トラック2 雷鳴一閃、ソウルフル
プロローグ
その日は、ひどい雨だった。
一人の少年が傘もささずに歩いている。人々は彼を見るなり、囁いた。
なぜか?それは彼の風貌が、『異様』としか言いようのないものだったためだ。
美麗な装飾が付いた服は見る影もないほどに薄汚れ、目には濃い隈がはっきりと見て取れる。そして何より、全てに絶望したような、その表情。
しかし、彼は人々の視線なぞ眼中にないのかのように、ただただ歩いていた。
どこに行くわけでもない。だが、不思議と歩みを止めることはできなかった。
その足取りは重く、弱々しい。今にも倒れてしまいそうなほどに。
そんな時だった。
「どうした、少年。風邪引くぞ」
一人の男が、彼に声をかけた。細身で長身の、若い男だった。
「……ほっといて、ください」
少年は絞り出すように、言葉を返す。彼は男の横を通り過ぎ、再び歩き出そうとする。
「そういう訳にもいかないな」
だが男は、それを遮り、続けた。
「君のその『心の音』。悲しい音を、見過ごすことはできない」
「まぁ、立ち話も何だ。まずはどこかで、座ろうか」
男はにこやかに笑って見せると、少年へ手を差し出す。
「……」
少年は黙って握り返した。不思議と、振り切る気にはなれなかったのだ。
「よし。じゃあ行こう」
男はそう言うと、少年の手を引き、歩き出した――
※
「いらっしゃいませー」
カランカランと、鐘が鳴る。カフェ『スターズ』に、また一人客が訪れた証だ。
ジンはテーブルを拭きつつも入口のほうを見、言った。
しかし、その次の瞬間、彼は目を丸くすることになる。
「よう、久しぶり。元気にしていたか――と、言うまでもなさそうだな。ジン」
柔らかな笑みを浮かべながら手のひらを向けてそう言うのは、細身で長身の男。
彼の顔に、ジンは見覚えがある――否、忘れようがない。
なぜなら、その男は。
「キョウヤさん……!」
あの雨の日。全てを失い彷徨っていた自分に、手を差し伸べてくれた恩人だったのだから。
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