馬が好きで、私は孤独と亀が好き


合うはずがない。


あのとき、カフェのテーブルで隣り合わせにならなければ

あなたのオーダーしたエスプレッソが、私のテーブルに運ばれてこなければ

あなたの目じりに、私の好きな小さなほくろがなければ

あのとき、目の前の信号が点滅しなければ。


無数の仮定形がオンラインの海を渡り、

重なるはずのない指先がリンクして

私たちはいま

理由のない時間をわけあっている。


なぜあなたなの?

なぜきみだったんだろう。

途中式がないのに、答えが出てしまう数学の難問のように

ただ、あなたの体温がとなりにある。


それが

この世で見つかる、唯一の正解のように



★★★

画家、横尾忠則の発想の根幹を、三島由紀夫は『竹にコカ・コーラが接ぎ木されている』と評したそうです。

本来なら溶け合わないものどうしを、色や形や言葉でつなぎあわせる。

つながらないものを無理につなぐと隙間ができ、その隙間から、私たちは新しい世界を引きずり出すことができるのです。


あなたが、読んだこともないものを、生み出したい。

見たことのない色、聞いたことのない言葉を。

銀色にカシューナッツの香りを接ぎ木するように、

この世に持ち込みたい。


すべての書き手が、きっとそう思っているのでしょう。


今宵も、佳き秋をともに。

おやすみなさい。

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