トラック5 騎士追憶、レクス・ビギンズ

プロローグ

「あら、どこへ行かれますの?」

それは昨日のこと。

出かける支度をしていた俺を見かけたセンパイが、声をかけてきた。

「あー、墓参り……って言えばいいんすかね」俺は答える。

「墓参り……ですか」

同じく家族を失った過去のあるセンパイもまた、そのワードに共感し、少し目線を下げる。


「すんません。気分悪くさせちゃいましたね」

「いえ、お気になさらず」

そう言ってその場を後にするセンパイ。俺は若干の申し訳なさを引きずりながら、支度を続けた。



未だ無数の瓦礫が残る廃墟。ここには、とある家の屋敷だった場所だ。

朽ちたカーペットは所々引きちぎられた跡が見え、柱だったものは無造作に折られている。

それはまるで、獣が暴れたかのよう。


ここに来るのは、もう何度目だろうか。

懐かしく、そして忌々しい記憶が混ざり合うこの場所に。

俺の『第二の人生』が始まった、この場所に――



「おぉぉっ!うおぉぉ!」

あわただしく叫び走る、一人の男。

白を基調とした長いコートの所々に施された金色の装飾が、高貴な家系であることを表している。

しかし、今の彼にそんな要素は微塵も見て取れない。

大粒の汗を流し、脇目も振らず屋敷中を駆け回っている。

その様子を目にした使用人たちは皆互いに目を合わせ、思う。

ああ、いつものか――と。

そして男がドアを開くと、そこには――


「あら貴方、お帰りなさい。ほら、パパですよ」

「あー、ぱーぱ!」

優しく微笑む女性と――その腕に抱かれる幼子の姿。

小さな両手を大きく広げ、元気一杯に笑うその姿に、


「おおっ……うぉっ……」

男は言葉にならない言葉を漏らしながら、滝のような涙を流していた。


「貴方、大袈裟ですよ」

そんな彼に笑いかける女性。

「これが……これが泣かないでいられるか!わが子が……ジンが」

袖を涙と鼻水で汚しながら、男は駆け寄り、二人を抱きしめる。


「初めて言葉をしゃべったのだぞ!おうおうおう……」

「ふふ、もう」


そしてまもなくして、暖かな家族の笑い声が、屋敷中を包んだ。

平和な時間が流れるこの家庭の名は、『レクスウオード家』。小さな村の側にある、由緒正しき貴族の家系だった。

そんな家に生まれ落ちた一人の子――ジン・レクスウオード。

またの名を、ヨロイ・ジン。


これより始まるのは、後の『氷の騎士』である彼の、始まりの物語。

彼がすべてを失った、『10年前の事件』。

そこに至るまでの、物語――

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