第30話 「はじめまして、の、四秒まえ」 詩人になりたいパンダ③

『あの人に会いに 穂村弘対談集』穂村弘より

「自分のまわりには、いろんな人がいたほうがいいですね。」宇野亞喜良



★★★

「はじめまして、の、四秒まえ」


目の前を

秋の気圧が通ってゆく

きれいな肩、わらっている耳たぶ、かがやいている鼻すじ

制服を着た少女、ちょっと疲れたピアノ教師、出勤途中の男たち

十月の、わずかにアクアブルーを帯びた朝


カフェのカウンターから

外を眺める。


あなたが

いた。


春先のへびのように 飛び跳ねる髪

真夏の蝉しぐれのように 勢いのある皺

私のポケットのコインが

ちりんと鳴る

椅子をすべり降り、

カフェのドアをけり開けた


初めましても言わないうちに

私はあなたに

恋をしていた。


約束もない十月の朝



★★★

いろいろな人と出会えば出会うほど。

このひとだ、と思う人と出会います。

出会いの分母は大きいほうがいい、と水ぎわはいつも思うのです。


あらゆるひとをそのまま通すフィルターでありたい。

フィルターに引っ掛かってくるものを 言語化したい。

この物語は、詩の形を要求しました。


あなたに。

秋の朝10時からから始まる恋を、届けたいと思ったのです。

では。

今宵も、佳き秋をお楽しみください。

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