エピローグ

「……本当に、大丈夫なのかな」

「安心しな坊主。アイツはそう簡単にくたばりゃしねぇよ」

昼下がりのカフェ『スターズ』。客足も落ち着いた店内の一角に、ケンとバイセンは向かい合って座っていた。


母親が怪物に変えられた――初めて聞いた時、少年にはにわかに信じられなかった。当然だ。人間へとなり替わる怪物など、聞いたためしがなかったためだ。

だが、彼は同時に安堵していた。もし、それが本当に怪物の仕業だったとしたならば?あの優しかった母親が、帰ってくるのではないか。

保障なんてどこにもない。しかし、少年は最後の望みを託した。

「君のお母さんは、俺が絶対に助ける」何の迷いもなくそう言い切った、彼を信じて。


そうしているうち、ドアが開かれた。彼らが見ると、そこには――


「へへ……ただいま!」


にこやかに笑いながら手を振る、ジンの姿。その傍らには、一人の女性。


「あ……ああ……っ」


少年の眼から、ぼろぼろと涙がこぼれ落ちる。だが、それは悲しみからくるものではなく。

彼は一目散に駆け出した。


「おかあちゃんっ!」

彼は大きく広げられた腕の中へと飛び込み、その胸に顔をうずめた。

そしてくしゃくしゃの笑顔を向けた。とびきりの笑顔を。

それを横目に見ながら、何も言わずにバイセンのもとへと歩き出すジン。


「よくやった、ジン」

そう言って、彼を労わるバイセン。

「オス!……えへへ」

照れくさそうに、だが何とも嬉しそうな笑顔を返すジン。

それぞれに違った幸せそうな姿があふれる、『スターズ』。



「あの……どういう状況ですの?」

そんな様子に、ひとり首をかしげるロゼッタであった――





同時刻、どこかの廃屋。


「どうやら、アラクネがやられたようですねぇ……」

にやりと笑みを浮かべながらそう呟くのは、足を組んで椅子に座る群青のコートを纏った背の高い男性。


「ええ~、マジぃ?ないわ~」

頬杖をついて足をバタバタとさせつつ、何ともけだるげに返すのは露出の多い服装に身を包んだ少女。


「ハン、あんな回りくどい真似させてちゃあ当然だろ」

机の上に座った袖なしのシャツに身を包んだガタイのいい男性が、そう笑い飛ばす。


「次は俺に行かせろよ、暴れたくてしょうがねぇ」

「ええ、構いませんよ。あなたのお好きなように……フォルテ」

「そう来なくっちゃあな!」


フォルテ――そう呼ばれた男は拳を打ち合わせ、力を込める。

するとその眼が紅く輝いた。全身を黒い霧が覆い、変わってゆく。

数秒も経たぬうちに、そこには怪物が現れた。

獅子のごとき頭部の、筋骨隆々な姿をした怪物だ。


「この俺がズタズタにしてやるぜ、騎士ども!覚悟してやがれ!ガハハハ……」


自慢の力で、あの生意気な騎士どもを叩きつぶしてやる。

そんな思いとともに、彼は高らかに笑い声をあげた――

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