03 ビート対フォルテ
『ズ・バーン!』
始まった、二人の戦い。
ビートがターンテーブルを左へ回すと、音声とともに、彼の姿がフォルテの視界から消え去った。
「グゥ!」
直後、背後からの衝撃に唸り声を漏らすフォルテ。しかし、そこにビートの姿はない。
辺りを見回し、次なる攻撃に備えるフォルテ。
そして、それは訪れた。獅子の瞳が、高々と剣を掲げ、己の頭上を取ったビートの姿を捉えた、次の瞬間。
「ヒャアアアオッ!」
雷鳴の如き一閃が、怪物の身体を縦一文字に斬り付けた。激しく飛び散る火花が、その衝撃を物語っている。
だが、このまま倒れるほど相手も甘くはない。即座に力を溜め、その口から火炎を吐き出すと、頭を振るって辺りを薙ぎ払う。
それが当たることはなかったが、追撃を防ぐには十分な効果があったようだ。
火炎放射を止めた彼の眼前に、再び黄金の騎士が姿を現す。
「ハハ、なるほど?なかなかの動きじゃねぇか」
「野郎に褒められても嬉しくない、なっ!」
問答はしない、とばかりにターンテーブルを回すビート。
残光だけを残して、その姿がフォルテの視界から消え去った。
――『高速移動』。雷鳴の騎士たるビートが、最も得意とする能力。
メガホーンのターンテーブルを左へ回すことにより生じた電流によって瞬間的に脳のリミッターを外し、人知を超えた速度での移動を行う、というものだ。
ほんの一瞬とは言え、無理やり限界を超えた力を引き出す故に、変身者へかかる負担は多大なものとなっている。
その負担を少しでも紛らわせるために、この三本角を備えた兜、『トライホーンヘルム』に着けられた一つの機能がある。
「さぁこれでフィニッシュだ、子猫ちゃん!」
それこそが、キョウヤの口調が非戦闘時における彼からすれば考えられぬほど激しいものとなる原因だった。
緊張や興奮を促す物質、アドレナリンを分泌させることにより、いわゆる「ハイ」な精神状態を作り出す。
それにより体へかかる負荷への感覚を鈍らせ、高速戦闘を可能としているのだ――
「キャオラッ!」
高速移動で背後へ回り、メガホーンを袈裟懸けに振り下ろすビート。
一瞬の思考ののち、その背筋に殺気を感じ、爪をクロスさせて突き出しつつ振り向くフォルテ。
金属と金属とがぶつかり合う音が響き、火花を散らした。
「チッ、読まれたか……」
苦々しく呟きつつも、柄を両手で握り込んで渾身の力を込め、受け止められた剣を押し込まんとするビート。
しかし、押せども押せどもその刃が相手を切り裂くことはない。
逆にどんどんと、押し返されつつある。
このままではまずいと踏み、高速移動での離脱を図るビート。しかし、
「ぐあっ!」
フォルテの口から吐き出された火球が、彼の胸部装甲を直撃。衝撃で彼の身体は宙を舞い、地に叩きつけられる。
「そいつはもう見飽きたぜ」
ビートを指差しながら、そう吐き捨てるフォルテ。
「ハン、そうかよ……!」
立ち上がりながら返すビートだったが、その口調には確かな焦りが見て取れた。
その原因とは――
(クソ、もう『時間切れ』かよ……!)
耳元で鳴り響くアラートを聞きながら、心の中で呟くキョウヤ。
『時間切れ』。文字通り、ビートの戦闘可能時間の限界が迫っていたのだ。
能力行使には多大な負担が伴うのは、前述した通り。
故に、この鎧には制限時間が定められているのだ。
並みの相手であれば、それでも問題になることはなかった。高速移動で瞬間的に致命傷を叩き込み、一気に倒し切ってしまえるからだ。
しかし、いま彼が対峙している相手はそれが通用しない。
もろに入った先ほどの一撃で倒れなかったばかりか、すぐに軌道を読み切り、反撃を加えてくるほどの実力を持った敵。
キョウヤが一人前となるまでの数十年間、一人でこのメモリア全土を守り続けてきた『炎』の騎士に重傷を負わせたというのは、伊達ではなかった。
「ハハハどうした、俺を震えさせるんじゃなかったのかぁ?」
ビートの限界を悟りつつ、手を叩いてなおも煽るフォルテ。
「ッ……上等だあーーっ!」
興奮状態に陥っている彼の精神に、それはよく効いた。怒りの叫びとともに、無造作に駆け出すビート。
「かかったなぁ!」
作戦成功、と言わんばかりに声を上げ、返り討ちにするべく攻撃の構えを取るフォルテ。
しかし、ここで思いもよらぬ事態が起こる。
「オォォォォォッ!」
咆哮が、空高く轟いた。
それはビートのものでもなく、フォルテのものでもない。
では、一体誰のものなのか?
「なっ!?」
直後。突如として乱入した一つの影が、ビートを追い越し、フォルテへと襲い掛かった!
野獣の如く飛び掛かるその者の右手に握られたのは、丸鋸と短剣が合わさったような武器。
それを見たキョウヤは、思わず叫ぶ。
「ジンッ!」
そう、それは『氷』の騎士。
メモリアナイツ・レクス――ジンだった!
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