トラック5 騎士追憶、レクス・ビギンズ
プロローグ
「あら、どこへ行かれますの?」
それは昨日のこと。
出かける支度をしていた俺を見かけたセンパイが、声をかけてきた。
「あー、墓参り……って言えばいいんすかね」俺は答える。
「墓参り……ですか」
同じく家族を失った過去のあるセンパイもまた、そのワードに共感し、少し目線を下げる。
「すんません。気分悪くさせちゃいましたね」
「いえ、お気になさらず」
そう言ってその場を後にするセンパイ。俺は若干の申し訳なさを引きずりながら、支度を続けた。
※
未だ無数の瓦礫が残る廃墟。ここには、とある家の屋敷だった場所だ。
朽ちたカーペットは所々引きちぎられた跡が見え、柱だったものは無造作に折られている。
それはまるで、獣が暴れたかのよう。
ここに来るのは、もう何度目だろうか。
懐かしく、そして忌々しい記憶が混ざり合うこの場所に。
俺の『第二の人生』が始まった、この場所に――
※
「おぉぉっ!うおぉぉ!」
あわただしく叫び走る、一人の男。
白を基調とした長いコートの所々に施された金色の装飾が、高貴な家系であることを表している。
しかし、今の彼にそんな要素は微塵も見て取れない。
大粒の汗を流し、脇目も振らず屋敷中を駆け回っている。
その様子を目にした使用人たちは皆互いに目を合わせ、思う。
ああ、いつものか――と。
そして男がドアを開くと、そこには――
「あら貴方、お帰りなさい。ほら、パパですよ」
「あー、ぱーぱ!」
優しく微笑む女性と――その腕に抱かれる幼子の姿。
小さな両手を大きく広げ、元気一杯に笑うその姿に、
「おおっ……うぉっ……」
男は言葉にならない言葉を漏らしながら、滝のような涙を流していた。
「貴方、大袈裟ですよ」
そんな彼に笑いかける女性。
「これが……これが泣かないでいられるか!わが子が……ジンが」
袖を涙と鼻水で汚しながら、男は駆け寄り、二人を抱きしめる。
「初めて言葉をしゃべったのだぞ!おうおうおう……」
「ふふ、もう」
そしてまもなくして、暖かな家族の笑い声が、屋敷中を包んだ。
平和な時間が流れるこの家庭の名は、『レクスウオード家』。小さな村の側にある、由緒正しき貴族の家系だった。
そんな家に生まれ落ちた一人の子――ジン・レクスウオード。
またの名を、ヨロイ・ジン。
これより始まるのは、後の『氷の騎士』である彼の、始まりの物語。
彼がすべてを失った、『10年前の事件』。
そこに至るまでの、物語――
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