第2話 「この世のどこにも答えはない。答えの代わりに、猫が来た」

『書けないことは問題ですか?』赤雪妖

 

  水ぎわでございます。


 昨日は、七夕でしたね。

 しちせき、とももうします。


 weblio辞書には

「この夜、天の川の両側にある牽牛(けんぎゅう)星・織女星が、年に一度会うといい、この星に女性が技芸の上達を祈ればかなえられるといって、奈良時代から貴族社会では星祭りをした。」

(引用:https://www.weblio.jp/content/%E3%81%9F%E3%81%AA%E3%81%B0%E3%81%9F)

 とあります。


 水ぎわも、十年前に一度だけ。

 この七夕に。願いをかけたことがございます。


 本日はリハビリのつもりで。

 こいつをショートストーリーにしてみましょう。



 ★★★

『この世のどこにも答えはない』


 今日は七夕。だけど朝から厚い雲がかかっている。

 あたしはどこにも行かずに、ずっと雲が切れないかとねがっている。


 でも。

 しっている?

 人生って、願うだけじゃあ、だめなの。

 立ち上がって、小さなマンションの廊下を走って

 ドアを開けて外へ出なきゃ、ダメなこともあるの。


 その日。あたしは朝から皮膚の全部がちりちりとしていて、夜になってからついに外へ出た。

 じぶんが、変な格好をしているのはよくわかっている。

 モスグリーンのつる薔薇もようの浴衣を着て、

 帯は濃紺半幅。

 足元は舟底の桐下駄で。

 メイクはとっくに落とした。


 今日会いたいのは、

 空の向こうにいってしまったあなただけ。


 もう二度と。

 どうやっても会えないあなたに

 あいたいだけ。


 あいしていたと。

 過去形で言えれば、どれほど楽だろう。

 この先も愛していくと。

 未来形で言えれば、どんなにいいだろう。


 でもあたしの手の中にあるのは。

 いつでも一人きりの現在。


 桐の塗下駄、天は赤い糸春雨。

 カタカタと音を立ててアスファルトの上を走っても。

 鼻緒が食い込まないのは

 あなたが以前、下駄の鼻緒を伸ばしてくれたから。

 大きな手が、鼻緒の先、前坪をぎゅっと握って伸ばしてくれたから。


 そのときあたしはぼんやりと、あなたの手を眺めていた。

 ああ、ついさっき

 同じ大きな手が、あたしの背中と肩をすべっていたなと。

 思い出していたから。


 あなたの爪の形と体温が、鼻の奥にひらりと舞い戻る。

 脳髄の奥から記憶があふれて。

 あたしはもう夜雲のにおいの中、走り続けるしかない。


 今日は七夕。

 この厚い雲の上では。

 牽牛と織女が出会っている。

 あたしには。

 もうにどと、雲を突き抜けるチャンスはない。

 この世とあの世に隔てられて。


 いや。

 あるの?

 もういちどだけ?


 このまま、このかろやかな下駄で、

 あの亀裂を超えてしまえば。

 その先に。

 あなたはいますか?



 世界が、色を広げる。

 黒、えんじ、濃紺。そして白銀の星の色。

 あたしの足が止まり、だれもいない公園で、ひとりなき声を上げる。

 声にならない音が天に届いたとき。

 あの猫に。


 あったのです。




 真っ黒くて。小さくて。

 両目はエメラルドのような緑色。

 かっき、とひらいた瞳が。あたしを見ていた。

 丸い虹彩が つぶやく。


 ゆり。

 このまま、家にお帰り。

 この子を連れて

 家にお帰り。

 これが俺からきみにわたせる、最後の贈り物だから。




 こうして。

 ちいさな黒猫はあたしのものになった。

 あたしは黒猫を甘やかし、いわれるがままにお世話する。

 そして

 十年ずっと。七夕になると思いだす。


 どこまでも、延々と続いていた夜のアスファルト。

 その上を刻んでゆく、塗下駄の音。

 湿気を含んだ夏の匂い。

 ちかちかと小刻みに点滅していた薄黄色の街灯。

 そして。

 手を伸ばしても伸ばしても。どうしても届かなかった、七夕の空。


 そこに。

 あなたはいましたか?

 かわりに。

 あたしは猫を受け取りました。

 あたしはあなたが欲しかったけれど。

 かわりに猫を引き取りました。


 それで。よかったの?

 それがあなたの望みでしたか?

 この世のどこにも答えはない。

 この世のどこにも。あなたはいない。

 答えの代わりに、猫が来た。


 十年前。

 そんな、しちせきの夜がありました。


      


★★★

おそまつでした(笑)。

まだまだ。

道は遠いね(笑)。

色がうるさく、音が少なく、匂いが足りない。

精進です。


そうそう。

最新のパンダ着ぐるみが、ツイッターで公開されていますよ!

https://twitter.com/chiesabu/status/1412764515251331073/photo/1

https://twitter.com/chiesabu/status/1412774874284584967/photo/1

どちらでも。お好きなほうを💛

とくに2枚目は。

お好きな方にはたまらないかと 爆!



ではまた。次の木曜日にね、みなさま。

あいしてんぜっ(笑)!           

               水ぎわ拝

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