03 繭

走り出した二人の騎士へ、レンカたちが飛び掛かってゆく。

先陣を切ったのは、槍を持つ個体。その切っ先をダイル=ヴォルガへと向け、襲い掛かる。


「甘いぜ!」

しかし、その凶刃が届くことはなかった。突き出した刃をあっさりと躱され、柄を掴み取られてしまう。

「そぅら!」

そしてそのままヴォルガは勢いよく回転、レンカを投げ飛ばした。

「ふふん……っ、うぉ!?」

得意げに鼻を鳴らす彼だったが、背後から感じる衝撃と熱に驚き、慌てて振り向く。

その目線の先には、銃を持った個体が複数体立っていた。


「こんにゃろ、いい度胸してんじゃねぇの!」

そう言いつつ、両腕を大きく広げる彼。全身に力を込めると、頭部から生えた二本の筒状の部位から炎が噴き出した。

たくましい肉体も相まって、そのシルエットは鬼のよう。

「さ、覚悟はできてっかぁ!」

そして、彼は走り出した。次第にその四肢からも炎が噴き出し、両腕の付け根に付いた大型のリング状パーツが回転を始める。

艶のあるワインレッドの装甲を煌めかせながら疾走するその姿は、まるでスポーツカー。

迫る危機に恐れおののき弾丸を放つレンカたちだったが、そんなもので彼を止められはしない。

「おおぉうらっ!」

駆け抜ける轟炎は異形の群れへと飛び込んでゆき、一帯を爆発で覆った。


「フッ、ハァッ!」

所変わって、ツバサ――メモリアナイツ・レイ。双剣形態の聖双剣キラメキを手に、襲い来るレンカ達を切り捨てている。

正面へと一撃を入れ、すぐさま真横に一閃。そしてぐるりと一回転し、周囲を薙ぎ払う。

それでも尚迫りくる軍勢に舌打ちをすると、脚部と背中に付いたスラスターを噴射、空中へと飛び上がる。

「面倒だ……」

キラメキを直線状につなぎ合わせ、上部の剣の裏側に付いた四角い部位――メモリアレコードの装填部を下へ移動。もう片方の剣へと接続し、弓形態を完成させた。

そしてトリガーを押しながら、蒼炎状のエネルギー体で構成された弦を引き絞り、空へ向けて放つ。

「まとめて消え失せろ……!」

放たれた巨大な一筋の光の矢は空中で分散、無数の小さな矢となった。

流星の如く降り注ぐ光は、的確にレンカ達を貫き、爆散させてゆく。


「ほー、やるじゃねぇの」

その様子を見ていたヴォルガが言い放つ。

彼は今、他のものより大型の個体を相手していた。

殴り掛かってきた巨大な腕を躱し、そのままの勢いで前方宙返りをしながら跳躍。

そして体を捻ったのち、大顎の如く足を開くとレンカの頭を挟み込んだ。変形型のヘッド・シザースだ。

そして捻った体を勢いよく戻して回転をかけつつ地面に叩きつけ、その首をねじり折る。

――ワニは獲物を捕らえた際に、身体を回転させて止めを刺す習性がある。今彼が行った一連の動きは、デスロールと呼ばれるその習性とよく似ていた。

「へへっ、一丁上がり」

得意げに仮面の上から鼻をこすると、上空にいるレイへと視線を送る。

気づけば、増援が現れなくなっている――どうやら、あらかた片付いたようだ。

彼らは互いに頷きあうと、そのまま山の奥へと突き進んでいった――



「んだよこりゃ……」


そして数十分ほど駆けた後――彼らは驚くべきものを目にした。

それは――


「繭……か?」

黒い糸状の物質が幾重にも折り重なった巨大な球体に、レイが呟く。

かすかに脈打つそれは、生理的な嫌悪感と恐怖を呼び起こすに足る存在であった。


「気味が悪いな。さっさと消しておくか……」

「おい待て!うかつに手ぇ出すんじゃねぇ」

即座に弓を構えるレイを、ヴォルガが慌てて制止する。軽く舌打ちをしたレイに呆れつつも、ヴォルガは前に出た。


「いいか少年。まず、こいつが何なのかを見極めてからだな――」


しかし、そうはいかなかった。彼がレイを諭し始めた瞬間、近くで声がした。悲鳴だ。


「うわあぁぁぁぁぁ、嫌だぁ!」

声の方向へと二人が向くと、そこには糸で雁字搦めにされ、浮かび上がる男の姿があった。

彼は足をばたつかせ、逃げようともがいているがびくともしない。

そしてその数秒後、勢いよく糸が動いた。その方角には――あの繭。


「マズいっ!」

「フン」

焦るヴォルガをよそに、関係ないねと言わんばかりにレイが矢を放つ。


「うわあぁぁぁぁぁ……ぎゃっ!あ、あ?あれ?」

しかし、それは繭に向けてではなく。その一撃は糸を切断し、男性を地面へと落とした。

腰を打ち、痛みに悶えつつも無事なことにうろたえる男。

短く、レイが言う。

「行け」

「は、はいっ!」

その言葉を聞き、一目散に逃げだす男。

そんな様子を見て、ヴォルガは――


「何だ、案外優しいじゃねぇの少年」

「……」

茶化すような口調で言いつつ、肘でレイをつついた。

だが、そんな和やかな雰囲気は一瞬にして崩れ去ることとなる。何故なら――


「困りますねぇ……勝手なことをされては」

「せっかくいいとこだったのに、邪魔すんなし!」

「全くだ、頭にくるぜ!」


暗闇から、3つの異形が現れたためだ。

それはルシファー、キマイラ、ヴァンパイア――『完全態』のハイヴァンド達だった。


「ほー、あんたらが3人揃ってお出ましとはねぇ……よっぽどコイツは大事な物らしいな」

「ええ、その通りです。なので、お引き取り願いたい」

「ハイそうですか、って帰るわけねぇだろ?」

「クク、それもそうですねぇ。なら、力ずくでご退場願いましょうか?」

「この世から……ね!」


そう言い放ち、ルシファーハイヴァンドが光球を放つ。

それは素早く二人の下へと着弾し、爆発を起こした。


「おいおい、景気がいいねぇ」

しかし、それは彼らに傷を負わせることは叶わず。

煙の中から現れたのは、『炎刃剣マグナ』を突き出したヴォルガの姿。

回転する二股の刃からは、激しい炎が噴き出していた。


「タクトぉぉぉ!」

「おやおや、貴方もいましたか」

その次の瞬間、もう我慢できない、と言わんばかりに飛び出してゆくレイ。

「おい待てよ!一人で突っ走んじゃねぇ!」

自分の言葉も無視して走ってゆく彼に戸惑いつつも、加勢するべく駆け出すヴォルガ。

3人のハイヴァンドもまた、迎え撃たんと構えを取る。


この戦いの結末は、果たして――

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聖剣、抜いちゃいました。 さぼてん @atamaheisei

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