01 ファースト・コンタクト
「お兄ちゃん、話があるの」
「どうした、急に」
ある日の朝食中突然飛び出した、その言葉。
いつになく真剣な妹の顔に、俺は唾を飲み込む。
フォークを持つ手は震え、心臓の鼓動が早くなる。
「実は……」
そこまで言って、彼女は言葉を止める。そして数秒間勿体つけてから――再び口を開いた。
「彼氏、できちゃった」
その言葉を聞いた瞬間、俺は金槌で頭を殴りつけられたような衝撃に襲われた。
両親を事故で失ってからと言うものの、蝶よ花よと思ってきた妹が――
「そうか……そうか……」
俺は虚空を見つめ、うわごとのように繰り返していた。
「ちょ、ちょっと!?何も泣くことないでしょう!?」
いつの間にやら、俺は涙を流していたらしい。妹が慌ててティッシュの箱を差し出す。
俺はそれを受け取ると、勢いよく鼻をかみ、彼女を見つめた。
そして聞く。「どんな奴なんだ?」と。
思えば、この日が俺の運命の始まりだった。
もっと早く、奴の異常性に気が付いてさえいれば。
妹にできたという彼氏、
サワムラ・タクトという男の異常性に――
※
「ぐ、うぅ……」
うめき声を漏らしながら、目を覚ます。痛む身体を押して上体を無理やり起こすと、辺りを見回した。状況確認をしたかったがためだ。
視界いっぱいに、草木が映る。どうやら、ここはどこかの森か山の中らしい。
しかし、俺はふと違和感を覚える。
その訳が、自身の身体の下にある落ち葉だ。
綺麗に積み上げられたそれは、偶然では説明できないほどの不自然さを感じた。
これには、明らかに人の手が加えられている。
なら、これを作った誰かがまだ近くにいるという事――俺は立ち上がると、さらに周りを見渡して警戒した。
そしてそのわずか数秒後、草をかき分ける音が聞こえてきた。
草の揺れは次第に大きくなり、何者かがここへと近づきつつあることを示していた。
「誰だ!」叫ぶ。
その言葉と同時に、その人物は姿を現した。
「お、起きたか少年」
穏やかな口調で言い放つ男。歳は50代前後、と言ったところか。
その口ぶりからすると、俺をここへ寝かせたのは彼なのだろう。
しかし、油断するわけにはいかない。
無害そうなふりをし、安心させてから裏切る。そんな人間を、俺はよく知っている。
剣を取り出し、構えようとしたが――ここで、俺は気づく。
「何っ……!?」
剣が無いということに。
狼狽を隠せぬ俺に、男は言った。
「探し物はこいつかい?」と。
見せびらかすように取り出されたのは、2対の剣。紛れもなく、俺の剣だ。
「それを返せっ!」
間髪入れず、俺は奴に殴り掛かった。奴がどういう存在かはどうでもいい。
俺の邪魔をするというのなら、全て等しく俺の敵だ。
「おおっと、元気じゃねぇか」
しかしその拳は、難なく受け止められてしまった。
力は強く、押しても引いてもびくともしない。
ぐぐ、と歯を食いしばり、ただ睨むばかりとなってしまった俺。
暫しの膠着が続いたのち、男が急に手を離した。
込めていた力が一気に解き放たれ、前へとよろけてしまう。
そんな俺を見て、がははと笑う男。何なんだコイツは。
「貴様……!」
「はは、悪い悪い。お前さんみたいなのはついからかいたくなっちまってな、ほれ」
「!」
そう言って、男は俺の剣を差し出した。半ば奪うようにそれを受け取ると、半歩下がって距離を離す。
「随分トゲトゲしてんじゃないの、若いねぇ」
そんな俺の様子に、軽口で返す男。
「……何者だ」
警戒を解かぬまま、聞く。
「ん、俺かい?俺はダイル。またの名を――」
「『炎』の騎士、ヴォルガだ」
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