04 混戦、その果てに

「何だテメェ!」

俺を見るなり、殴り掛かる男。

ハイヴァンドが一枚噛んでいるのは完全に予想外だったけれど、それでもこいつらはただの人間だ。殺してしまうことなどあってはならない。

攻撃をいなして地面へ押さえつけ、動きを封じたあとに軽く殴って気を失わせる。そうして無力化した隙に前進、確実に先輩の下へと駆けてゆく。

しかし、


「せっかくいいところだったのにさぁ、邪魔しないでくれるぅ?」

女のハイヴァンドが、その道を断ち塞ぐ。俺はディスクラッシャーを取り出すも、先手を打たれてしまった。鋭い爪の一撃が、俺を襲う。

何とか躱し前後が入れ替わるも、今度は退路が防がれてしまった。

センパイを背にし、辺りを見回す。どこかに突破口は――?


「クスクス、どうするぅ?」

焦る俺を小馬鹿にし、手を叩くハイヴァンド。

「くそっ……」

俺が吐き捨てた、その時だった。



『ズ・ドーン!』

「はぁっ!」

鳴り響く電子音と掛け声。同時に、衝撃波がハイヴァンドを襲う。


「いったぁ!ちょっと、何!?」

奴が振り向いた、その先には。


「こいつは俺が引き受ける!お前は人質連れて早く逃げろ!」

メガホーンを構えたキョウヤさんがいた!

キョウヤさんは部屋へ突入すると変身し、そのまま交戦状態に入る。


「さぁてお嬢さん、ダンスでもいかがかなぁ!」

「おにーさん、タイプじゃないのよね!」


そうしている隙に俺はディスクラッシャーを取り出して鎖を破壊、拘束を解く。


「ジンさん!」

「もう大丈夫っすよ。一緒にここを出ましょう!」

「ええ」

俺はセンパイに上着を渡して被せると、その手を取って駆け出した――



「よし、上手くいったぜ」

二人の脱出を見届け、呟くキョウヤ。

「何よそ見してんのよ!」

「おおっと!」

それに腹を立て襲い来る怪物――ヴァンパイアハイヴァンド。

その攻撃を躱し、斬撃を打ち込むメモリアナイツ・ビート。

一進一退の攻防が、今まさに繰り広げられていた――そんな時。


「!?」


轟音とともに、天井が崩れ落ちた。

突然の事態に驚き、揃ってそちらを向く二人。その視線の先には――蒼い炎を纏った人型のシルエット。


「オオッ!」

それはハイヴァンドを見るや否や駆け出し、合わせて炎が吹き散る。

その手に握られているのは――双剣。


「アイツは確か、ジンの報告にあった……」

そう。彼は先日迷いの森にてジンらを強襲した件のメモリアナイツだった。


「ハァッ!」

ビートを無視し、ハイヴァンドへと斬りかかる彼。


「おい、無茶だ!そいつは完全態、一人でどうにかなる相手じゃない!」

その姿に、ビートの口から思わず制止の言葉が放たれる。

ヴァンパイアハイヴァンド――またの名をアダージョ。

キョウヤの言葉通り、彼女は三いる『完全態』ハイヴァンドのうちの一人であった。


「なら丁度いい、こいつから奴の居場所を聞き出すまで!」

しかしその制止を振り切り、彼はハイヴァンドへと攻撃を仕掛け続ける。

連続して繰り出される拳に、防戦一方となるアダージョ。


「ああもう、何なのよ!」

それに嫌気がさしたのか、ハイヴァンドは翼を開き、飛翔。夜の空へと去った。

「待て!」

続いて、彼もまたその後を追う。蒼炎を纏い、彗星の如き速度で飛び立つ。


「くっ……」

そうして一人、取り残されてしまったビート。彼はその変身を解き、キョウヤの姿へと戻る。

飛ばれてしまっては、彼に追いかけるすべはない。

例え高速移動を用いて追いついても、使えるのは陸路。あらゆる地形を無視できる空とでは、訳が違う。

深追いはせず、ジンと合流して捕まった人々を救い出すほうが先決。そう判断したが故の選択であった。

思い残しを抱きつつも、彼は部屋を出、駆けて行った――



「でやッ!」

「くぅっ!」


空。俺は奴の姿を確認すると、双剣を繋げて弓状の形態へと変化させ、撃ち落とさんと攻撃を仕掛ける。

どうやら、奴は直接戦闘が得意という訳ではないらしい。

俺を相手せず、逃げ回っているのが何よりの証拠だ。

あの男はああ言っていたが――ただ臆病風に吹かれただけだ。

奴が完全態だというのなら、するべきことは一つ。

あのハイヴァンドの――タクトの居場所を吐かせること!


「……」

そう考えているうち、奴が動きを止める。何故だ――とうとう観念したか?

まぁ、どちらにせよ好都合。痛めつけ、尋問し、聞き出せばいい。


「だッ!」

俺は加速し奴の正面へ回ると、剣を振りかぶる。

だがその攻撃が届くことはなく、止められることとなる。


「……なっ……!?」


他ならぬ、俺自身の手で。

俺は激しく狼狽した。呼吸が乱れ、汗が噴き出る。

何故か?訳は――奴の顔に重なるようにして映った、人の顔にあった。

その顔は、俺のよく知る顔だった。

忘れもしない、いや忘れられるはずがない。

そう、それは――






「カナタ……っ!」


ヒカリ・カナタ。

ある日突然奴に連れ去られてしまった、最愛の妹。

それが今、目の前にいる――ただし、化け物として。


嘘だ、嘘だ!俺を惑わすための幻だ。迷いを押し殺し、俺は再び刃を振るう。

だが――


「嫌ぁっ!やめてお兄ちゃん!」

紛れもない妹の悲鳴に、その手が止まる。

そして――


「ぐあぁぁぁ!」

隙だらけになった俺に無数の蝙蝠がまとわりつき、爆発。もろにそれを喰らった俺は、力なく落下し始める。


「カナタ……カナタぁ!」

名を呼びながら、手を伸ばす。

しかし、その距離はどんどんと離れてゆくばかり。

そのうち、俺の意識は薄れ――ついには途切れてしまった。

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