01 ジンとキョウヤ
「へぇ、店長さんにジンさんを」
「ま、そんなとこだな。あとマスター、な」
それから10分ほど経った後。
「ちょっと借りてきます」――そう一言残し、ジンとともに出て行ったキョウヤ。
興味津々な様子のロゼッタに彼の来歴を一通り話し終え、俺は一息ついていた。
「ちょうど一年、か」
――カノン・キョウヤ。25歳、男性。身長185cm、体重は……おっと、そこまでの情報は必要ないか。
俺は彼を、子供のころから知っている。音楽が好きで、素直な子だった。
そんなあいつは今から一年前、ある少年を俺に預けてきた。
『仕事』でしばらく一緒にいられなくなるから、と。
その少年こそ――ジン・レクスウオード。
あいつは親を失って天涯孤独の身となったジンを保護し、親代わりとなって共に過ごしていたらしい。
その時、俺はある種の運命的なものを感じずにはいられなかった。
何故かって?それは、あいつの『仕事』にある。
あいつの『仕事』は普通じゃない。
人間の身体を乗っ取り、己らの完全復活を果たそうとする怨念の怪物――『ハイヴァンド』。
そしてそいつらを唯一滅することができる者。
聖なる剣と、獣の記憶を宿せし円盤を用いて戦う聖剣使い――『メモリアナイツ』。
それが、あいつの『仕事』。
そしてジンも、その道をたどる宿命にあった。
何故なら彼もまた、聖剣を受け継ぐ者だったのだから。
キョウヤはジンの師であり、親代わりでもあった。
6歳のころ、家族を失ったあいつの――いや、
家族を己の手で斬らざるを得なかったあいつの、と言ったほうが正しいか。
ぽっかりと開いてしまったあいつの心の隙間を、キョウヤは必死に埋めた。
その甲斐あってか、今じゃあの通り。
……熱血バカの、出来上がりだ。
「ふふっ……」
そこまで思い出し、俺は懐かしむように笑いをもらす。
それを見ていたロゼッタが小首をかしげていたが、まぁ気にしないでおこう。
※
「しかし、随分見違えたな。まるで別人じゃないか」
「そうっすか?」
「そうだって。一年前までは、そんな明るく話すタイプじゃなかったろ?」
「あー、確かに言われてみれば」
暖かな日差しがさす公園のベンチに隣り合って腰掛けながら、会話に花を咲かせるのは、俺とキョウヤさん。
「まぁほら、言うじゃないっすか。『男子3日会わざれば刮目して見よ』、って」
「何だそれ。意味は何となく分かるが、聞いたことない言葉だ」
あー、まずった。この世界で
「おやっさんに教えてもらったんすよ。旅行先で聞いた言葉らしいっす」
慌てて誤魔化す。
「へぇ。まぁそれはいいや。懐かしんでばかりじゃ日が暮れちまう。そろそろ、本題に移るとしようか」
「オス」
そう言うと、キョウヤさんの目つきが真剣なものへと変わる。それに合わせて、俺もまたまっすぐにその眼を見つめ返した。
「簡潔に結論から話す」
俺はゴクリ、とつばを飲み、次の言葉に備える。
「本日付で、俺はこの『北の管轄』に戻ることになった」
その言葉に、俺は思わず笑みを浮かべた。それも当然の話。
今からちょうど一年前。キョウヤさんと俺は、突然離れることになったからだ。
おおよそ九年間。親よりも長く一緒に過ごしてきた人との突然の別れに、そりゃもうぼろぼろ泣いたっけ。
理由を考えれば、仕方ないとはわかっていたけれど。
その理由こそ、二つの『管轄』にあった。
北と南。かなり大まかに分かれたこの二つの管轄で、俺たち聖剣使いは活動している。
当時南の管轄を担当していた『炎』の聖剣使い。その人が負傷してしまい、その代打として選ばれたのが、『雷』の聖剣使い、キョウヤさん。
と言っても、それは当然のことだった。何せ――
現在この世界に、聖剣使いは俺を含めてたった三人しかいないのだから。
昔はもっといたらしいけれど、今残っている聖剣は『炎』、『雷』、そして『氷』だけ。
正直、今までやってこれたのが不思議なぐらい、過酷な環境だな――改めてそう思う。
「これからまたよろしくな、ジン」
パッと笑顔を見せて手を差し出したキョウヤさん。俺はその手を取り、叫んだ。
「はい……!よろしくお願いしまーーぁす!」
「たはは、声デカいっての」
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