第24話 ⑮『疾走! 背脂パンダ』イベント💛 「きみとともに。金色の夕暮れ」仁志 水ぎわ
『パンダは走っていた。白と黒の毛並みが風に流れてゆく。
息が上がる。目の前がゆがむ。しかし止まれない。なぜなら背後から―――』
背後から。
ジンギスカン鍋が追ってくるからだ。
比喩ではない。
本物のジンギスカン「鍋」が追ってくるのだ。
パンダは顎を上げつつ、ただもうつぶやいた。
「なぜ、ジンギスカン……っ」
ジンギスカンは、パンダの好物である。
ラム肉はカロリーが低く、キャベツやもやしと共に焼けば立派な一品。おかずになり、酒のアテになり、残ったら翌朝の飯にもなるという優れもの。
だが。
熱い。
ジンギスカンは高温で鉄板を加熱するために、むやみと熱いのだ。
しかも。熱気が迫ってきている。
やつが――近づいてきている。
パンダは思い切って足を止め、華麗に、跳んだ。
ひらりと身をひるがえし、うっかり落としそうになった背脂をつかんで樹上に舞いあがった。
「くそぅ、こんなことならもっと早くにライセンス協会に入って糸使いをマスターしておくべきだった――あちっ! あちちちぃいっ!!」
パンダはうめいた。黒い耳に、味付けラム肉が張りついている。
ラム肉を取る。
パクリと食べる。
うまい。
が。
なんか嫌な予感がする。そう、レッサーパンダに追われた時のような、白菖蒲さんにモフられたときのような――
そう思った瞬間、ぴしゃり! と次のラム肉が襲いかかってきた。ジンギスカン鍋が、次々とアツアツの肉片を飛ばしてくるのだ。
「あちっ、あちあちっ! ちょ……いい加減にしてよう! ぽんさんの清らかな詩みたいな、いつものあなたに戻ってよううう!」
パンダがそう叫ぶと、地上からハイトーンの元気な声が突きあげてきた。
「なに言うてんねん! あんたがグズグズと書かんもんやから、あたしがヤキ入れに来たんやんか!」
「ヤキ入れ、ゆうのは、ふつう比喩的に使うもんで――あちっ、なんでラーメンまで飛ばすんだよう!」
パンダが木から飛び降りると同時に、くるっと宙返りしたジンギスカン鍋が小さな女の子になった。
パンダはカラダのあちこちに残るラム肉をはがしては食べる。
「ねえ、タヌキに弟子入りして化けられるようになったからって、ジンギスカン鍋はやめてよ。熱いんだよ」
「しゃあないやん。あのタヌキさま、鍋に化ける方法しか、教えてくれなかったんだもん」
「それはさ、あなたが修行途中にベストセラー『最愛のパンダ、ここに死す”愛しているから、消えてくれ”』に夢中になったからでしょ。タヌキが言ってたよ、次はバイクに変身する方法だったのにって」
「マウンテンバイクのほうがよかってん。小さなおっさんたちとも遊べるし。それかF-2」
「あ、それやめてよ。パンダ、今でもトラウマなんだ――あのとき、助けに来てくれてありがとう」
パンダがそういうと、小さな女の子は笑った。Aをかたどった金のペンダントヘッドがきらりと光る。
「あたりまえやん。友だちやん」
女の子はすっと手を差し出した。
「帰ろか。そろそろ『美少年戦士☆ホーリームーン』の時間やねん」
「晩ごはん、どうしようかねえ」
パンダがつぶやくと、女の子はニヤリとした。
「ジンギスカンはアカンで。さっき、肉は全部とばしてしまったもん」
ええええええ!?
あれ、清春がわざわざ北海道から取り寄せたというのを、コルヌイエホテルからかっぱらってきたのにいい!
やべえ……清春、怖ええ。
これ、このまま夢オチにならねえかな……
そうだ、万葉ちゃんのお部屋でまだ寝ていることにすればいい……
★★★
またも聞こゆる人馬の物音、矢叫びの声かまびすく、手に取るごとく聞こゆれば。
パンダ、聞くより突立ち上り、
「さあああて! 書くぜ書くぜ、書くぜええ!!」と、勢ひ込み、金色のゆうべに駆け出だしたり。
きみと。ともに。
ーーーーー了ーーーーー
(参考:『絵本太閤記 尼崎の段』
http://hachisuke.my.coocan.jp/yukahon/taikouki.html)
このイベント、まだ おわんないよ(笑)
土曜日 23:59まで、大募集中です!!
お初の方も、お気軽にご参加くださいねー。
「パンダ組には、愛が詰まっている!」こと組長より(笑)
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