エピローグ

――所変わって、『ガーディアンズベース』、メイのラボ。


「マジ、ジンちゃん今日来れないの?」

「ええ、今日はあいつにとって……」

「あー、そっか思い出したわ。そうだよね」


研究の手伝いにジンを呼ぼうとした彼女だったが、代わりに訪れたのはキョウヤだった。

そして彼との会話の中で今日が何の日であるかを思い出し、一人納得していた。


10年前――彼女が17歳の頃起きたハイヴァンドによる大規模同時襲撃事件。


多くの聖剣が失われたあの日の数日後、キョウヤは一人の少年を保護し連れてきた。

ボロボロの身なり、幼き体に見合わぬ真っ白な髪。そして何より、生きることへの執着を捨て去ったようなあの表情。

眼を閉じれば、今でも鮮明に浮かんでくる。


「しかし、キョウちゃんがジンちゃん連れてきた時は驚いたよ」

彼女はコーヒーを少しだけ口にし、続ける。

あの時のジンの姿もそうだが、彼女が何より驚いたのは彼が持っていた物。


「『氷』の聖剣なんて、私も知らなかったからね」


――『砕聖剣ディスクラッシャー』。ジンの持つ、『氷』を司る聖剣。

これは元々ガーディアンズベースにおいて管理されていたものではない。

その上、『恐竜』という未知の――解析によれば、異世界の太古の時代に生息していたとされている生命体の――力を持つメモリアレコードを扱うそれは、彼女の興味を大いに惹いた。


一体だれが、何の目的で、どうやってあれを作り出したのだろうか。

そしてなぜ、組織はあれを認知できていなかったのだろうか。

そんなものがなぜ、レクスウオード家の地下に眠っていたのだろうか。

考えれば考えるほど、謎は深まってゆくばかり。


「わっかんないにゃー、ホント」

メイは椅子をぐるぐると回しながら、ぼやく。

「ですが」

そんな彼女を横目に見ながら、キョウヤは言う。


「持っていたのが、アイツでよかったと思います」

「何急に、弟子自慢?」


「ええ。アイツはすごい奴です。強大な力を手にしながら、誰かのために戦おうとする心がある。……時々、自分の身を厭わないところもありますがね。思えば、よく頑張ってますよ。家族を手にかけてしまったトラウマがあるはずなのに、その力を使って誰かを守ろうと必死になることができる。普通なら復讐に走るか、絶望に押しつぶされて壊れるかなのに、アイツはそのどちらでもない。俺も師匠として、鼻が高いってもんですよ。それはそうとジン、1年で変わったと思いませんか?少なくとも俺と修行している頃はあんなに熱血バカじゃなかった。久しぶりに会ったときは正直驚きましたよ。喋り方も全然違うし。根っこは変わってなくて安心しましたけど、接客業やってる効果なんですかね?まぁどうあれ、自慢の弟子には変わりありませんけどね。あぁそう言えばこの前一緒だった時も――」


「そ、そだね。ジンちゃんがいい子だってのは同意」

凄まじい速度で語り続けるキョウヤ。そんな彼の姿に、メイは「うわ出た」と引き気味になりつつも椅子をモニターの方向へ戻し、作業を始める。


「聞いてますか博士?アイツはね」

「うんうん、それはまた今度聞くから……帰れ☆」

「ちょっと、まだ話は途中で――おぅあ」

そしてボタンを押し、床を動かすことで強制的に彼を部屋の外へ放り出した。


「ふぃー」

ドアをロックし、彼女はやれやれと一息つく。

そして天井を見上げながら呟いた。


「アイツ、今度実験台にしてやろう」、と――

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