エピローグ

「博士」

「お、お疲れちゃーん」

ラボの扉を開け入ってきたのは、キョウヤ。その手にはコーヒーカップ。

「ここに置いときますよ」

「あんがと」

「……それで、何かわかりましたか?」

背を向けたまま作業を続けるメイに、彼が聞く。

その内容は――件のメモリアナイツについて。

 

「うん」

その質問に、軽い口調で返す彼女。キョウヤの方向へ椅子を回し向き直ると、

「あれから色々照合してみたんだけど……あれは『光』の聖剣で間違いにゃいね」

「光、ですか」

「ん。『光』『闇』『水』『天』『地』『磁』『幻』……10年前失われた聖剣のうちの一本……『聖双剣キラメキ』」

「先日取り戻したのが、確か『地』でしたか」

「そ。それに――」

 

――こんな宇宙の果てまで追ってくるとは――

 

「あのハイヴァンドが言ってたことを信じるなら、光の聖剣はこの星の外まで飛んで行ってたことになる。道理で見つからないはずだよ」

にゃははは、と笑い、コーヒーを口にするメイ。

そんな彼女をよそに、深刻な顔つきで考え込むキョウヤ。

 

「そんな聖剣を所持しているとなると……彼は一体、何者なんでしょうか」

「確かにねー。でもまぁ、あんまり心配いらないんじゃにゃいかな?」

「何を根拠にそんな」

「聖剣……厳密にはメモリアレコードは使い手を選ぶってことは知ってるでしょ?」

「それは、はい」

「つまりそういうことよ」

「説明になってない気がしますが……?」

「あっはは、バレちった?」

 

 

「くぁ……あ」

 

夜。大あくびをしながら背伸びをし、それからベッドにどさりと倒れ込む。

今日はいろいろありすぎて、ホントに疲れた。

昨日から数えて2日ほど寝てなかったこともあって、俺の眠気はマックスだ。

このまま目を閉じれば、すぐ夢の中だろう。

 

「ん?」

けど、そうはいかなかった。コンコンと鳴る音に、軽く返事を返す。

立ち上がってドアを開けると、そこには――

 

「あれ、どうしたんすか?」

少し頬の赤い、センパイの姿。軽くお辞儀をすると、そのまま部屋へと入ってくる。

俺は再びベッドに腰掛け、センパイもその横に座った。

 

「「……」」

 

暫し、互いに沈黙。何とも言えない空気が流れだす。

あれ、俺なんか怒らせるようなことしたっけ――そんなことを考えていると。

 

「あの」

唐突に、センパイが口を開いた。

「押忍」

戸惑いつつも、返す。

「助けに来ていただいて、本当にありがとうございました」

ああ、何だそんなことか。俺は安心し、ほっと息をついた。そして笑って見せると、

「よしてくださいよセンパイ。当たり前じゃないですか」

胸を叩いて、そう言った。

「……当たり前、ですか」

「はい!もー、今更水臭いんですから」

そんなやり取りをしていると。

 

「うぉあ!?」

突然、センパイが俺の胸元へ寄りかかってきた。

慌てて受け止めると、かすかな震えが伝わってくる。

ああ、そういうことか。

 

「お疲れさんです」

 

後は何も言わない。

俺はそっと腕を回し、その背中を軽く叩いた――

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