04 氷刃、そして雷鳴

「サンキュー。助かったぜ、ジン」

感謝の言葉を述べながら駆け寄るビート。

しかし、レクスは――ジンは黙って背を向けたまま。

その様子に、まさか、とキョウヤの背筋を悪寒が駆け抜ける。


(暴走……してねぇだろうな?)


というのも。レクスの変身に用いる『ダイナソー』のメモリアレコードは、太古に絶滅したとされている生物――『恐竜』の力を宿したもの。

『カブト虫』『鰐』など、他のメモリアナイツの使うものと比べると、遥かに出力が高い。

故に制御が難しく、常に抑えきれぬ破壊衝動が彼の理性を上回り、飲み込む危険性を孕んでいる。

9年間に渡る修行の末、何とかコントロールすることには成功したものの――それでも、急激に感情が昂ればどうなるかわからない。

ましてや、今の彼は知人を傷つけかけられたばかり。敵に対する怒りにメモリアレコードが感応し、暴走していてもおかしくはなかったのだ。


しかし、その心配は杞憂だったことが、すぐに分かった。

少し遅れて、レクスの頭がぴくんと震える。そして彼はビートを見つめ――


「キョウヤさん、お待たせしてすいません!一緒にアイツ倒しましょう!」

それはもう見事な、90度の礼を見せた。

その様子に安堵しつつも、ビートとレクス、2大騎士は並び立つ。


「古代の鋭牙!氷刃の騎士、レクス!」

「迸る稲妻!雷鳴の騎士、ビート!」


「「我ら、メモリアナイツ!」」

それぞれに見得を切り、敵を見据える彼ら。

「いいねぇ、そうでなくっちゃあ!」

戦える相手が増えたことに歓喜し、爪を打ち鳴らすフォルテ。


今ここに、第二ラウンドの鐘が鳴らされた――!




「グゥオ゛オ゛オ゛アッ!」


先陣を切ったのはレクス。唸り声を上げながら、体勢を低くし駆けてゆく。

そして数歩進んだところで高く跳躍、ディスクラッシャーを振り上げ、その刃を打ち下ろす。


刃が空を切り、地を抉って突き刺さる。躱されたのだ。

しかし、それで終わるはずもない。すぐさま柄を強く握りしめ、武器を軸にして回転。勢いを利用し、足払いを仕掛ける。


「そんな単調な攻撃が当たるかよ!」

余裕綽々、と言う感じにジャンプしそれを避けるフォルテだったが、彼は気づいていなかった。


この攻撃が、ただの撒き餌だという事に。


「かかったな!」

背後からの声に、フォルテが目線を後ろへやる。

そこには、高速移動を終えたビートの姿。

彼はターンテーブルを右に回していた。


『ズ・ドーン!』

音声とともに、メガホーンをまるで銃を構えるかのように持ち替え、トリガーを引く。すると――


「ぐぅ!?」

強烈な振動と衝撃とが、フォルテを襲う。

これこそ、メガホーンに備えられたもう一つの機能。

空気を振動させることにより衝撃波を起こし、対象を粉砕する遠距離武器だ。


咄嗟に腕を交差させて身を守るフォルテだったが、不意に放たれた攻撃を完全に防ぎきることは叶わず。

大きく吹き飛ばされ、何度か地に体を打ち付けてからようやく止まる。


「舐めやがって!」

そう吐き捨てて立ち上がると、今度は追撃を狙うレクスが迫る。

上体を反らして回避、お返しにと爪を振るい、胸元へ直撃させる。

ぐ、と呻きを漏らして仰け反るレクスをさらに蹴り飛ばして距離をとると、すぐさまその口から火炎弾を打ち出し追撃。

爆煙が辺りに立ち込め、視界を覆う。

やったか、と鼻を鳴らすフォルテだったが、それはすぐに覆ることとなる。


「!」

煙の中に、ギラリと2対の黄色い光が浮かぶ。

それは、バイザーの奥で光るビートの両目であった。横一文字に煙を切り払い、超加速を伴ってフォルテへと迫る。

なんの、と、振るわれた刃を躱し、受け止めるフォルテ。

柄を両手で握り込んで渾身の力を込め、受け止められた剣を押し込まんとするビート。

奇しくも、先刻と同じような状況が作り出されていた。

フォルテが火球を打ち出し、ビートを振り払えば、完璧な再演となるのだが――そうはいかなかった。


「ワ゛ア゛ァ゛ウ゛ッ!」

ビートの背後から、影が跳ねる。レクスだ。彼は前方宙返りをしつつフォルテの頭上を越えると――体を捻り、彼の延髄に蹴りを打ち込んだ。

防ぎようのない一撃を喰らい、フォルテの腕に込められた力が緩む。

その隙を、ビートは逃さない。

「セアァァーッ!」

一閃。縦一文字に振るわれたその刃が、フォルテの身体に傷を刻み込んだ。

流石に堪えたのか、苦痛の声を上げるフォルテ。


「「ハァッ!」」

「ぬぅ!」

追撃は止まらない。レクスの回し蹴りと、ビートの斬撃が同時に炸裂し、後ずさるフォルテ。


「決めるぞ、ジン!」

「ハイ!」

そして二人は互いに頷きあうと、レクスが大きく息を吸い込みだす――それを目にしたフォルテはその口から火炎放射を放ち、阻止せんとするも。


「なっ、何!?ぐぉ……」

火炎が掻き消え、レクスの口部から放たれた冷気が迫る。

それは彼の全身を覆いつくし、瞬く間に獅子の彫像を完成させた。

そしてそれを確認したのちビートは三回、ターンテーブルを右へと回し――

『サンダー!』『インパクト!』


「ボルテックシャウト!」

狙いを定め、叫ぶと同時にトリガーを引いた!

メガホーンの銃口から打ち出された衝撃波は、氷の塊となったフォルテへと向かい――その全身を、粉々に粉砕せしめた――!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る